64.強力な味方
「記者さん、事務室に行きましたよ」
「そうですか。何か聞かれました?」
「どう言う立場か聞かれて、お疲れ様ですって言われました。人生初インタビュー、載るかどうかわかんないって言われましたけど」
二木大鉄道研究会の鵯越会長が、やや興奮気味に話した。
着信音で時間潰しの会話が途切れた。西口からだ。
シフト休みの西口が、始点の二木駅から順に写真を撮ると言ってくれた。乗り放題の切符と昼食代は、昨日の帰りに渡してある。
〈お疲れ様です。今んとこ、二木駅の物販、順調です。
スタンプも二十人くらい回ってるっぽいですね。〉
添付ファイルには、三駅目の別所駅までまとめてあった。
駅舎外観、スタンプ台付近、物販の様子、二木鉄八十周年記念ヘッドマーク、八十周年の駅ポスターと車内中吊り広告……全て人の顔を避けてあり、そのまま公開できる。
〈お休みの日にすみません。ありがとうございます。
こっちも物販の準備終わりました。
事務室に志染常務、田尾寺広報部長、ニッキー、新聞記者が来ています。〉
〈じゃあ、アリバイ工作、上手く行きそうですね。〉
〈引き続き、お願いします。〉
メールを終え、隣を見ると会長もスマホをいじっていた。少し安心して、二木あおいのアカウントに二木駅の写真を一枚ずつUPする。
〈スタンプラリー、始まってまーす☆
台紙はコンビニで出力できますよ~。〉
出力IDと#二木鉄などのハッシュタグを付けて小出しにする。乗り放題切符のツイートを自らリツイートして浮上させた。直後にフォロワーのヒヨドリが全てリツイートする。
タイムラインを流れるスタンプラリー実況全てにいいねを付けて回る。
ヒヨドリのぼやきが流れてきた。
〈今日は用事があってラリーに参加できない。
……けど充実してる!〉
〈う~ん、残念です……
でも、用事お疲れ様です。頑張って下さいね☆
ラリーは景品がなくなるまで毎週土日に開催します。
今度、用事のない日によろしくお願いします☆〉
ヒヨドリにリプしていると、他社の電車が入ってきた。
あちらは、ここが終点ではない。改札を出たのは男性客一人。見覚えのある顔だ。男性には不釣り合いなトートバッグから、市役所のロゴ入りクリアファイルを出し、三木の前に立った。
「お疲れ様です。こちらに印鑑……じゃなくて、スタンプをお願いします」
三木は背筋を伸ばした。沿線三市のひとつ、実家がある市の広報担当者だ。二木鉄の乗客を増やす会で顔を合わせたのを思い出した。
「お休みの日に恐れ入ります」
「いえ、これ、まぁ……趣味ですから」
「ありがとうございます。逆打ちですか」
「まぁ……家がこの奥ですから」
三木は恐縮した。
「景品の受け渡し場所、ここなんです……」
「まぁ、帰りに寄りますから大丈夫ですよ」
事務室から志染常務たちが出てきた。
「あ、これはこれは……恐れ入ります。休日出勤ですか?」
「いえ、どうせ手当て出ませんし、まぁ、イベント視察と趣味を兼ねてちょっと逆打ちを」
常務と田尾寺広報部長が恐縮して頭を下げ、ニッキーも直角に腰を曲げた。
「誠に恐れ入ります」
役所の広報担当が駐車場を見遣る。
「……地元の人も、物販に来てるんですね」
「はい。今のところ、花卉組合の苗と肥料が出ています。物販は、ラリー参加者がゴールするお昼からが勝負ですね」
三木が答えると、役所の広報は柔和な笑みを浮かべた。
「そうでしょうね。でもまぁ、急な話なのに出店者が集まってくれてよかったですね」
「イベントすると聞いて、身内と友達と近所の人の方から声を掛けてくれたので……」
「いえいえ、そう言う繋がり、大事ですよ」
役人が、志染常務と田尾寺広報部長を見て言った。
「左様でございます。地元の皆様あっての二木鉄ですから」
田尾寺部長が言うと役人は笑みを消した。
「人口減が進んで、住民の利用だけでは立ちゆかないのは、よくご存知ですよね? もっと他所から観光客などを呼ばないと……」
「私は……法に触れないなら、試しに何でもやってみればいいと思っていますよ。やって失敗するより、萎縮して何もせず、廃線が決まってから『こんなことなら、あれもやっておけばよかった』と後悔する方が辛いでしょうから」
志染常務の穏やかな声が、三木の胸に沁みる。
三木を怒鳴りつけた唐櫃営業部長の姿はないが、田尾寺広報部長は常務にやんわり窘められ、無言で頭を下げた。




