63.物販ブース
地元の新聞記者が準備中の物販ブースに歩いて行く。
粟生井農産物加工組の会長に就任した叔母が気さくに応じた。
志染常務が、お茶のペットボトルと社名入りの大判封筒を差し出した。
「学生さん、春休みにすみませんね。これ、つまらないものですが……」
「いえ、こちらこそ、社員じゃないのに貴重な体験をさせていただいて、ありがとうございます」
二木大学鉄道研究会の鵯越会長が笑顔で受け取る。
常務と田尾寺広報部長はホッとした顔で返礼し、ニッキーの着ぐるみを連れて他社の駅事務室に入った。
ドアが閉まってたっぷり十秒待って、鵯越会長が封筒を覗く。
イヤな予感しかしない。
鵯越会長が息を呑んだ。
「……ニッキーのクリアファイルでした」
流石にここで「後で捨ててくれていいよ」とは言えず、三木は引き攣った笑いを浮かべるしかなかった。
物販の準備が整うと、車で訪れた近隣住民が買物を始めた。記者が買物客にも取材する。
「ちょっと物販の様子見て来ます」
「あ、はい。ごゆっくり」
駐車場には、幌付きの軽トラ三台と後部ハッチを開けたワゴン車が一台。整列した車の後ろに折り畳み机をコの時に配置して、パラソルを立ててあった。
三木に気付いた押部谷が、ワゴンの荷台から手を振り、すぐに釣銭をコインケースに並べる作業を再開する。押部谷養鶏にはスタンプラリー参加者の昼食に、地鶏サンドと親子サンド、唐揚げ、鶏かやくごはんのおにぎりを用意してもらった。
「あら、栄ちゃん、そっちどう?」
「まだだよ。ここ、ゴールだし、一番乗りは昼頃になるから」
準備を終え、手が空いた叔母がニコニコ話し掛けてきた。叔母たちのブースには、二木あおいグッズも置いてもらっている。
従姉がスマホを出して、三木に向けた。
「加工組合もツイッター始めたからよろしく」
「こっちこそ、よろしく」
タイムラインには、完成したブースの写真がUPされていた。
売り物は、粟生井農産物加工組合の地場産野菜のボリューム弁当、数種類のジャムと自家製味噌、レトルトの鹿肉カレー、そして、二木あおいグッズだ。
ニコパのグッズと住民有志作の缶バッジの他、二木あおいのシールを貼ってグッズ化した米一キロパックもある。試験販売で、キャラの使用料はもらわない。ニローのクッキーと同じイラストに「あおいのお米」の文字を足したものだ。
西口には、これが上手く売れれば、本格的に販売する時にまとめて使用料を払うことで話がついた。
粟生井花卉組合のペットボトル入りドクダミ茶はまだ出ていないが、花の苗と肥料、ヒマワリの種子は、自家用車で来た地元住民が買っていた。
二木あおいのツイッターにログインすると、既に粟生井農産物加工組合からフォローされていた。フォロバしてタイムラインを少し遡る。乗り鉄の上ノ丸がスタンプラリーに参加していた。
「二木鉄」で検索して、ラリー参加者の実況ツイートに片っ端からいいねとリツイートして回り、お礼を言う。フォローしてくれればフォロバし、最後に粟生井農産物加工組合のツイートをいいねしてリツイートした。
〈スタンプラリーのゴール 粟生井駅でお待ちしています。
二木あおいちゃんのグッズもあります。
#二木鉄 #二木粟生井鉄道 #スタンプラリー #二木あおい
#粟生井農産物加工組合 #地産地消 #無農薬野菜 #弁当〉
それらを五分くらいで済ませ、販売者たちに改めて声を掛けた。
「ご挨拶が遅れまして恐れ入ります。本日はご出店いただき、ありがとうございました。初めての試みで到らない点が多いと思います。二木粟生井鉄道活性化協議会と地元の皆様からのご意見、ご要望、ご鞭撻をよろしくお願いします」
三木が頭を下げると、拍手が起きた。
顔を上げると押部谷が涙を拭うフリをしてニヤリと笑う。
「三木……すっかり立派になって……」
「まぁ、仕事だし……売り物の写真、撮らせていただいていいですか?」
同級生に苦笑した顔を引き締め、出店者たちを見回す。
今回、急な呼び掛けに応じてくれたのは、身内と同級生、隣近所の人たちばかりだ。事情を知る者からの反対の声はなく、三木は各ブースの写真を四枚ずつ撮って戻った。
今のところ売れているのは、花卉組合の肥料と花の苗だけだ。
……本番は昼からだ。




