刀匠、バレる
目の前に現れた巨大な蜥蜴。
名はデッドラプトル。
獰猛で狡猾、本来は彼らより上位の魔物が狩った獲物のお零れを狙うことが多い魔物で、こんな森に現れるような種ではない。
それに、本来のデッドラプトルより大きい。
前回のシルバーファングの時は気づかなかったが、今回ははっきりわかる。
本来のデッドラプトルは大きくても2mには満たない。
だがこいつは、余裕で2mを超えている。
つまりこいつもハグれ。
こちらを見据える目は、獲物を狙う捕食者そのもの。
距離はまだ僅かにある。
「アニータ、オレイン、そのまま、1歩ずつ下がれ。」
「だが、どうする。このままじゃジリ貧だ。」
「私が目眩しをして、その隙に逃げるのは?」
「いや、あいつは頭が良さそうだ。それに、おそらくハグれだ。通常のデッドラプトルより、さらに賢いと思う。」
睨み合ったまま1歩後ずさると、相手も1歩進む。
一瞬が長く感じる。
そんな時、視界の端にソレを捉えた。
もう1頭、デッドラプトルが居た。
いや、1頭ではなかった。
いつの間にか周りを囲むように数頭のデッドラプトルが木々の間から現れる。
既に、囲まれていた。
「・・・オイオイ、これは想定外だよ、ほんと。アル、どうする?」
「そう、だな・・・大ピンチだな、これ。」
背中合わせで周囲を伺うが、逃げ出せる余裕は無さそうだ。
どれもこれも個体が大きい。
群れからはぐれた集団がここまで来たのだろうが、それでも多すぎる。
切り抜ける方法は、無くはないが、通用するかは一か八か。
「アニータ、俺が合図したら、真上に最大で『閃光』打ってくれ。」
「そのあとは、どうするの・・・?」
「一か八か、1番小さい個体に切りかかる。怯んだ隙に抜け出すんだ。俺が飛びかかったら、オレインはアニータを連れて走れ。」
「お前はどうするんだよ?!」
「大丈夫、何とか逃げ切るから。最悪アニータ1人なら抱えて走れるだろ?頼んだぞ、オレイン。」
無言で頷き、お互いの役割を理解する。
周りを見回し、目測で距離を図る。一足で飛びかかる必要がある。
タイミングを測る。
呼吸が荒くなる。無理やり押さえつける。
呼吸を整えながら、負荷魔法を解く。悟られないように、ゆっくり、それとは逆に強化魔法をゆっくり体に張り巡らせる。
タイミングは一瞬、狙うは一点。
負荷が消え去り、魔力が体に行き渡る。
「今だっ!!」
「『閃光』!!」
頭上高くに光星が瞬く。
薄暗い森の中から出てきたデッドラプトルは一瞬で視界を真っ白に塗りつぶされ、動きを止める。
だが、それも一瞬。
けれどその一瞬が今は最大のチャンスになる。
「しっ・・・・!!」
姿勢を低くして、飛びかかる。
狙うは足首。
一足で飛びつき、抜き打ちを放つ。
ガキィィィンと甲高い音ともに剣が砕け散ったが、それと同じくしてデッドラプトルの足首も砕け、体勢を崩す。
その隙を見逃さず、アニータの手を引いてオレインが駆け抜ける。
アルバスほどではないが、素早い動きでデッドラプトルから距離を離していく。
「お前らの相手は俺だ。かかってこい。」
体勢を崩したデッドラプトルの背後に立ち、収納から別の剣を取り出す。
この間作ったロングソード。
まだ鈍器としてしか使っていなかったが、切れ味は申し分ない。
「(それに、試したいこともある。)」
鞘から剣を抜き、構える。
強化魔法はそのままに、意識を集中する。
握りを通して魔力を巡らせる。
「付与魔法『炎熱刃』」
刀身が赤く輝き、表面に炎が走る。
火魔法の付与『炎熱刃』。効果時間は約5分。
さらに魔力を足に込める。
脚力を極限まで強化する。
「行くぞ・・・ッ!」
起き上がろうとしたデッドラプトルの首を一太刀で切り飛ばし、体を踏み台にして飛び超え、近くの1頭に肉薄する。
一振りで体が炎上し、一瞬の内に絶命する。
仲間の死を前に、他のデッドラプトルが激昂し飛びかかってくる。
爪の一撃を刀身で受け流し、すれ違うように体を切り裂く。
受け流し、切り払う。相手の動きを見てから動き、攻撃をかすらせずこちらは一撃を与える。
2頭はこちらに見向きもせずオレインたちの方へ向かおうとする。
だが、逃がさない。
「お前らの相手は俺だって、言っただろう!」
腰のベルトに付けていたナイフを取り出し、掛けだしていった2頭目掛けて投げ放つ。
足の付け根に突き刺さり、動きを止める。
「『岩槍』ッ!」
左手で魔法を放ち、追い打ちを掛ける。
これで追いかけていったのは仕留めた。
「残り2体・・・!」
背中を向けた瞬間襲いかかってきた爪を刀身で受け止める。
体が軽い。
この戦闘で恐らくレベルが上がったのだろう。
さっきよりもさらに動ける。
「はぁッ!」
剣を振り切り、押し返す。
体勢を崩したところに一閃。
残り、1頭。
最後の1頭は他よりも頭1つ大きい。この群れの長なのかもしれない。
目は血走り、獰猛に突っ込んでくる。
「さぁ、殺ろうか・・・!!」
付与が切れるまで、残り1分。
爪を受け、振り払い、返し、切りつける。
幾重にも重ねて斬撃を放つが、まだ動きは止まらない。
体を振り、尻尾で強靱な一撃を放つ。
「くぅッ!?」
剣で受けるが、受けきれず、はじき飛ばされる。ついに一撃を受けてしまう。
だが、レベルが上がったからか、ダメージはそんなにない。
体勢を整え、視線を戻すと既にこちらに向かってきている。
だが、相手は瀕死、動きは遅い。
「これで、仕舞いだ・・・ッ!」
体を反らし、攻撃をいなし、すれ違いざまに一閃。
横一文字に切り裂き、最後の一頭もついに絶命する。
残心のまま、辺りに意識を張り巡らせる。
隠れた敵は、居ない。
剣を振り、血糊を払う。
「終わった・・・。ちょっと流石に、疲れたな。」
剣を地面に刺し、息を整える。
流石に息が上がる。
周りを見回すと、死屍累々。
デッドラプトルの死骸が合計9体。
「・・・あれ、これ、まずくないか・・・?」
頭に血が上って勢いでやったが、これはやらかしたな。
さて、どうしたものか。未だに息が整わず、考えがまとまらない。
強化魔法も負荷魔法も完全に切れている。
だが、考えても何も始まらない。
とりあえず、この死骸はこのままにしたら、それはそれで大問題になる。
「とりあえず回収して、ゴンさんのところに持って行くか・・・。」
剣を鞘に収め、死骸の回収に入る。
首筋に剣を再度走らせ、血を抜いていく。
体がでかい分、血の量も多い。土魔法を応用して穴を開け、そこに血を流し込む。
このまままき散らしたらただの惨殺現場だ。
何頭も何頭も同じ作業を繰り返し、終わった順番に仕舞っていく。
「それにしても、2人は無事に逃げ切ったよな・・・。他のハグレが居ない限りは問題ないと思うけど・・・。」
最後の1頭の処理も終わり、辺りを見渡す。
さっきまで完全に気配が消えていた森の中に再度獣の気配が戻ってくる。
どうやらデッドラプトルを恐れて逃げていたということで間違いはなさそうだ。
これで他に面倒な魔物が出てきても困る。
「さて、俺も王都に向かいますかね。」
懐中時計を見ると、時刻は既に午後3時を過ぎていた。
辺りを警戒しながらゆっくりと王都へ向かう。
魔物の姿は見えない。というよりもこちらを伺っているようにも感じる。
王都へ向かう道すがら、ぼんやりと考える。
街道で遭遇したシルバーファング、先ほどのデッドラプトル。
ハグれは珍しい現象ではないが、それでもここまで頻繁に起こることでもない。
ましてや生息地域がこの辺りではない魔物ばかりだ。
シルバーファングも、デッドラプトルも、ここよりも西の地域に生息している魔物だ。
西側に聳え立つ山を越えてきていることを考えると、山の向こうで何か問題が起きているのか、なんなのか。
今は考えても始まらないが、何かが起きていることはうっすらとわかる。
だがまぁ、俺自身には直接関係の無いこと。
こうして遭遇すれば対処せざるを得ないが、そうじゃなければ知ったことではない。
あとは国のお偉いさん達が対処してくれるはずだ。
「アルー!!」
北側の城門まで残り少しというところで聞き覚えのある呼び声が聞こえる。
先に逃げていたアニータの声。
オレインと一緒にこちらへ向かってくるのが見える。
その後ろには何人かの全身甲冑を着た騎士が向かってくるが、あれはなんだ?
「アル、無事逃げ切れたのね、よかった・・・。」
「今、騎士団の詰め所に話しを通して、助けに向かおうと思っていたんだ。無事でよかった。」
あ、やっぱりそういうことなのか。どうしよ、これ、言うべきか・・・?
「あ、ああ、とりあえず、無事に切り抜けたよ。」
「君がアルバスだね。君たちはこのまま冒険者ギルドに向かって状況の報告を行ってくれ。私たちは周辺の警戒と状況の確認へ向かう。」
「あ、はい。わかりました。」
「よし、行くぞ!相手はデッドラプトルだ、周辺を警戒し、発見次第討伐!」
何も知らない騎士達が森の方へ掛けていく。
真実を告げる暇も無く、既に背中はもう見えない。
「あー・・・どうすっかな、マジで。」
「アル?どうしたんだ?ギルドに向かおうぜ。」
「そうよ、アル。何か気になることでもあるの?」
不思議そうな表情を浮かべる2人に対してどう説明していいやら。
素直に答えるべきか、黙ったままにするか・・・。
「あれ、その剣どうしたんだ?さっきまで持っていた剣とは違うよな?」
オレインめざといな。最初の一撃で破損した剣とは違い、今はデッドラプトルを殲滅したロングソードを腰に下げている。
オレインの一言でそのことに気づいたアニータはさらにめざとかった。
「鞘に付いてるの、血、よね?あれ、けど鞘だけじゃなくって、気づいたらアルの服、結構血まみれじゃない・・・?」
どうやらいつの間にやら返り血を浴びていたらしい。
これはもう観念するしかないか。
「もしかして、アル、まさかお前・・・」
「あー、うん、まぁ、倒したよ、デッドラプトル。」
「運良く1頭だけ、って訳じゃなさそうね。」
「えーっと、そう、だな・・・ざっと9頭?」
完全に固まる2人。そりゃそうだ。だって俺らまだ冒険者ランクFだもの。
Bランクの魔物が9頭居て、誰一人掛けることなく逃げてきたのももちろんなんだが、俺一人で全滅させてきたという言葉に、理解が追いついていないのだろう。
はてさて、どこまで報告するべきかね。
「詳しくは、後で説明するから、とりあえず一旦冒険者ギルドへ向かおうか。」
「そ、そうだな、うん、そうしよう。」
「え、えぇ、あとで説明してね・・・うん。」
なんとか冒険者ギルドまで二人を連れて向かう。
中は騒然としていた。どうやらあのタイミングで外に出ていた冒険者は皆異変を感じて街の中に戻ってきていたようだ。
だが、現場に居合わせたのは俺たちだけ。
よかったのか悪かったのか、正直よくわからないが、とりあえず報告へ向かう。
受付に向かい、森の異変に関する報告だと告げると、奥の応接室に通された。
初めて入った応接室だが、不思議と落ち着いていた。
「待たせたな。俺がギルドマスターのフェゴールだ。それで、森の異変って言ってたが、さっきからガチャガチャと走り回ってる騎士団がらみか?」
右目に眼帯を付けた初老の男性、ギルドマスターのフェゴールが訪ねてくる。
理解が早い方で助かる。
「はい、西の森でハグれのデッドラプトルに遭遇しました。」
「なんだと?!それをなんで直ぐにいわねぇんだ!!それで、遭遇数は?けが人は?」
目を見開いてこちらに詰め寄るフェゴール。
いやいや、近いから。
「ええ、っと、遭遇数は9頭、いずれもハグれの個体で若干サイズ感は大きかったですね。怪我人は居ません。はい。」
「怪我人はいねぇわけだな。それは重畳。だが9頭ものハグれか、騎士団の連中だけで手が足りるかわからんな、こうなったらA級の連中を招集して・・・」
あ、だめだ、これもう言わなきゃだめだな。
いろいろと隠しておきたかったけど、これはもう無理だ。
「あ、あの!」
「ん?ああ、済まねぇ、ここまで知らせてくれたこと感謝する。それで悪いんだが、遭遇した場所をだな」
「デッドラプトルなんですが、俺がもう全部倒しました。はい。」
「この地図に、って、お前さん、今なんて言った?」
「ですから、俺が、デッドラプトルは倒しました。なので今から森に行っても痕跡が残ってるだけです。」
空気が凍り付く。うん、そうだよね、だってさっきからアニータもオレインも一向に正気を取り戻す気配がない。
フェゴールも目を見開いたまま、顎まで開ききって硬直してしまっている。
顎外れないかな?大丈夫?
「・・・聞き間違いか?お前さんが全部倒した、っていったか?」
「はい、言いました。俺が全部、倒しました。」
「・・・お前さん、ランクは?」
「先日、Fに上がったばかりです。」
フェゴール、再停止。
うん、こうなることはわかってた。
これは時間掛かるかもなぁ。
「いやいや、F?!それでデッドラプトル全部倒しただなぁ?!んなわけあるか!」
あ、思いの外早く復帰した。
だけど顔を真っ赤にしてる。これは信じてないというか、嘘を嫌う人の顔だわ。
「だったら証拠を見せてみろい!」
「えーっと、収納魔法持ちなので、今ここで出すこと出来ますけど、出しても大丈夫ですか?」
「収納魔法持ちだぁ?!もう何が何だかわかんねぇがとりあえず出せ!」
と言うわけで許可も出たことだしこのまま出そう。
机の横、開いたスペースに収納魔法から死骸を取り出す。
一番大きかった恐らく長であろう死骸。
収納魔法から引き出すだけでも目を見開いていたフェゴールだったが、デッドラプトルが飛び出してきた瞬間、意識を飛ばして倒れた。
うん、まさかここまでの効果が・・・。
むしろアニータとオレインは死骸を見て意識が覚醒したようだ。
「アル、本当に一人で倒しちゃったんだ・・・。」
「オレっちなんも出来なかったのに、アルはすげぇな・・・。」
呆然とする二人だったが、正直この二人のお陰で向き合おうことが出来たんだけどね。
「何言ってるんだ。アニータの閃光のお陰で意識を引きつけることに成功したし、オレインがアニータを連れて逃げてくれたから被害がなくて済んだんだ。ありがとう。俺一人だったらうまくいった保証はないんだ。」
まだ釈然としない表情を為ているが、さっきよりは幾分ましにはなったように思う。
そうこうしているとフェゴールが意識を取り戻し、再度デッドラプトルを見る。
「しかし、まさかこんなでかいとはな・・・。俺も久々にこいつら見たが、こりゃ確かにハグれだな。他の一団は居なかったんだな?」
「ええ、俺が回りを見た限りは。」
「そうか・・・。いや、すまねぇ。疑ったりしてしまってよ。」
「いえ、普通、そう感じてもおかしくはないですから。」
フェゴールの表情がまじめなものになる。
これはいよいよ聞かれるか。
「アルバス、だったか。」
「はい。」
「お前さん、何者だ?」
疑惑の籠もった目、ではない。
なにかを確信した目だった。
「何者、ですか・・・。また答えずらい聞き方ですね。正真正銘、人間ですよ。」
「いや、すまねぇな。そうじゃねぇんだ。そうじゃねぇんだが、お前さんからは並々ならぬ力を感じるんだ。普通の人間以上に、強い力がよ。」
やっぱり、ばれたか。
「俺は、普通の人間ですよ。魔族とかではない。けど、ステータスは隠蔽しています。」
「やっぱりそうかい。じゃなければ、Fランク冒険者が、Bランクの魔物を狩ることなんかできやしねぇ。それでお前さん、何を持ってやがる?」
覚悟、決めますか。
「俺自身にも謎ではありますが、俺は人よりもステータスが異常に高い。それを隠すために今まで隠蔽魔法を使っていました。これを見てください。」
ステータスプレートを取り出し、告げる。
「ステータスオープン。」
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次辺りからまた寄宿学校の話に戻ります。
戦闘パートは書くの難しいけど楽しい。




