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起死回生ブレーキ! 二木粟生井鉄道  作者: 髙津 央


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62.ラリー初日

 三月半ばの土曜日。

 幸瀬駅の駅員三木は、朝から終点の粟生井(あおい)駅に居た。

 待合室の前で、スタンプラリーのゴールスタンプの見張り兼コンプリート景品の引換え係。引換え済み台紙の余白に「済」と日付印を()す。


 隣には二木大学鉄道研究会の鵯越(ひよどりごえ)会長。ひょろりとした青年は、スマホを手に興奮を隠しきれない様子で、改札と駐車場を交互に見ていた。


 「駅員さん、スゲー……二木鉄乗り放題切符、超売れてます」

 「そんなに?」

 「ツイート確認できた分だけでも、十七人も居ますよ!」


 向けられた検索結果には、ラリーの台紙と磁気式の一日乗車券を重ねて持つ手の画像が並ぶ。

 乗り放題切符の有効期限は残り半月を切った。この時期にそれだけ売れたのはよかったが、これが「たくさん」に見える経営状態は、三木の胃を絞めつけた。



 「学生さんは、ラリー回らなくてよかったんですか?」

 「別の日にするんで全然平気です。でも、フィニッシュ()して景品渡すのって、今しかできないスゲー経験デスよ?」

 「あ……そう言われてみれば、そうですね」

 鵯越(ひよどりごえ)会長の笑顔が眩しい。


 完全タダ働きではあまりにも申し訳ないので、叔母たちに代金を払って地場産野菜のボリューム弁当は押さえた。


 ……この経験って、いい意味でも悪い意味でもプライスレスなんだな。


 三木は普通に日勤だ。叔母たち粟生井(あおい)農産物加工組合のメンバーや養鶏の押部谷(おしべだに)たちも「仕事」で来ている。今頃は白百合農園のニローたちも、国包(くにかね)駅で物販ブースを組んでいるハズだ。他の駅でも、地元業者が準備しているだろう。


 ……仕事抜きで手伝ってくれる人たちに、どう(むく)いればいいんだろう?


 無償の働きを完全に「ゼロ円」換算して、やりがいを搾取するのはよくない。だが、今の二木鉄には彼らに時給を払う体力はなく、三木個人にもそんなカネはなかった。


 「だから、バイト代とか気にしないで下さい。ここで立ち上がらなかったら鉄ヲタの名折れですから!」

 「色々助けていただいて、本当にありがとうございます」

 せめて精いっぱいの感謝を籠めて頭を下げる。


 ……そっか、純粋に鉄道が好きで手伝ってくれる人も居るんだな。


 ヒマなせいで、鵯越(ひよどりごえ)会長はここぞとばかりに絡んでくる。

 「駅員さん、乗客を増やす会の分は残業代出ないんでしょ? お互い様ですよ」

 「でも、仕事と言えば仕事ですし……」

 「ホントに仕事だけでラリーの提案したんですか?」


 問われて初めて、三木は自分の気持ちを整理した。

 上手くまとまらないが、ぽつぽつ言葉に変換する。

 「廃線したら、通勤通学の足がなくなって大勢が困ります。都会に通勤してる友達も居ますし……えっと……個人的にも、廃線はイヤで……」


 ……僕が「二木あおい」を作ったのも、仕事抜きで「廃線したら地元が色んな意味で終わるから」だけど。


 「あぁ、通勤で会えなくなりますもんね」

 「僕の駅を使う友達は居ないんですよ。他の駅使ってて……ネットでやり取りするけど、お互い忙しくて何年も会えなくて……でも、少なくとも線路で繋がって……えっと……」

 言語化できない思いが絡まって声が途切れた。


 ……でも、それだけじゃない。何て言えばいいんだろう?


 「あぁ、二木鉄が廃線したら、通勤できなくて都会に引っ越して、ますます縁が薄くなって、ホントに切れちゃうみたいな危機感。……鉄路が繋ぐ縁、大事にしたいんですね」

 わかった風にうなずく鵯越(ひよどりごえ)会長の言葉が、絡まった思いをほぐして一本の線に変えた。


 ……そうか。僕、廃線で人の繋がりも一緒に消えてしまうのがイヤなんだ。


 乗客の姿や沿線の多様な風景が、いつか見た夢のように脳裡(のうり)を駆け巡る。

 都会と山間部を繋ぐの鉄路の上に、ラインカラーと同じ青空が広がった。


 「駅員さん、“乗り合わせるも多様な縁”ってことで、一緒に頑張りましょう!」

 「はい。線路が葛で埋もれないように頑張ります!」

 三木は“袖振り合うも多生の縁”をもじっておどける学生と固く握手を交わした。



 九時前の列車を降りたのは、たった四人。志染(しじみ)常務と田尾寺広報部長、ニッキーの着ぐるみと地元新聞社の腕章を巻いた記者だ。

 ニッキーを見た鵯越会長が、笑いを噛み殺して変顔になる。


 「おはようございます」

 「おはよう。……逆打ちのお客さんは居ないんだね?」

 志染(しじみ)常務が見回し、駐車場の物販以外に人が居ないのを確認した。


 田尾寺広報部長がニッキーの肩に手を置いて言う。

 「一番乗りのお客様を新聞に載せてもらえることになった」

 「は、はい。ご理解とご了承をいただけますよう、努力します」

 ニッキーは、割れたイガ栗を手にくっつけた中途半端にリアルなリスの着ぐるみだ。何度見ても、子供受けしないどころか大人でも無理な造形だった。


 ……これとツーショットで新聞に載るとか、どんな罰ゲームだよ。


 どうやって説得しようか。三木は内心、頭を抱えた。


 「到着はお昼頃の見込みですが、着ぐるみの人、大丈夫ですか?」

 「大丈夫、大丈夫。今日の最高気温は十五度だそうだ」

 志染(しじみ)常務が安請け合いしてニッキーの頭をポンポン叩く。

 三木は、どこかに引っ込めた隙に景品を渡す作戦が不発に終わり、胸がちくりと痛んだ。

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