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レディアンドレディ  作者: レオサリー
2/3

2曲目「あいさつのキス」

 ただいまのキス、おかえりのキス

 離れていた分、近づきたいの

 おやすみのキス、おはようのキス

 朝も夜もずっと、感じてたいの 


 少し私の話を。

 名前は、向日葵。向日が苗字で、読み方は「むかいび」で、下が葵で、読み方は「あおい」。繋げて読むと「ひまわり」になるのは、向日家に女の子が産まれたらこうしたいという念願だったらしく、父もそう思っていたので、すぐに決まったらしい。

 今年で17才の高校二年生で、一応私立のお嬢様校に席は置いてある。ただ、私はあまり好きではないので、週に一回はサボっている。それでも勉強は好きで、頭もそこそこなので、特に何も言われない。

 父は、幼い頃に亡くなっている。今はジャーナリストの母と暮らしているけど、ほとんど家に帰ってこないので、実質一人暮らしみたいなもの。

 そして、そんな私は今他人の部屋の掃除をしているのですが。


 「生活感しかない」

 それが彼女の部屋への感想だった。脱ぎ散らかした服、キレイには食べられてはいるけど置きっぱなしの弁当のゴミ、飲み終わったペットボトル、何かを書いては丸められて捨てられたルーズリーフ。これでもかと生活感を主張している部屋はないと思える。

 「……片づけよ」

 私でもよくわからない。今日知り合って、家にまでついてきて、突然キスまでされたのに、この状況は理解できないのに、抜け出そうとしない自分がいる。

 「……これ、全部歌詞?」

 服は畳み、ゴミは捨て、ルーズリーフも一緒に捨てようと何気なく中を確認すると、ボールペンで様々な言葉が書かれていた。読めば、ほとんどがラブソングであった。

 「絡み合う指、甘い囁き、溶け会う唇」

 どれもが、過激で、甘美で、でもキスで終わる関係。まるで、女同士の夜伽。

 「まさかね」

 それでも読めば読むほど、熱が高まり、蒸気する。私と彼女であられもない想像をしてしまう。

 「……すごい」

 そんなことを想像していることよりも、想像させられるくらいに、歌詞が巧みで、繊細で、惹き込まれることに関心した。

 私は手当たり次第、転がっているルーズリーフを開き、口に出して読み漁った。


 そして、それを書いた本人が帰ってきたのにも気づかずに。


 「ただいまのキス、おかえりのキス」

 「ふふっ。あなた、ホントに可愛いわね」


 私は後ろからの声に驚くと同時に、背中に温もりを感じる。顎を白魚のようで先は硬い指で撫でられ、彼女の方に顔を向ける。


 「ただいま」

 「おかえりなさい……」


 唇に二度感触が伝わる。前より甘く、優しい、挨拶のようなキス。


 ただ、ない。麻薬のような感じも。あのときの熱も。全身の疼きも。


 「……やっぱり私には合わないわね」

 彼女は、照れくさそうに私から離れる。でも、私もそう思ってしまった。

 「この歌詞は駄目ね」

 そう言って、私の手からルーズリーフを取り、また丸めて近くのゴミ袋にバスケのフリースローのように投げ込む。

 「それ、プラゴミの袋です……」

 私は、この物足りない感じを抱えながら、平常心に戻ってしまうのだった。


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