初対面でのハウ・トゥー・トーク
3年ほど前『普通に神族』という作品でエタりました。当時と同ネタ出る可能性大です。週一水曜日更新です。
ーーんっ? ここはどこだ? 白い…空間? えっ? なぜに? 昨日は家に帰って寝たハズだぞ?
覚醒なのか目覚めなのか、俺が意識を浮上させた空間はただただ真っ白で、四方が地平に囲まれた不自然に均一な場所だった。
…一度落ち着こう。まず俺の名前は皿抱 稔美、可もなく不可もない二流大学の理系を卒業後、これまた可もなく不可もない二流企業へ就職。エンジニアとして更なる可もなく不可もない日常を過ごしている25歳。趣味はラノベ鑑賞。特に『主人公最強』や『俺Tueee 』といったストレスフリーなものを好む。
仕事柄、特定の人以外に接する機会が少なく、また元々引っ込み思案でもあり、若干のコミュ障である。
昨日は久しぶりに定時に仕事を終えることが出来たから、帰りに焼鳥屋で軽く飲んで、馴染みのエッチなお店にも行って(コミュ障にも性欲くらいあるわ!)、いつも通り指名したスミレちゃんの温もりを思い出しながら帰宅して即寝した…はず。
うん記憶もしっかりしているし、なにより泥酔していた訳じゃないから余計この状況が謎だ。身体に異常…もないな。痛みも傷もない。格好も昨日寝た時に着た上下紺色のスウェットのままだ。
ってことは…誘拐か?! えっ怖っ! …いや俺を誘拐する意味あるか? 両親は健在だけど共働きでようやく普通…より少し下くらいの収入を得ているくらいだし。弟が一人いるけどまだ高校生だしな。
軽く周りを見渡しても、やはり『白い』以外に何の感想もない。ただただ白く広い空間だ。地面? 床? も白い。固くもなく柔らかくもない、アスファルトとカーペットの中間くらいの感触かな?
…にしても暇だ。することも出来ることもない。これなんて罰ゲーム? しゃあない、適当に横になってーー
「目覚めよ!」
うわっ、めっちゃビビった! 後ろから声がして、反射的に立ち上がりながら振り返ると、白欧系特有の掘りが深い、そして目鼻立ちが異様に整った美青年が微笑を称えながらこちらに視線を向けていた。
誰? ていうかさっきから目覚めてますけど?
「ぁ、あのっ…」
「目覚めるのだ!」
「あ、はい! 起きてます」
「あ、あれ? あごめん、もう目覚めてた?」
「はい、結構前に目は覚めてましたけど…」
「あ、そ、そうなんだ…な、なんか急かしたみたいになってごめんね」
「大丈夫です。気にしないで下さい」
「う、うん。ありがとう…」
「「…………………………………」」
いや気まずいわ! アンタ誰だよ! なんか喋れよ! あっ目があった…軽く会釈とかしなくていいわ! 力無い微笑だなオイ! 更に気まずい…。 はぁ…意味分からんけど状況把握の為にも話さなきゃ…だよな。よし!
「「あの……?!」」
被った! 気まず殺されるわ! あ、なんか無理に笑おうとして顎しゃくれさせてる! 痛々しい! でも気まずいのは相手も一緒だ! 頑張れ俺!
「はい! なんでしょうか? どうぞお話下さい!」
「あ、あ、え、え、え、え、え、え、え、え、えーと、で、で、で、ですね。あ、あ、あ、あ、あのぉ~…」
吃り過ぎだろ! 人類と初接触したの?! いや俺も人のこと言えないけどさぁ!
「お、お、落ち着いてください! ゆっくりで大丈夫ですから!」
「あ、うん、ごごめんね? 普段はこんなことないんだけど、全然たくさん喋る方だし友達も多いし、全然あれあのすごい喋るよ」
「そ、そうなんですね。初対面の方と話すのは緊張もしますし、勝手が違うこともありますもんね」
「そうそう! そうなんだよ! あ~やっと緊張解けてきたよ」
「それなら良かったです」
「あははは、ありがとうね…」
「いえいえそんなそんな…」
「「………………………………………………………………」」
デジャブ?!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
春の嵐のように吹き荒れる気まずさの中、或いは双方に平等に課せられたハンディキャップマッチの様相の中、若干伏した目でお互いをチラチラと目視し合い、目が合うと無理に笑顔を作り、顎をしゃくれさせて会釈をするという不毛な時間がどれくらい過ぎただろう。
大丈夫。心は既に折れている。
「あ、あぁごめんね、まずは自己紹介をさせてもらうね。私の名前はアストール。君から見ると異世界である『ルファレンシア』という世界を創った神だよ」
ぶっこんできたなオイ。この人神様? あっ、スゴい、後光的な光がスゴい! すんごい神様アピールしてくる! 右手に火を出して、左手に氷を出して、両手を合わせて、ハイ消えましたー! …いやなにしてんだよ。立ち上がった水蒸気ですんごい蒸せてる。 スゴいけど腹立つドヤ顔してるなコイツ。眉毛をへの字にして唇尖らせて蒸せながら少し笑ってる。それもうドヤ顔じゃないし、なんなら可哀想だからな?
「えぇと、アストール…様? 僕の名前は皿抱 稔美と言います。僕はライトノベルですとか、異世界小説といったものが好きだったので今の話や現象にさほど抵抗はないのですが…一点だけ、どうして僕はここにいるのでしょうか?」
「すごい適応力だね、さすが稔美君。君がここにいる理由だけど、一言で言えばスカウトだね」
「スカウト…ですか?」
スカウトと言えば、影〇さんは何故 2EFFDFBムード× なんていう地雷をドラ2で取ったんだろうか…。
関係ないね。はい、続けて下さい。
「うん。君は自分で気付いていたかは分からないけれど、魂の環境適応力がとても高いんだ。本来ならば魂というものは生まれた星、生まれた次元にしか適応出来ないものなんだけれど、君の魂の場合はどこでも変わらず適応し存在出来る稀有なものなんだ」
どこでも適応して存在出来るって言われてもなぁ。全く心当たりがないんだけど…。
「話を戻すよ。初めに言ったスカウトというのは、君に私の世界『ルファレンシア』に転移して生活してほしいというものなんだ。ルファレンシアは今停滞していてね。君というルファレンシアにとっての異物を投入することで何かしらの変化が起こる…ハズだと思っている。今まで経験がないから推測、もっと言えば実験なんだけれどね」
生前(?)はラノベも好きだったし、異世界で俺Tueeeなんて夢見たりもしたけど…。
「まぁ事情は分かりました。だけどすぐに決めるのは難しいですね。そのルファレンシアという世界に行くということは、僕はもう地球には帰れないということですよね? ラノベ特有の両親と既に死別している主人公と違って僕の両親は元気に暮らしていますし、仕事に過度な不満もありません。異世界へ渡るという希望や憧憬よりも、地道にでもーー」
「いやいや、ルファレンシアで命を失えば、君がこの空間に来る前の時間、状態で地球へと帰還するよ。まぁ長いこと地球に帰れないのは事実だけれどね」
「あっ、それなら行きます」
うん、すぐ行きます。今行きます。読んでたラノベの中でも最高のタイプの転生だこれ。
「…本当に呆れるくらい適応力が高いね君は。どうして自覚がないのか不思議だよ。けれどまぁその決定は私にとっても有り難い選択だよ。ありがとう」
「僕にとっても貴重な体験なのでこちらこそありがとうございます。それでルファレンシアというのはどういった世界なのでしょうか?」