独身女戦士「魔物討伐コンだと!」
魔物討伐X婚活パーティー、それらを作者なりに分析してみました。
ゼクシオ王国王都イントゥーサークルにある冒険者ギルド内の掲示板前で女戦士ククリ=プロトコルは絶句した。
依頼の内容はギルドが指定したメンバーで魔物討伐を行うというものだ。
パーティーメンバーがギルド指定ということ以外は至って普通の依頼だ。
通常は固定のメンバーで魔物討伐などの依頼を受けるが、専門性が高い依頼の場合、ギルドが幾つかのパーティーを指定して行うことはある。
また、新人とギルドが指定したベテランを組ませて依頼を行うこともあるので、メンバーのギルド指定は珍しくない。
ただ、今回のメンバーの選考方針はククリにとって衝撃的な内容であった。
記
MM月DD日に当ギルドが選考したメンバー総勢6名~8名にて魔物の討伐を行う。
なお、参加可能なメンバーはYY~YY歳までの独身者に限るものとする。
討伐終了後、参加メンバーにて宴会を行う。 以上
内容は簡素なものであったが、この依頼者は哺乳瓶から城まで取り扱っている商会となっていることから、この依頼の真の目的がわかる。
妙齢の独身者同士で依頼をこなすことで親睦を深め、カップルを作ることだろう。
魔物討伐においてパーティーにカップルがいることは非常に悪手である。
それは、魔物討伐という仕事はいつだって死と隣り合わせであり、パーティー内にカップルがいるとチームの連携に支障をきたす。
何故なら、チームの連携時につい恋人を優先する、若しくは喧嘩などで連携そのものが取れないなど問題を多く抱えることになるからだ。
実際、ゼクシオ王国の冒険者パーティーは同性同士が大半であり、男女合同パーティーは1年以内に解散するというデータまである。
ギルドもその点に関して織り込み済の様で、この依頼について質問したら、男女共に実績があり、魔物も非常に弱い部類となるとのことだ。
はっきり言ってしまえば討伐する魔物に関してはククリ一人でも対処可能なものであった。
要は、魔物討伐にかこつけた婚活パーティーなのだ。
ククリはこの依頼を受けることにした。
彼女も女戦士として凶悪な魔物を日々討伐しているが、その前に一人の女性であり、独り身の独身者であった。
(討伐を行う前に化粧するなんて何だか無粋だわ。)
ククリは防具を着る前に化粧をする。
街の中ならいざ知らず、魔物討伐の為に街を出る際はいちいち化粧などしない。
パーティーメンバーは全員女性であり、魔物との戦いで化粧など汗で流れ落ちてしまうから意味がないのである。
だからこそ今回は気をつけないとならない。
化粧が崩れない程度に動きを抑えて、魔物を討伐する。
彼女の通常装備はクレイモアと呼ばれるそこそこ大きな剣で、防具の鎖帷子を着ている。
武器と防具でかなりの重量になるので、激しい動きをすれば玉の様な汗が全身から湧き出る。
今回は通常の装備ではなく、軽くて頑丈なステンウッドと呼ばれる木材で作った杖に厚手の服という新人冒険者並の装備であった。
彼女の通常装備と比べれば非常に心許ないのであるが、化粧が崩れるよりマシであろう。
ククリは集合場所であるギルド内の受付前に向かうと既に他のメンバーは集まった後であった。
集合時間ギリギリとは言え、彼女のパーティーなら集合時間前にはよくて半分ほどのメンバーしか集まっていないこと考えると、新鮮であった。
「はじめまして、自己紹介させて頂きます。レモン=スカッシュと申します。前衛での近接戦闘を得意としています。」
集まったメンバーの内の一人がギルド職員に促される形で早速自己紹介を始めた。
ギルド職員の横にはこの依頼の協賛者である商会の職員がいる。
「はじめまして、ミント=クラスタです。隣の子はレベール=オブジェクト、普段は一緒にパーティー組んでいます。」
二人はその装備から神官と魔法使いとうかがい知れる。
婚活パーティーでよくあるお友達と一緒に来たパターンだ。
その後、他のメンバーの自己紹介が終わり、指定された討伐場所へメンバー全員で向かった。
討伐場所へ向かう間も個々人が思い思いに話しているが、なかなか会話は弾まず、最期の方は気まずい雰囲気に包まれた。
しかし、討伐場所へ到着し、魔物を発見すると男性陣は魔物へと群がった。
「女性の皆さんはここでお待ちください。我々が魔物を討伐します。」
事実、男性冒険者達は魔物へ接近すると一瞬で思い思いに討伐してみせた。
下級の魔物であることもあるが、ここにいる冒険者はそれなりの実力者たちだ。
正直、連携など全くなかったが、個人でも全く問題なく討伐出来るのも訳なかったのだ。
ククリからすると、魔物の討伐とは冒険者同士の連携こそが要であると考えており、それは一般的な考えでもある。
今回の討伐はその基本が全く出来ておらず、男女の冒険者パーティーが敬遠される証左であるのだが、今回の目的を考えると仕方がないと割り切った。
男性陣が女性陣に良い所を見せたい。
彼等が女性の心を射止めんと努力している証拠であり、それ自体は素晴らしいことである。
だが、男性陣の頑張りに対し、女性陣の反応は実に微妙であった。
それもその筈、見方によっては、男性陣が女性陣を放っておいて魔物に群がったのである。
彼等の対応は、女性よりも魔物に興味がある様に見える。
そして、それは女性陣にも言えることであった。
「ねぇ、見て、ミント。ここにヒポグリフ草が咲いているよ。」
「本当だ。この辺りだと珍しいね。」
ミントとレベールは討伐そっちのけで、二人で薬草談義に華を咲かせ始めた。
この二人は、討伐場所へ来る最中も二人で話し、男性冒険者が話しかけても関心の無い対応をしていた。
そんな二人を見て、ククリや他の参加者は内心眉をひそめた。
婚活の場において最も空気を読めていないタイプというのは、そもそも婚活にそれほど興味のない者達だ。
この者達に比べれば、頓珍漢な者や不潔な者など可愛いものだ。
何故なら、真剣に活動している者にとって真剣でないもの程邪魔な存在はない。
婚活パーティーの参加者の数は有限であり、限られた時間の中でアピールする必要がある。
アピールしても無駄な者がいるだけで労力と時間の無駄なのである。
友人と参加する法が精神的に楽であるという女性はいるが、そもそも来るなというのがククリの心情であった。
結局、今回の魔物討伐コンは特に男女で盛り上がることもなく白けたムードで終わった。
討伐終了後の飲み会も男性陣から誘われたが、それも大半の女性が断ることになり中止となった。
ククリは肩をがっくりと落とし家路に着くことにした。
「今回は失敗でした。」
魔物討伐コンの主催者である商会の係の二人は元気の無い声で俯き話す。
「パーティーの趣旨自体はそれほど悪くなかったと思うわね。応募も直ぐに埋まったし、同じ内容のパーティーが無いか問い合わせもあったわ。
ただ、進行に関してはもっと練る必要があるわ。個々の紹介や移動時のお題、討伐に関する細かな方法を決めないとまた失敗するわ。」
「確かに、今回は冒険者の方々に自由にさせ過ぎました。体験型は難しいことが多いです。」
婚活パーティーは大別すれば面談型と体験型の二つに別れる。
面談型は男女が対面して話し合うものであり、二人だけのものから、複数、合コン、パーティーなど人数の差さえあれど、内容に差はない。
それに比べ、体験型は様々なものがある。
ダンス、スポーツ、料理など一緒に行うことで親睦を深めることが目的であるが、男女ともに体験内容そのものにのめり込んでしまうことがある。
体験を通して如何に男女の中に発展させるかが主催者の腕の見せ所だろう。
「今回の反省点を分析して、次に繋げるわよ。」
「はい。」
係の者達は心を入れ替え、商会を後にした。
ここはとある冒険者ギルド、ギルドの係の者達は朝一番に依頼内容の張り出しを行っていた。
様々な依頼がある中で、一風変わった依頼が張り出された。
記
MM月DD日に当ギルドが選考したメンバー総勢6名~8名にて薬草の採取を行う。
なお、参加可能なメンバーはYY~YY歳までの独身者に限るものとする。
討伐終了後、参加メンバーにて宴会を行う。 以上
ある日、ある場所、ある男女たち
今回は作者が先日水族館コンというものに参加した体験談を元に書きました。
本当はもっと細かい描写を書くつもりでしたが精神的にくるものが多く、この程度のものに収めました。
あまりリアルに書きすぎると全く笑えないですね。
次は異世界料理コンにしようかと思いますが、婚活二次会とか他の話にするかもしれません。