刀匠、驚愕する
翌日。
祝福の儀が行われる日。
昨晩は早々に眠ることができた。やはり楽しみだからだろうか?
「おはようございます、アルバス様。お召し物をお持ちいたしました。」
「ありがとう、ルーシャ。」
メイドのルーシャが着替えを持ってきてくれたので早速着替える。
転生してから10年。前世の記憶をたどってもここまで質のいい服は着たことが無い。
まぁ、貴族の家だから当たり前か。
食堂に向かうとすでに他の家族がそろっていた。
「おはようございます。」
「おはよう、アルバス。今日は祝福の儀だな。食事を済ませたら教会へ向かわねばな。」
グレイ=フォン=セルタニス。
セルタニス家現当主で、俺の父親。
辺境伯として領内の視察や王都へ出向いたりと忙しいが、今日は俺の祝福の儀があるから公務も無く、共に食卓に着くこととなった。
「あら、アルバス、おはよう。ぐっすりと休めたみたいでよかったわ。冷めないうちにいっぱい食べなさい。」
「そうか、今日はアルバスの祝福の儀か。どんなスキルかな、楽しみだ。なぁ、エド。」
「そうだね、兄さん。チャールズがアルの剣技の上達に目を見張っていたし、剣神の祝福とか授かってるかもしれないよね。」
母であるイルーシャと長男のクレイン、次男のエドワード。
彼らと食卓に着くのはいつぶりだ?
そんなことを考えながら着席する。
「剣神様の祝福は無いと思いますよ。あはは・・・。いただきます。」
苦笑いを浮かべながら食事を始めることにする。
この世界のこと、転生してから色々調べてみたが、前世で幼い頃に遊んだゲームの世界のように、
ステータスが存在するらしい。
しかし、自分自身のステータスを確認できるようになるには祝福の儀を受けなければならない。
それがこの世界のルール。
だからといって儀式を受けられるようになる10歳までの間に鍛錬したことが無駄になるわけではなく、それまでの鍛錬や経験がステータスやスキルに反映する。
ただし、もちろん得手不得手は存在するらしい。
いくら鍛練を積んでも魔法の才能を開花させることができない者や武術が人並み以上に伸ばすことができない者、手先が不器用で鍛冶や裁縫といった生産職に向かない者。
もちろんそれすらも努力でねじ伏せて上り詰める者もいるようだがかなり厳しいこと、女神の祝福を持つ者には劣ってしまうこと。
まぁ俺自身、この10年で剣術だけは習うことができた。辺境伯家と言うだけではなく、代々騎士を輩出している家系だったみたいでその名残なのか皆剣術には通じるところがあるとか。
その反面、魔法とか加工とかそういったことはからっきし。
母は元々子爵家の次女で、魔法師の家系だったらしいけど、父の血が濃いのか今まで上の兄たちに魔法の才能が現れたことは無いらしい。
ちなみに今は居ないが我が家に一人だけ姉が居る。
だがまぁ、それは今はいいだろう。
それから、騎士の持つ武器と言えば両刃の直剣に盾。まるっきり西洋の貴族みたいだ。
刀がこの世界に存在するのかは正直わからない。
けど、あの女神が言ったことが確かならこの世界にも存在するはず。
無かったとしても前世の記憶がある俺は再現することなんて造作もない。
・・・まぁ、その為には鍛冶場を作るところから始めなければいけないと思うといつになるやら。
用意された食事を平らげ、食後の紅茶を飲み干したところ、父が声をかけてきた。
「さて、アルバスも食事を終えたようだ。向かうとしようか。」
「はい、父上。」
グレイに続き二人の兄も席を立ち玄関へ向かう。
さぁ、いよいよ自分の力を知ることができる。
鍛冶に向いた力があるといいんだが。
「ま、言ってみればわかるか。」
緩んだ頬を引き締めて兄たちの後を追い教会へ向かう。
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「セルタニス辺境伯様本日は良くおいでくださいました。」
「司教、今日は我が息子の祝福の儀を執り行っていただくこと、感謝いたします。」
街の中央にそびえ立つ大聖堂。教壇の前でグレイが司教と挨拶を交わしている。
「ご無沙汰しています、司教様。今日はよろしくお願いいたします。」
「アルバス様、良くおいでくださいました。こちらこそ貴方様の祝福の儀を行えますこと大変うれしく思います。こちらへお越しください。」
柔和な笑みを浮かべた司教が腰を折る。
司教に促されるまま、礼拝堂の奥、儀式の間に向かうこととなる。
「では、ここから先はアルバス様のみにお入りいただきます。辺境伯様方は隣でお待ちください。シスター。」
「はい、司教様。では皆様、ご案内いたします。」
控えていたシスターが先導する形で儀式の間とは別の扉を開いてグレイたちを誘導する。
「でわな、アルバス。いい結果を期待している。」
「はい、父上。」
グレイたちが部屋に入ると、儀式の間の扉が開かれる。
中に入るとそこは真っ白な部屋だった。
真ん中には石でできた台座があり、その上には一際大きな水晶が置かれている。
水晶の中には光が満ち、輝いているように見える。
「では、アルバス様、水晶の前に立っていただき、手をかざしてください。」
「わかりました。」
水晶に近づき、手をかざす。
とても暖かい光が手のひらを通して伝わってくる。
この暖かさ、覚えがある。
忘れるわけが無い、この世界に生まれ居ずる時に通った神界。
あそこと同じ暖かさを感じる。
そうか、これが・・・。
「大いなる女神アルセナス様、彼の者、アルバスへ祝福を与え給え。」
司教が唱えた祝詞の直後、水晶が一段と輝きを増す。
光がだんだんと収まり、辺りに静寂が訪れる。
「アルバス様、これにて祝福の儀は終わりました。ご自身のステータスを確認する場合、ステータスオープンと唱えると確認することができます。ご自身しかその状態では確認することができませんのでご注意ください。
それと、ご自身のステータスを提示する場合、こちらをご利用ください。」
司教から1枚の鉄の板を手渡される。
名刺くらいの大きさをしたその板には『ステータスプレート』と彫られている。
「こちらがアルバス様のステータスプレートでございます。ご自身のステータスを確認した後、それを手にしたまま再度ステータスオープンと唱えるますとどなたにでも貴方様のステータスをお見せすることができます。」
「なるほど、便利ですね。ありがとうございます。」
「では、私はこれで失礼いたします。ご自身のステータスを確認した後、皆様の元へお戻りいただければ大丈夫です。
アルバス様へよき祝福が在らんことを。」
司教は一言残し、一人奥の部屋へ戻っていった。
「父上達のところに戻る前に、確認しておくか・・・。ステータスオープン」
自分の目の前に薄らとした映像が表示される。
そこには自分の名前と共に、ステータス、授かったスキルが映っていた。
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Name:アルバス=セルタニス
Age:10
Lv:15
職業:
体力:1500/1500
魔力総量:450/450
力:2000
知力:1200
敏捷:1000
器用さ:4000
運:800
スキル(基礎スキル):成長補正(特大)、魔法適正(特大)、武術適正(特大)、技能適正(特大)
スキル(術技スキル):剣術Lv5(MAX10)、火魔法Lv2(MAX10)、風魔法Lv1(MAX10)、土魔法Lv2(MAX10)、隠蔽術LvMAX、鑑定LvMAX、鍛冶術Lv5(MAX20)
スキル(加護スキル):女神の寵愛、鍛冶神の寵愛、剣神の寵愛、魔神の寵愛、
備考:アルセナス神からのメッセージ 神々が貴方への贈り物を贈りたいってことだったから、いろいろとスキルもりもりになっちゃった
ステータスプレートを使うとき、隠蔽術でスキルはある程度隠して置いてね。
新しい人生に祝福あれ
あ、たまにでいいから教会でお祈りしてね。
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「・・・・・・・・・・・・・は?」
自分のステータスを見てめまいがした。
ステータスを見て驚き、スキルを見て卒倒しそうになった。
なんだこの数値。
一般成人でもいいところ体力900、力800とかで騎士への推薦が受けられるのだが、軽く2倍近いステータスがある。
あと器用さ4000ってなんだ?!運の数値もおかしすぎる・・・
スキルの数だってそうだ、兄上たちですら武術適正(中)と剣術や槍術といった適正スキルが2~4
つ程度って聞いたぞ。
成長するにつれて新たなスキルに目覚めることもあるとは聞くけど・・・。
それでもここまでの数って・・・。
オチは備考・・・人のステータス欄を手紙感覚なのか?あの女神・・・。
神々・・・俺の前世の行いが功を奏したのかもしれないけど、やり過ぎだ。
だが、まぁ・・・。
「・・・やりのこしたことをなすには、ちょうどいいか。神々に感謝だな・・・。」
正直驚きすぎていたが、改めて確認すると何とも都合がいい。
もちろんスキルのレベルを上げるためにはこれからの努力が必要だが、なすべきことのために必要なスキルは十分ある。
まぁ、鍛冶術がLv5なのが気になるが・・・。
スキルと向き合う為に少なくない時間が経っていたため急ぎ父上達のところへ戻ることにした。
あとは鍛錬をしながら確認するしか在るまい・・・。
「お待たせしました、父上。」
「おお、戻ったかアルバス。早速だが見せてくれ。」
礼拝堂に戻るとちょうどグレイ達も戻ってきたところだった。
皆が見守る中、先ほど受け取ったステータスプレートを懐から取り出した。
「ステータスオープン。」
魔力が少量ステータスプレートに流れ、薄らと薄い光が眼前に現れる。
今し方覚えたはずのスキルの使い方が脳内を駆け巡る。
自分のステータスが全て表示される前に女神からの伝言通り、ステータスの一部を隠蔽することにした。
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Name:アルバス=セルタニス
Age:10
Lv:5
職業:
体力:500/500
魔力総量:45/45
力:200
知力:120
敏捷:100
器用さ:400
運:8
スキル(基礎スキル):魔法適正(中)、武術適正(中)
スキル(術技スキル):剣術Lv3(MAX10)鍛冶術Lv2(MAX20)
スキル(加護スキル):女神の祝福
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正直、ここまで隠蔽できるとは思っていなかった。
まぁこれで家を出るまではそこまで角が立つことは在るまい。
いずれ家を出た後は、隠蔽せずに堂々とできる立場・・・は、正直いらないけど、まぁ隠匿しなくていい程度には力を付けるべきか。
目の前に現れたステータスを見て、グレイ達が眼を見張っていた。
「おお、今日の祝福を受けたばかりですでにレベルが5も・・・」
「それに、魔法の適正も在るなんて、やっぱりアルバスは優秀だね。」
「祝福は女神様のものか・・・あれ、珍しい、鍛冶術も持ってる・・・?」
・・・鍛冶、隠しとけばよかった。そういえば我が家の家系、過去に一度たりとも鍛冶術に目覚めたものは居ないんだったな。
先祖返りともいえない、さて、どうしたものか・・・。
「アルバス、良くやった。剣術の稽古では既にチャールズに一太刀与えるほど。これからも研鑽に励みなさい。」
「ありがとうございます、父上。」
満足そうな笑みを称えたグレイと二人の兄と共に礼拝堂を後にする。
なんとか、ごまかせたみたいだな。
さて、これから先の身の振り方、考えないと・・・。
屋敷へ戻る馬車の中、じっくりと考えを巡らせる。
転生する前は毎日のように刀を打ち続けた。
やれ展示をするために大太刀を、といった依頼や、ただのコレクターたちからの依頼。
もちろん自分の腕を磨くためにひたすら毎日毎日炉に向かって鎚を振るった。
ただ、ひたすら、無心で。
それなりに鍛えていたはずだが、老化には叶わなかった。
だが今は新たに転生し若い体を手に入れた。
ここから先、新たに手に入れた自分の力を使ってどんなことをしようか。
まだ見ぬ鉱石を探し、新たな剣を鍛え上げる?
それとも冒険者として英雄譚を作り上げる?
いや、どちらにしても、まずは自分のこの力を使いこなせるようになる必要がある。
それに、前世の経験は知識として残っているのに鍛冶術のレベルが低いことが気に掛かる。
もしかしたら、この世界の鍛冶は・・・
「さぁ、着いたぞ。アルバス、どうしたのだ?ぼーっとして。」
「あ、いえ、ちょっと考え事をしておりました。」
グレイから声をかけられて我に返った。
どうやら家に着いたようだ。
いかんいかん。昔から考え事をし始めると周りが見えなくなる。気をつけなければ。
「父上、書庫へ入ってもよろしいですか?」
「ん、書庫か。わかった、かまわんぞ。何を調べるのだ?」
屋敷へ歩きながらグレイへ頼むとそんなことを聞かれた。
そりゃ決まってる。
「はい、せっかく魔法適正をいただいたので少し魔法の勉強をしたく思いまして。」
「おお、そうかそうか。我が家は代々騎士の家系だが、大叔母上が魔法に対して深い興味を持っていらしたからな、それなりには蔵書があったはずだ。夕食までは好きに見てかまわん。」
「ありがとうございます、父上。」
よし、これは運がいい。昔から本を読むのは得意だ。夕食までの時間だとしても、それなりの量は読めるはずだ。
屋敷に入りまっすぐ書庫へ向かう。
「おー・・・こりゃ、予想以上の量だな・・・。」
書庫の扉を開け放つと、書庫というよりも図書館だな、これは。
転生してからこれまでの10年で書庫に入ったのはこれが初めて。
興味が無かったわけでは無いが、正直自分のスキルが確認できるまでは無作為に知識を付けることに抵抗があったのは確かだ。
まずは目的の書籍を探さなければならない。
それだけでも優に100冊は超えてそうだが、背に腹は変えられんか。
「さーて、早速始めますかね。」
魔力の扱い方、魔法の種類、魔方陣の描き方、魔法の使い方・・・
おいおい、同じような内容だけでどんだけ種類があるんだよ・・・。
これは1日では無理だな、うん。
それからは毎日書庫通いが始まった。
もちろん剣術稽古もあるし、講義もある。
寄宿学校へ通うのはまだ先だが、家庭教師から基本的な知識の講義やマナー講義。
この先貴族としての暮らしは数年は続くわけだからやってて損は無いわけで。
それらが終わったら毎日書庫、書庫、書庫。
講義がない日は近くの森へ行って魔法の復習をする。
基本的な魔法の練習だ。
魔力の扱い方は最初の数日で感覚をつかむことができた。
それからは毎日自分の中で魔力を循環させ、魔力を鍛え続けた。
簡単な火を起こす魔法は何回か使い続ける内に今では強弱のコントロールも難なくこなせる。
魔法には基本的に2種類の発動方法がある。
一つが呪文を用いた『詠唱魔法』。
もう一つが魔方陣や刻印を用いた『媒介魔法』。
宮廷魔法師や冒険者が使うような魔法は基本詠唱魔法に分類されるものを用いる。
媒介魔法を使うのは儀式を行ったり、戦争で大規模魔法を使ったり、使役精霊を召喚する為に使ったり・・・。
そして、生活面を支える魔道具にも用いられている。
正直、魔法に関しては転生してから付けた知識がほとんどだが、転生前のゲームや小説で見聞きしたことも在って、難なく取り込むことができた。
火を起こし、風を吹かせ、土壁を作る。
そしてまた書庫で知識を再獲得する。
明くる日も明くる日も、来たるべき日のために。
それから2年。
12歳の誕生日を迎え、晴れて寄宿学校へ入学する年。
「2年でなんとかできることは増えたな・・・。」
何もない日に訪れる森の広場で、俺は空中に胡座をかいていた。
風魔法の応用『浮遊』。
一応、寄宿学校で魔法を専攻する場合、5年次に習得する魔法らしい。
らしいというのも、書物には情報としてあったが、呪文は載っていなかった。
それがなぜ今できているか。
この2年でわかったことだが、魔法というのはイメージを元に魔力を循環させて現象を発現させることにある。
ということは、魔法をうまく応用すれば呪文が無くても発動できるのでは?ということに思い至った。
とどのつまり、できちゃったわけだ。
ここから先は寄宿学校で再度書庫に入って色々学べればいいなと思っている。
ただ、ここ2年で残念なことも在る。
それは、鍛冶に関する知識について、街にでて見る機会が在った。
だが、正直言ってお世辞にも素晴らしいとはいえなかった。
必要な道具や炉に関しては申し分なかったが、火力が余りにも弱く感じた。
こればかりは今はまだ踏み込むことができない。
寄宿学校に入学してから学べばいい。
「アル、迎えの馬車が来てるよ。準備はできてるのかい?」
「エドワード兄さん、ありがとう。準備はできているから、直ぐに向かうよ。」
森の入り口からエドワードの呼び声が聞こえた。
魔法を解き、荷物を手に持って屋敷へ向かう。
屋敷の前には馬車が止まっており、既に荷物が積み込まれている。
「アルバス、来たか。」
「お待たせしました、父上、母上。」
「気をつけて行ってらっしゃい、アルバス。」
両親と兄弟が並んで見送りしてくれるとはね。
「行って参ります。」
「ああ、勉学に励むといい。」
軽くうなずき、馬車に乗り込み、御者に声をかける。
ゆっくりと馬車は動き始め、アルバスを乗せて走り出す。
目的地は王都デュッセイヤ、そこにそびえる名門寄宿学校、デュッセイヤ寄宿学校。
王侯貴族や有能な市民が通う学舎がこれからアルバスの向かう場所。
「さぁ、ついに始まる。俺の新しい人生の幕開けだ・・・!」