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刀匠、驚愕される

気がついたら、朝だった。なんてベタなことになってしまったわけですが。

久々にベッドで寝ることができてドロのように眠ってしまった。

寄宿舎に着いたので夕刻を過ぎたぐらいだからざっと12時間以上寝ていたことになるが・・・

まぁ、それはいいとして。

浴場に向かい汗を流す。

やっぱり広い湯船はホッとするね。

この世界が湯船に浸かる文化が在ってよかった。

シャワー代わりになっているのがお湯を発生させる魔石が組み込まれた魔道具。

着替えを済ませ、食堂へ向かうと作り置きの軽食が並んでいた。

その中から適当にサンドウィッチを取り、食事を済ませる。


「アルバスさん、おはようございます。リンネ学長補佐から手紙を預かっていますよ。」


食堂を出て部屋に一度戻ろうと思ったら寮長のアルセーヌに呼び止められた。

恐らく昨日頼んだ設備利用に関する話だろう。

仕事が早くて非常に助かる。


「ありがとうございます。ちなみにお伺いしたいんですが、学舎内の地図とかありますか?」

「案内板は学舎のいたるところに在りますが、地図として配布している物はないですね。」


地図は無いか、まぁ仕方が無い。そういうことなら案内板を見つけて場所を把握していくとしよう。

部屋に戻り、出かける準備をする傍ら、届けられた手紙の封をを開くとやはり施設利用許可を示すカードが入っていた。

それとは別に1通の手紙。


『実技教練棟1階にある鍛冶施設の利用許可が下りました。他学級の利用申請があったため、昼以降の利用となりますが、そこからであれば自由に使っていただいてかまわないそうです。それまでは王都内を見て回ってみていいかと思います。学舎の出入りの際はステータスプレートを提示すれば自由に出入りできます。』


実技教練棟か・・・。本館もまだ見て回っていないが、そこにしかないなら仕方があるまい。

ただ、やはり午後から利用できるとのことだから、まずは手紙にある通り、王都を見て回ってみるとするか。

それに、冒険者ギルドへも向かわないといけないことだし、早速行くとしよう。

鞄を肩に提げ、一路西地区中心部へ向かう。


寄宿舎を出て、正面門へ向かう。

やはり昨日は緊張していたのだろう。道すがら周りを見回すと多くの人が行き交っている。

昨日も恐らく同じくらい人が居たはずだが、やはり初めて来る場所は知らず知らずのうちに緊張する物のようだ。

同じくらいの年齢の子が多く、やはり今年入校する生徒なのだろう。

ここは寄宿学校ではあるが、王都内に自宅がある生徒は自宅から通うことも可能なので、上級生とおぼしき生徒が校門を抜け、本館へ向かって歩いているのを見受ける。

門番にステータスプレートを提示して生徒達とは逆に王都内へ向かう。

目指すは西地区。といっても隣接しているため直ぐに着くだろう。

商業地区は至る所に店、店、店。

武器屋、鍛冶屋、雑貨屋、魔道具店。

いろいろな種類の店が軒を連ねている。

大通りを進んでいくと、一際大きな建物が目の前にそびえ立つ。


「ここが冒険者ギルド・・・。これまたでかいな・・・。」


寄宿学校ほどではないが、冒険者ギルドの建物もそこそこでかい。

王都のギルドともなると人も集まるからそれに応じて規模も大きくなるわけか。

さて、問題はちゃんと相手をしてくれるか、どうかと・・・。

ギルドの入り口を潜り、中に入ると思ったよりも明るかった。

なんとなく、冒険者ギルドといえば荒くれ者が多い場末の酒場的な印象が強かったが、ここはどっちかというと大きな役所のような清廉な雰囲気をしている。

正面には受付であろうカウンターが並んでおり、同時に複数人応対できるような作りになっている。

新規受付と書かれたカウンターへ向かうと、20代くらいの男性が柔和な笑みを浮かべて待ち構えていた。


「いらっしゃいませ。冒険者ギルドに登録でよろしいですか?」

「はい、昨日王都に到着したばかりなのですが可能でしょうか?」

「ええ、もちろん大丈夫ですよ。ステータスの確認をさせていただきますので、ステータスプレートのご提示をお願いします。」

「はい、どうぞ。」


ステータスプレートを取り出し、相手に見えるようにステータスを提示する。

もちろん、隠蔽はしっかりする。


————— ————— ————— ————— —————


Name:アルバス=セルタニス

Age:12

Lv:5

職業:

体力:500/500

魔力総量:45/45

力:200

知力:120

敏捷:100

器用さ:400

運:8


スキル(基礎スキル):魔法適正(中)、武術適正(中)

スキル(術技スキル):剣術Lv3(MAX10)鍛冶術Lv2(MAX20)

スキル(加護スキル):女神の祝福


————— ————— ————— ————— —————


うん、今回も無事隠蔽できてるな。けどこれ、正直毎回毎回全部のステータスに隠蔽かけるの大変だな・・・。

というよりも、数字を間違えてしまいそうで怖い。


「はい、確認させていただきました。こちらの書類にサインをいただけますでしょうか。」


受付から渡された書類には今表示したステータスがしっかりと転写されている。

この世界だと白紙というのは生産が難しいらしく未だ出会ったことはない。

この書類も羊皮紙が使われている。

インクからわずかだが魔力を感じるということは魔法的な契約が含まれてるのだろうか?


「あ、説明が不十分で申し訳ありません。この書類はステータスプレートの情報を転写した物を、ギルドカードに転写することを許諾する書類です。サインをいただきますとこちらのギルドカードに簡易ステータスが転写される仕組みになっています。このギルドカードにはスキルは記載されませんので簡単な身分証明書の代わりとして利用いただけます。」


羊皮紙と併せておいてあったカードサイズのプレートに確かにギルドカードと記載されている。

これはラッキーだ。これで当面の間は隠蔽をいちいち使わなくても済む。

羊皮紙にサインをし、受付に手渡す。


「はい、確かに確認いたしました。これで登録は完了致しました。続けてギルドの規約に関してご説明しても宜しいですか?」

「お願いします。」


受付からギルドカードともう一枚羊皮紙を受け取りながら説明に耳を傾ける。

冒険者が受けられる依頼はそれぞれの冒険者ランクで決まる。

ランクは下から順番に

G→F→E→D→C→B→B+→A→A+→S→S+→SS

となっている。

ランクが上がるには一定数の依頼達成が必要になる。

上に上がれば上がるほど、条件は厳しくなり、Aランク以上に上がれるのはほんのひと握りだと言われている。

Bランクまでは依頼達成だけで上がれるがそれ以上になるとギルド全体での審査があり、それをパスした上で試験を受ける必要があるとか。

・・・まぁそこまで俺は求めないから今は聞き流すけど。

それから加入費、継続費用はなし。冒険者どうしでの諍いにギルドは一切介入しない。ただし、殺人やそれに準ずる犯罪行為は厳罰が課せられる上、各地域事の法に則って処分される。

まぁ当たり前だわな。

最後に、他のギルドへの加入は問題ないとのこと。

商人ギルド、生産者ギルドなど他にも互助組織は存在するため、自分の技能にあったギルドを掛け持ちすることは寧ろ奨励されている。


「アルバスさんは鍛冶術をお持ちで、デュッセイア寄宿学校へ入校されるとの事。それでしたら鍛冶師ギルドへの加入も推奨しております。紹介状を準備できますが、如何されますか?」


紹介状は嬉しいけど、今のところまだ大々的にどうこうするつもりもないからな


「いえ、取り急ぎは不要です。必要になったらまた相談させてください。」

「かしこまりました。説明は以上ですがなにか他にございますか?」


あ、そうだ、ついでだからあの件も聞いておくか。


「登録したばかりですが、魔物の買取って、お願い出来ますか?」

「はい、可能ですよ。買取は左奥の扉から出ていただいた先に解体所があります。そちらに持ち込んでいただければできますが、どちらに?」


王都に来る道中で狩ったシルバーファング。買い取って貰えそうで良かった。


「えっと、ちょっと特殊な技能なんですが・・・。」

「・・・なるほど、理解致しました。スキルを隠すのも処世術ではございます。どうぞご安心を、詮索は致しません。なにか困り事がありましたらいつでもご相談ください。」

「ありがとうございます。ではこれで失礼します。」


やっぱり隠蔽する人はそれなりにいるんだな。ということは隠蔽術はそこまで特殊じゃない・・・あれ、これ逆に学長俺が色々隠蔽してるの気づいてるんじゃないか・・・・?

疑心暗鬼になりつつも受付に教えられた解体所へ急ぐことにする。

左奥の扉から入った先は倉庫になっており、それなりの大きさの魔物ならすっぽり入りそうだ。

外側からも入れるようになっており、今も荷車に乗せられた大小様々な魔物が運び込まれている。

受付と思しきカウンターでせかせかと計算に勤しむ小柄な男性を見つけた。


「あの、すみません。魔物の買取と解体をお願いしたいのですが。」

「ん?ああ、いらっしゃい。ちょっと待っててくれ。すぐ終わらせっから。」


こちらをちらっと一瞥したあと急ぎで計算を終わらせてカウンターの上を片付けていく。

見かけとは裏腹に豪快で野太い声。

あれ、もしかして


「失礼ですが、ドワーフ、の方ですか?」

「ああ、そうだ。南方はライバッハ山脈に居を構えるライバッハドワーフ族の誇り高き戦士、ゴン=ライバッハよ。お前さんドワーフは初めて見るか?」

「ええ、昨日王都に着いたばかりで、地元では他種族の方にお会いしたことがなかったので。」


ゴンと名乗ったドワーフは俺より頭1つ低い見た目だが、衣服の上からでもわかる筋肉質な体格。

初めてあったわ、他種族の方。


「おう、そうなんか。このデュッセイアにいればいやでも目につくぜ。ドワーフにエルフ、獣人達。まぁ他の連中は各地の自分の縄張りにいるだろうが、商人の連中はくっかもな。」

「そうなんですね。それは楽しみです。」

「そいつはそうと、買取に解体だったか。ものはどこでい?」

「あ、えっと収納魔法でしまってまして、どこに出せばいいですか?」


収納魔法というフレーズに一瞬ゴンは眉をピクっと反応させたが流石はプロ、それだけだった。


「・・・なるほどな。そういうこったらこっちだ、着いてこい。」


カウンターから出てきたゴンが衝立で仕切られたスペースに案内してくれた。どうやら気を使ってくれたようだ。


「すみません、ご面倒を掛けます。」

「何、いいってことよ。お前さんくらいの歳で収納魔法使ってるところを見せちまったら、周りが何を言うかわかりゃしねぇ。ここなら大丈夫だ。とりあえず、出してみろ。」

「えっと、それじゃあ・・・。」


手の平に魔力を少し流す。空中に少し口が開き、そこに手を入れて引っ張り出す。

街道で倒したままの状態でシルバーファングを引きずり出した。


「おいおい、シルバーファングか?お前さん今のランクは?」

「えっと、今日登録したばかりで、まだGですが・・・。」

「待て待て待て!!CランクのシルバーファングをGで倒せるわけがねぇだろ?!いや、もしくは死体を拾っただけか?」

「いえ、きっちり仕留めました。運が良かったんですよ、ええ。一応しとめた武器もここにあります。傷口を見てもらえばわかるかと。」


まぁ、うん、信じられるわけないよね。

俺自身失敗したなって思ったけど、先立つものは金です。疑われてもいいからまず買取ってもらわないと。

腰に提げたショートソードをゴンに手渡し、見てもらう。


「・・・確かに致命傷を与えてる傷口にピッタリ一致するな。だが、この剣で・・・。お前さん、ステータス見せてみろ。」

「えっと、はい、これです。」


受付で受け取ったばかりのギルドカードを提示するとステータスが表示される。


————— ————— ————— ————— —————


Name:アルバス=セルタニス

Age:12

Lv:5

職業:

体力:500/500

魔力総量:45/45

力:200

知力:120

敏捷:100

器用さ:400

運:8


使用武器:ショートソード


————— ————— ————— ————— —————


「・・・なるほどな。お前さん、訳ありか。」

「えっと、それはどう言う」

「いや、いい、今は言わんでもいいわ。だがお前さんが話してもいいと思った時でいい。話してくれぃ。それまではランク相応の依頼を受けて買取に回すこった。だが、そうもいかねぇ時は俺のところにこっそり持ってこい。黙って買取してやる。」

「は、はい・・・。」


これは、どっちだ?ステータスを隠蔽してることがバレたか、それとも別口??いやまぁどっちにしても気づかなかったことにしてくれるって言うなら、とりあえずそういうことにしておこう、うん。口は災いの元だ。余計なことは口走らないようにしないと。


「それで、買取と解体だったな。手元に残したいものがないなら、一頭買いしてやるが、どうする。」

「あ、それならそれでお願いします。肉は肉屋にとか言われるのかと思ってましたんで解体と言ったんですが、正直まとめて買い取っていただけるならそれに超したことはありませんので。」

「わかった。ちっと査定するから少し待ってくれ。」


ゴンは腰に提げたナイフを取りだし、おもむろにシルバーファングの首の付け根を切りつけ、足に紐を掛け滑車で吊るしていく。

なるほど、血抜きか。今度魔物を狩る時は血抜きもした方がいいのか。

なんて考えているとゴンが個室から出ていき、数分後、革袋を持って帰ってきた。


「すまねぇ、待たせたな。シルバーファングまるまる一頭買取で金貨1枚だな。学生だったら細かい方がいいだろうから銀貨100枚で支払おうと思うが、いいかい?」


・・・今なんて言った?


「金貨1枚、ですか?」

「ん?少なかったか?だったら」

「いやいやいや、逆です、逆!!シルバーファングは確かにCランクの魔物ですが、一頭買いでもそこまで高額な値段つかないですよね?加工できる素材のことを加味したとしても、せいぜい大銀貨5枚くらいじゃないですか?」


額が大きすぎてちょっと混乱。まくし立てるように言ってしまったがこれは事実のはずだ。

実際以前グレイの書庫で見た魔物図鑑でも、シルバーファングは牙と爪、それに毛皮を武具や防具に利用されるが内蔵や肉類は家畜の餌にはするが食用には向かないと見た事がある。

それを考えれば金額はそれが妥当なはずなんだが・・・。


「いや、間違っちゃいねぇ。俺の見立てでは、こいつハグレだろ?」

「え?ああ、確かにその通りです。領都からここまでの道中で遭遇したハグレであるのは確かです。」

「だろうな。お前さん、他にシルバーファングに出会ったことあるかい?」

「いえ、無いですけど・・・。」

「だったらわかんねぇはずだわな。こいつはな、デカすぎるんだ。」


はい?どういうこと?


「こいつらが生息している地域からお前さんが遭遇したところまで、長旅を経て通常種よりもでかく成長していたって訳だ。通常のシルバーファングで全長凡そ120cm程度。こいつは2mもありやがる。こんだけでかけりゃ、貴族の連中が毛皮を絨毯にって欲しがる。それにここまで立派な牙だ。獣骨系の加工職人からすれば大枚はたいてでも買い取りてぇだろうよ。それに何より、数日経過しているのに一切腐乱してねぇ、新鮮そのもの。これだけの上物なかなか入らねぇからな。それも踏まえて総額金貨1枚だ。」


うん、想像以上に大物狩っちゃったらしい。そりゃこの人驚くわ。てことは上位種なりかけでBに足かけてた個体でしょ。

うわー・・・トニーが魔物の知識浅くてよかった・・・。

それに収納魔法を活用すれば買取も有利になることがわかった。これはいい収穫だな。


「は、はい、それで大丈夫です、はい。」

「おう、それじゃあこれが代金だ。」


重そうな革袋がどんと机に置かれる。銀貨100枚、きっちり詰まっていた。


「またなにか狩ったら俺ん所もってこい。気前よく買取ってやるからよ。」

「あ、はい。とりあえず、しばらくはランク相応の依頼受けときます。」


ゴンに別れを告げてギルドを後にする。

鞄に収めた銀貨が重い。

ちょっと、収納魔法を活用できないか本気で悩むがとりあえず今はいい、次だ次。


「今は何時くらいだろう。」


当たりを見渡すと近くの広場に時計があった。

まぁ時計と言っても正確に時間を示すものではなく日の高さを知らせるもので、今はまだ日が真上に登る前、昼前くらいを指している。

施設利用まで若干時間あるな。


「お、屋台が出てる。何か買っていこうかな。」


さすが商業区。広場でもしっかり商売をしてる。

串焼きの屋台が多いな。

適当に手近な屋台で串焼きを調達して、寄宿学校に戻りながらかぶりつく。お値段銅貨3枚。


「お、予想以上にうまいじゃん。もう一本買えばよかったかな。」


寄宿学校まであと僅かというところで、横合いから誰かが飛び出してくる。


「どいてどいてどいてー!!」

「お、おぉう?!」


ドンッ!!

ぶつかった反動でよろけてたがすぐに体制を立て直そうとするがぶつかって来た相手の勢いに巻き込まれそのまま倒れこんでしまう。


「いてて・・・ご、ごめんなさい、大丈夫?!」

「あ、あぁ、大丈夫ですよ。」


覆いかぶさるように倒れこんできたのは同じ年くらいの少女。

大きな荷物を手にしたその子は綺麗な薔薇色の髪をしていた。

立ち上がり少女の手を取り立ち上がると、その子は何度も頭を下げていた。


「ごめんなさいごめんなさい、急いでいたもので・・・!!」

「ああいや、怪我はなさそうでよかった。」

「あ、ありがとう・・・。今日到着したばかりで、明日入校式だから急がないとと思って・・・。」

「入校、ということは寄宿学校に?」


この大荷物だから予想はできたが、やはり同級生のようだ。

陰っていた少女の顔がわかりやすく喜色満面に代わる。


「ええ、そうなの!ってことはあなたも?」

「ああ、俺は昨日到着したばかりでね。」

「そうなんだ!私、アニータ=エル=フェルナディス。よろしくね!」


ニコニコと笑顔を向けてくるアニータ。

家名に聞き覚えはあるが、あえてここはスルーするとしよう。

どうせ明日にはわかることだ。


「俺はアルバスだ。よろしく。立ち話もなんだ、寄宿学校まで歩こうか。」

「ええ、そうね。そうしましょう。」


寄宿学校までは数分の距離だったがアニータの話興味深いものが多かった。

ここまでの道中で立ち寄った街の話、地元で取れたミスリルが近年で最高量を記録したこと。

入校を記念して譲り受けたレイピアを自慢されたり。

とにかく、元気な子だ。


「お嬢様!!」

「あ、セルバ!じゃあね、アルバス!また明日!」


門前で立っていた燕尾服の男性のところにアニータが駆けていった。

どうやら従者の人のようだ。

そのまま案内に出てきていた使用人(フットマン)とともに門をくぐって本館の方へ向かっていく。


「まるで嵐のような子だったな。同じクラスになったりして、なんてね。」


門柱につけられた時計を見るとちょうど昼を過ぎたくらいの時間だった。

確か実技教練棟1階だったな。

まずは本館へ向かおう。

到着した生徒たちが今朝よりも多い。

遠方からくる生徒も多いからかやはり直前に到着する生徒のほうが多いようだ。

本館に入り、案内板を確認して実技教練棟を目指す。

実技教練棟1階入り口に衛兵が立っている。


「すみません、ミネルヴァ学長の許可をいただき、鍛冶施設を利用させていただけることになっているのですが。」

「ああ、君がアルバス君か。ステータスプレートを提示してもらえるかな。」

「はい、どうぞ。」

「ありがとう。ここの入り口からまっすぐ奥に進んで右手に鍛冶施設がある。中のものは自由に使ってもらって構わない。それからミネルヴァ学長から多少なら中の素材を使っても構わないと言われている。」

「あ、ありがとうございます。」


これはラッキー。よし、とりあえずまずはこの剣を鍛えなおして、あとはそれから考えよう。

教えられた場所に向かい扉を開く。

中に設置された設備を見て懐かしい気持ちがこみあげてくる。


「・・・転生して早12年か。本当に、久々だな。」


鉄を溶かす溶鉱炉、風を送る鞴、金床に金槌。

炉に石炭を入れ、火をつける。


「やっぱり、炉の火を見ると思い出すな。」


鞴で風を送り、火力を上げる。

燃え上がる炎を眺め、心が高ぶる。奥底から力が溢れてくる。そんな感じがする。

ふと金床の上に置かれた金槌が目に入る。

おもむろに持ち上げると、頭の中に声が響いてくる・・・?!


『ようやっと鎚を握ったのぉ。お前さんには期待しておるんじゃ。』


聞いたことがない荘厳な声。

聞いたことはないが、この感じ、覚えがある。


「誰だ・・・?!」

『儂は鍛冶を司る神。名をフェルガナス。お前さんに儂からの贈り物を届けに来たのじゃ。』


頭の中に響く声と共に、何かが体の中にしみこんでくる感覚。

これは・・・?


『時が来れば、芽吹くやもしれぬ。今はまだその時ではないがの。まずは、励め。楽しみにしておるぞ。』


その声を最後に、頭の中に響いた声は聞こえなくなり、ただただ炉の中で炎が燃える音だけが部屋の中に静かに響いていた。

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