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起死回生ブレーキ! 二木粟生井鉄道  作者: 髙津 央


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09.幸瀬駅代表

 翌日は、何食わぬ顔で駅業務をこなした。

 何とか、西口と二人きりになる機会を窺うが、今日に限って何かと邪魔が入る。


 「この間の会議のまとめ、本社から全員にメール来てるから、読んでしっかり頭に入れるように」

 幸瀬(しあわせ)駅の駅長、谷上(たにがみ)が珍しく念押しする。

 駅員の三木が怪訝(けげん)に思いながら了解すると、谷上駅長はざっくり説明してくれた。


 「沿線の役所と住民とウチで“二木鉄の乗客を増やす会”を起ち上げたんだ」

 「何するんですか?」

 「まだ決まらんが、住民有志の方々やお店が主体になって、催し物をするらしい」

 「催し物……?」

 「沿線のお店は、乗客の優待サービス、住民さんは電車でするイベントの類だな」

 三木はなるほどとうなずいた。


 例えば、定期券のおまけとして周辺の店で割引などが利くようになれば、格安チケットの店で回数券を買っていた人たちが、定期券を買ってくれるようになるかもしれない。


 「ウチは何するんですか?」

 「三木君、ヤル気あるなぁ。二木鉄は広報とイベント列車関係のあれこれだ。役所は消防やなんかの手続き関係やプレスリリースの発表だ」


 カネは出してもらえないらしい。

 既に車輌のメンテナンス代を税金から支出してもらっている以上、任意団体の運転資金まで面倒を見てもらうのが無理なのは、平社員の三木にでもわかる。


 ……要するに、手弁当でってことだよな。


 住民有志は本当に「志」だけで動いてくれるのだ。

 三木はありがたいと思ったが、一抹の懸念もある。


 「あ、じゃあ、昨日の式典もその人たちが何か……?」

 「うん、まぁ、昨日は間に合わなかったから、発足のお披露目だけ、な」

 谷上駅長は困った顔で笑った。歯切れ悪さが引っ掛かる。

 「何か……あったんですか?」

 「住民さんの方でも、色んな人がいて、色んな意見があるからな。会議でなかなか話がまとまらなくて、本当は一月一日付(いちがついっぴづけ)で発足させる予定だったんだが……まぁ、今回はテープカットだけだ」


 ……まぁ、そりゃそうだろうな。


 二木粟生井(にきあおい)鉄道は都市部と地方を結ぶ。

 沿線住民は、その属性が多様性に富む。


 地形は終点に近付けば近づく程、人家が減って田畑と山林が増える。

 沿線住民の職種は、小売や観光、会社員などが減って農業や林業の割合が増え、終点に近付くにつれて少子高齢化が進む。



 都市部に接続する始点と山間の終点では、住民の時間の都合や価値観などが全く合わないだろう。



 「暮れに住民さんも交えた会議の席で、二木大鉄研の学生さんから、えーっと、なんとかムスメ……? 鉄道ゲームの会社にコラボを持ちかけたらどうかって話も出たんだが、本社の偉いさんたちは、ウチみたいなローカル線は見向きもされませんよ、と一蹴してたしなぁ」

 「はあ……そうですか。沿線の学生さんたちも、色んなこと考えてくれてるんですね」

 ローカル線でもコラボを実現し、それなりに集客できた例が、ニュースで時々取り上げられる。

 数年前のポスターの件から全く考えが変わっていないとわかり、三木は提案してくれた大学生のいたたまれなさを思って胃が痛んだ。



 「それはそうと三木君の実家は確か……終点の近くだったな?」

 「えっ? はい。自転車で一時間くらい掛かりますけど、一応、粟生井(あおい)駅が最寄です」


 三木の実家も含めて、終点付近の選挙区では、市会議員に税金によるメンテ代の補填を嘆願して実現させた。

 運転できる大人はまだしも、高校生以下や免許を返納した高齢者は、二木鉄が廃線になれば大打撃を受ける。

 廃線の危機感も、廃線阻止活動に掛ける情熱も全く違う。


 死活問題だ。


 「ウチの代表、三木君がやってくれないか?」

 「えっ?」

 「現場からも人を出すことになったんだ」

 「僕がですか?」

 「三木君なら、この辺のことも粟生井(あおい)駅辺りのことも詳しいから適任だ。シフトの都合はつけるから、頼まれてくれないか?」


 駅長の申し訳なさそうな物言いで、三木はこの件には残業代が出ないと察した。


 先輩たちは既婚者だ。小さい子や介護が必要なお年寄りが居て、仕事一辺倒というワケにはゆかない。

 三木は都市部と農村部を知り、独身で時間の自由が利き、後輩は居ないが勤続七年の中堅社員で、職場の幸瀬駅近くのアパートに住んでいる。


 確かに、三木以上の適任者はいないだろう。


 ……二木あおいの運営に回せる時間が減るなぁ。


 他に断る理由はなかったが、それだけは口が裂けても言えない。

 三木は顔が引き攣るのを抑えて引き受けた。

 「わかりました」

 「そうか、そうか。ありがとう。よろしく頼む」

 肩の荷が下りた谷上駅長は晴れ晴れと笑った。

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