65.細く、長く
「今回は特別大きな利益は出ませんでしたが、期限切れ間近の乗り放題切符が捌けました。これは大きな一歩です。今はとにかく赤字を減らすことが先決で、ご協力いただいた沿線の皆様には、この感謝をどう申し上げればいいかわかりません。誠にありがとうございました」
志染常務が、第三回二木粟生井鉄道活性化協議会の会議でスタンプラリーの成果を評価した。
乗り放題切符のお陰か、三木が予想したより景品が早く減った。増産するかどうか、微妙な線だ。
スタンプコンプリート一番乗りは、二木あおいのフォロワー、乗り鉄の上ノ丸だった。
記念撮影では、わざわざニッキーの斜め前に立って、イガ栗を持った手許を隠してくれた。記者もよくわかっていて、新聞紙面には当たり障りのない写真が載った。
会議室のスライドには、その記事が表示されている。
あの日、西口は上ノ丸の三本後の電車で粟生井駅に到着した。
「お疲れ様です。乗り放題切符が終わったら、参加者減るでしょうね」
「でしょうね。対策、まだ何も思いつかないんですけど……」
西口と三木の遣り取りに、二木大鉄道研究会の鵯越会長が加わった。
「取敢えず、地道に呼び掛けるしかないでしょうね。俺も、鉄研のサイトとツイッターでお手伝いしますから、一緒に盛り上げて行きましょう」
礼を言い、三人でラリー客対応の合間に相談したが、妙案は浮かばなかった。
志染常務が壇上から唐櫃営業部長に視線を向けて続ける。
「商いは、小さくてもコツコツ当てて行くのが手堅いんですよ。とにかく塁に出て打線を繋いで行く。一発逆転のホームランばかり狙ったのでは、塁に出られない内に打席が終わってしまいます」
「左様ですな。ホールインワンを狙うより、手堅い位置にボールを持って行く方がスコアは上がります」
宗佐ゴルフ場の広野氏が、最前列でうなずいた。唐櫃営業部長は、二人の言葉に大きくうなずいたが、ポーカーフェイスだ。
……頭の硬そうなお爺さんだから、萌えキャラのグッズとかイベントとか、反対されると思ったんだけどな。
三木は、協議会会長の発言を意外に思った。そこは流石に老舗のゴルフ場経営者として、商売のコツを心得ていると言うことか。
土日の列車はゴルフ場前の宗佐駅止まりが多く、広野オーナーが提案したホームでのレッスンも中高年を中心に客が集まったと言う。
ママ友サークルが提案した缶バッジは完売した。残っているのはゴールの景品だけだ。
「まさかこんなに売れるとは思ってませんでした。次の休みまでに増やしときますね」
木幡リーダー……ののママが笑顔で報告を終えた。
一個二百円で、三百個売れても六万円にしかならないが、乗客を増やすのがメインの目的だ。イベントとの相乗効果で、低予算にしては成果が上がったと言える。
具体的な金額は伏せたが、ニローたち地元農家や業者もそれなりに売れたらしい。
トイレや休憩スペースの不足などで苦情が寄せられ、反省点もあった。
マイクが田尾寺広報部長に渡る。
「来月は、観光協会からご提案いただいた“お花見列車”を運行致します」
地元業者が作ったお花見弁当と乗車券をセットで販売。過去の写真コンテストに寄せられた桜の写真と、沿線の子供たちに描いてもらった桜の絵を中吊りし、車内に桜の造花も飾ると言う。
天候と開花状況に依存する博打イベントだ。
不安はあるが、まずはやってみるしかない。
幸瀬駅に戻る車内で、三木はアンケートをツイートした。
〈これからスタンプラリーに参加する方、いつ頃の予定ですか?
○ 四月の土日
○ ゴールデンウィーク
○ 六月の土日
○ 夏休み〉
次々とリツイートされ、コメントが寄せられる。
〈@ウッディ GWにヘッドマーク撮りに行きます〉
〈@ののママ この間はお疲れさまでした。一緒に頑張りましょう☆〉
〈@上ノ丸 ありがとうございました。一番乗り、一生の記念です〉
〈@ヒヨドリ 四月の土日です! 景品まだあるかな?〉
〈@鈴蘭ノース GWと夏休みは修羅場! 六月に行きます♪〉
西口からメールが来た。
〈会議お疲れ様です。
契約切れた後も、言ってくれれば、二木あおいのイラスト描きます。
地元の足がなくなると困りますから、原稿料は安くていいですよ。〉
〈ありがとうございます。
細く長く続けられるようにキャラ運営と本業、頑張ります。〉
巨額赤字との戦いは、まだ始まったばかりだ。
列車がトンネルを抜ける。
竹藪に挟まれた線路の上には、どこまでも続く青空が広がっていた。
「俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ!」的エンドですが、not打ち切り。
すぐ解消できる赤字額ではないので、続編のプロットも考えてあります。本文は未着手。
キャラ名は、神戸電鉄の駅名由来。
主人公は「三木駅+栄駅→三木栄」の直球ネーミング。
ヒロイン(?)は「鈴蘭台西口駅→西口鈴」の部分使用。ちょい役のキャラまで全員が駅名由来ですが、難読率高いです。簡単な字でも「大沢二郎」と書いて「おおぞうにろう」(二郎駅+近隣の地名「大沢」)とか。
沿線風景のモデルにした「神戸電鉄粟生線」は巨額赤字を抱えていましたが、鉄道会社と沿線住民と行政が協力して赤字を改善させたローカル線です。
二木粟生井鉄道の駅名は、架空の駅名と既に廃線した三木鉄道の駅名が混在しています。
自分の経験(微妙な萌えキャラで炎上、某ローカル鉄道乗車記念スタンプのデザイン作成)から思いついた話ですが、事実は小説より奇なりと言うか、現実の方がずっと斜め上の超展開でした。
できごとなどには著作権がありませんが、この物語はフィクションであり、実在の人物、キャラクター、団体、鉄道会社、新聞社、事件などには一切関係ありませんので、念の為、申し添えます。
【経験部分の詳細】髙津央個人サイト「数多の花」
https://multiflora.koborezakura.com/linketc/imamoe01.html




