3曲目「キスのテイスト」
一度目は、一瞬の出来事
記憶もなくなるスパイステイスト
二度目は、二回の接触
甘くせつないスイートテイスト
三度目は、三度目は?
舌にのせるまでアンノウンテイスト
「はぁ」
二度目のキス。それはまたも不意打ちながら、一度目より甘く物足りないと考えてしまう。そして、それを受け入れてる自分が恥ずかしく、さっきから正座をしてため息をつきながらリビングの背の低いテーブルの前に座っている。
「ふふっ、あなた本当におもしろいわね」
彼女は、隣のキッチンからそれを見て笑いながら、食器棚からコップを取り出し、一度水道でゆすいでから、冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出し、二つのグラスに注いでいく。
「あんなことされた相手の家を勝手に掃除してるし、その上書いてある歌詞を読んで興奮してキスをせがむなんてね」
「それは‼あ‼」
私は抗議をしようとするも、正座で足が痺れて立ち上がれず横に倒れてしまう。
「あらら」
「……」
私は恥ずかしさで彼女の顔を見れず、顔を両手で隠し、うずくまる。
「テレビで見たハムスターそっくりね」
少し顔を上げて腕から覗くと、アジサイは両手に持ったグラスをテーブルに置き、私の前に正座すると、深呼吸をした。歌手としての顔、アジサイとなる。
「一度目は、一瞬の出来事」
私は歌を紡ぐ唇に見惚れる。
「記憶もなくなるスパイステイスト」
それを振り切るように、すばやく声が私の右の耳元に近づく。
「二度目は、二回の接触」
そして、ゆっくり左の耳に移る。私はそれを目だけで追いかける。
「甘くせつないスイートテイスト」
今度は甘くささやくように。私は、動けない。
「三度目は、三度目は?」
問いかけながら離れていき、どこからか紫のルージュを取り出し、慣れたようにつける。
「舌にのせるまでアンノウンテイスト」
また私の釘付けな視線を振り切るように目の前に近づく。そのまま……
「期待した?」
彼女は、いつの間にか茶目けのある笑顔になっていた。何もせずに、私から離れて、テーブルの上のメモ帳に先程の歌を書き、そのままキッチンに向かう。そして、そこから水道を使う音が聞こえる。少し間があいたのち、そこから私に問いかけがある。
「お茶菓子は何がいい?しょっぱい系?甘い系?」
「……しょっぱい系で」
口が寂しいのを刺激で紛らわせたい。私の気分はそんな感じだった。