刀匠、指示をする
いつもお読みいただいてありがとうございます。
ジェシカ達が屋敷に越してきてから1週間。
対抗戦までの準備期間は残り2週間を切っていた。
対抗戦へ向けた準備で今不足していることは各員の武器と技術の確認だった。
そこで翌日は冒険者ギルドへ赴きパーティ登録の変更と、依頼を受けて連携の確認を行っていた。
お互いの得意不得意は学校でも話をしたとおり、だいたいは把握していたが、実際は実戦を見ないと完全には掴むことが出来ない。
アニータとオレインは何度も一緒に戦っているからだいたいの癖や出来ることは把握出来ている。
問題は、ジェシカとセイン。
二人はそれぞれ全く違う武器を扱う。
ジェシカは片手で扱える剣が得意で、セインは長柄系の武器が得意。
ジェシカとオレインが前衛として敵を抑え、セインが中衛として間合いの外から追撃を仕掛ける。
俺は中衛と後衛を兼務して状況を見ながら魔法と武器を駆使してダメージを与える。
アニータは後衛として補助魔法や攻勢魔法を使ってサポート。
今までやってきた3人でのフォーメーションより、ジェシカたちが加わったことで戦略の幅は広がった。
特に先日行った森の中みたいに視界がはっきり取れない場所の場合、前衛を正面と後方の二面に展開して警戒が出来る。
これで奇襲される可能性も減って、生存率も上がる。
実際、魔物との戦闘においてもこの二人は非常に高い戦果を上げていた。
ジェシカはカットラスを使い、右へ左へと舞うように敵を翻弄する。
オレインとは違った動きで相手の懐に入り込み、切り刻んでいく。
動きに合わせた軽い剣撃かと思えば、非常に重い一撃を繰り出すこともある。
これは体の使い方だろうか。
彼女から学ぶべき事も多そうだ。
セインも槍を振り回し、側面から突進してきた魔物を権勢していた。
相手がひるんだ一瞬を突き、鋭い一閃を繰り出す。
相手の動きを読み、間合いを掴むのが非常にうまい。
実際騎士団でも採用されている剣や槍の扱い方を忠実に覚えている。
非常に実直な動き。
だが、アドリブにも対応出来るのは非常に優秀と言えるだろう。
実直な騎士としての立ち振る舞い、環境に適応できる柔軟性。
この二つを兼ね揃えるのはなかなか難しい。
二人に負けじとオレインとアニータも率先して動いていた。
ジェシカと同じくカットラスを扱い、彼女とは違い二刀流で相手を翻弄するオレイン。
一撃一撃が鋭く、急所を狙う正確な一撃。
今までは俺と二人で連携して戦っていた事が多かった為気づかなかったが、彼の本来の戦い方は一撃離脱に重きを置いているのだとおもう。
アニータは範囲型の攻勢魔法ではなく、全体に対する補助魔法を練習していたようだ。
彼女が持つ聖魔法には味方の怪我を治す治癒系統の魔法と、味方の能力を向上させる補助魔法がある。
また、光魔法には攻勢魔法の他に、相手の視界を妨げる妨害魔法も存在する。
まさに縁の下の力持ちというわけだ。
今はまだ使える魔法はそこまで多くはないが、定期的に依頼をこなしてレベル上げをすれば自ずと使える魔法も増えることだろう。
そして俺。
正直、この中に俺が居るのかは甚だ疑問ではあるのだが、中衛と後衛を行ったり来たりしながら指揮を執っていた。
敵の位置を把握し、前衛が討ち漏らした魔物を仕留め、死角から迫ってくる物には攻勢魔法で牽制する。
レヴァンティンを持っては居るが今はお休み状態。大変残念。
だが、お陰でこのメンバーでの連携の取り方がはっきりとわかった。
これで対抗戦に向けたプランはしっかり練ることが出来る。
そんなわけで今日も依頼を受けることになったわけだが、冒険者ギルドが騒がしい。
「なにかあったのかな。」
「珍しいわね、普段はあんなに静かなのに。」
女性陣は不思議そうに喧噪を眺めている。
この冒険者ギルドは基本的に静かで、みんなおとなしいイメージ。
だが、今日は何かあったのか非常に騒がしい。
「お、来たかお前ら。」
「ギルドマスター。何かあったんですか?」
フェゴールが俺たちを見つけてカウンターの方から歩み寄ってくる。
その顔は苦み走っており何かあったのは明白だった。
「ああ、西の森、お前さんがデッドラプトルのハグれどもと出くわした辺りで、またハグれがでた。」
「ハグれ、ですか。今度は何が出たんです?」
「それがな・・・。」
言いずらそうに顔をしかめるフェゴールを見ると、どうやら余りよろしくない相手らしい。
「・・・ホワイトマンティスなんだよ、これが。」
「それはまた、厄介ですね。」
ホワイトマンティスはデッドラプトルと同じく元々この辺りに生息していない魔物。
西側にある山脈の高所、永久凍土がある辺りに生息する虫型の魔物で、虫型には珍しい極低温に強い個体だ。
確か脅威度はD、だったかな。
これが厄介と言われる理由は”群体”ということ。
「群体数は、どれくらいなんです?」
「幸いなことに10体の群体が1つだけだ。」
人間はまとまって行動するときに軍隊を作る。
それを小分けにした場合に、大隊・中隊・小隊・分隊といったように人数で区切る。
このホワイトマンティスは人間のように群体、群れて行動する。
少ない物で5体、多いと10体で1群体を構成する。人間で言うところの分隊規模にあたる。
それに、このホワイトマンティスは両手の鎌を自在に操り、一部の個体は魔法を使う。
虫なのに非常に人間に似た動きをする、厄介な魔物なのだ。
「それで、お前さん達に討伐依頼を受けて欲しい。。」
「俺たちがですか?」
「おう。あいにくと今王都に居る冒険者はD以下ばっかりでな。Cのお前さんが率いるパーティが実質一番適任なんだ。」
ジェシカとセインも以前から冒険者として活動しており、Eランクだったが俺のパーティに加入したことでDランクに引き上げられた。
Dが4人居るパーティはCランク同等として扱われる。
「なるほど。そういうことでしたら俺は構わないけど、みんなはどうする?」
他の4人に確認しようと振り向くが、聞くまでもなさそうな顔だな。
「そりゃもちろんやるっしょ。」
「ええ、腕がなりますわ。」
「やろう、アル!」
黙ってうなずいているセインですらやる気に満ちあふれている。
どうしてこうもうちの家族は血気盛んなんだろうか。
まぁ、俺もちょっと楽しみだったりするけど。
「と、いうことなので、俺たちも討伐依頼受けます。」
「おう、頼んだ。直接現場に向かってくれい。報告を受けてだいぶ時間が経っちまった。外周に迫ってきててもおかしくねぇ。頼んだぞ。」
「わかりました。よし、行こう。」
4人と共に西門を目指し、走る。
西門を抜けて少し進んだ先、森への入り口にさしかかった辺りで1度周辺の確認を行う。
魔物が森を抜けてくる気配は今のところない。
今のうちに、準備と確認を行う。
「よし、一応確認だ。前衛はオレイン、両サイドにジェシカとセイン、アニータは中央、殿は俺が勤める。」
「周辺警戒の陣形だな。オッケ。」
「私が前じゃなくて良いの?アルバス。」
「機動力ではオレインの方が一歩速い。だけど周辺索敵のセンスはジェシカの方が上だ。だから、サイドを任せたい。」
「わかったわ。」
どこか嬉しそうなジェシカだが、なにがそんなにうれしそうなのかよくわからん。
「アニータは敵と遭遇したら『閃光』で目くらましと、全員に『防御強化』を頼む。」
「うん、わかったよ!」
「セインはジェシカ同様サイドの警戒を頼む。もしかしたら予定進路をずれているかもしれない。」
「わかりました。」
全員が武器の確認を終え、いよいよ森に入る準備が整う。
「よし、ホワイトマンティスは対人戦と近い戦闘になる可能性がある。対抗戦の練習にもなるかもしれないから落ち着いていこう。」
「アル、指揮官っぽいね。」
「様になってるな。」
ニヤニヤしながら茶化してくるアニータとオレイン。
なんだかむずかゆい。
「なんだか、やりにくいな。」
「そんなことはないわ。頼りにしているわよ、アルバス。」
ジェシカも余計な肩の力が抜けたのか、こちらをからかってくる。
「よし、行こう。」
森に入って数分ほど。
唐突にそれは起こった。
「なんかくるぞ!!」
剣を両手に構えたまま前方をにらみつけるオレインが叫ぶ。
刹那、正面の木々を縫うように2体のホワイトマンティスが駈けてくる。
「アニータ!」
「『閃光』!」
合図に合わせて放たれた一筋の閃光が頭上で弾け、ホワイトマンティスの視界を真っ白に塗りつぶす。
一瞬動きを鈍らせることに成功したが、それでもまっすぐ進み続ける。
「ここから先はいかせねぇよ!」
体勢を低くして木々の間を駆け抜け、ホワイトマンティスに肉薄したオレインが鋭く剣を振るう。
数度振られた剣は的確に首を刎ね、一瞬のうちに2体は絶命。
「セイン、ジェシカ!側面から2体そっちいった!!」
「承知した!」
「わかったわ!」
オレインの叫びを聞き、両脇の林道に目を向けると白い影が2体ずつ。
そこに目掛けてセインとジェシカが駆け出す。
アニータに寄り、周りを警戒する。
あと4体、どこかに潜んでいるはず。
こんなに静かなはずは、ない。
「アル、上!」
「そっちかっ」
アニータの声でハッとなり、頭上を見上げる。
4体のホワイトマンティスが羽を広げ、俺たちを追い越そうとしていた。
先導する3体は鎌を構え、後方の1体からはなにやら魔力を練り上げる気配を感じる。
あれが恐らく、リーダー。
「どうするの、アル!」
「打ち落とす・・・!」
左手に魔力を籠める。
そんなに強い力ではないが、打ち落とすには十分な魔法がちょうどある。
イメージを固める。魔力を練り上げ、狙いを定める。
「『創造魔法』『水鉄砲』!」
空を飛んでいるホワイトマンティスの羽根目掛けて水の弾丸が飛ぶ。
数回発射された水の弾丸は綺麗に羽の付け根を打ち抜き、4体が真っ逆さまに森に墜落した。
「オレイン、止め頼む!」
「あいよ!」
一足早くこちらに戻ってきていたオレインに指示をだし、地面に叩きつけられて瀕死だったホワイトマンティスに止めをささせる。
これで、10体。目標は達成か。
「なんか、あっけなかったね。」
「みんなが成長したからだとおもうよ。前のままだったらそう簡単には行ってないさ。」
オレインの移動速度も、セインとジェシカの体裁きも、非常に速い。
それにアニータの詠唱速度も上がっている。
だが、確かに少しあっけなかったようにも感じる。ハグれだが、弱い個体だったのか?
「アルバス、回収もしてきたわ。」
「アルバス様、こちらも終わりました。」
ジェシカとセインがそれぞれ魔法の袋でホワイトマンティスの死体を回収して戻ってきた。
「よし、依頼達成だな。オレインと合流して帰ろうか。」
一番の功労者であるオレインと合流して王都へ帰る。
冒険者ギルドへ戻り、フェゴールに報告に向かうと、えらく驚かれた。
理由は簡単。
解体倉庫で取り出したホワイトマンティスの死体の大きさが、従来の2倍近い大きさだったからだ。
つまり、決して弱くはなかった。
それどころか、1体ずつが群体の長になってもおかしくない大きさ。
そして最後に仕留めた魔法を使おうとしていた個体。
これはホワイトマンティスの変異個体『ドレッドマンティス』だったことがわかった。
他とは違い、腹の部分に赤い線が入っている個体で、他よりもさらに一回り大きかった。
・・・これは、運がよかったと思おう、うん。
ただ一つ言えることは、うちの家族は何かが、おかしい。
「お前さんが一番おかしいんだよ。」
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