60.起死回生!
回生ブレーキは、電車のモーターを発電機として使った負荷で減速し、発生した電気を架線に送る。その電気を使うのは、ブレーキを掛けた電車自身ではなく、近くを走行中の他の電車だ。
二木粟生井鉄道の経営状態が彼岸花畑状態で廃線の危機を迎えたから、三木は一年掛けて準備して行動を起こした。
並行して、三木が知らないところで役所と住民と地元業者が協力し、二木粟生井鉄道活性化協議会……通称「二木鉄の乗客を増やす会」が発足した。
三木の絵が論外レベルで下手だったから、花鳥画絵師の西口が専門外のイラストを描いてくれた。
ちゃんとした萌えキャラではなかったから、ねとにゅ~が記事にしてネットで話題になった。
炎上したから、ニローたち沿線住民が動いてニコパなどの企業からコラボの打診も来た。
協議会の会議で面と向かって反対された時、二木大学の鉄研会長が立ち上がって庇ってくれた。
予算がないことをぶっちゃけたから、地域住民が無償で不用品を提供して手伝いを申し出てくれた。
社内の反対があったから、逆に地元有志が積極的に動いてくれた。
実際には乗車できない人たちも、二次創作やSNSで楽しみながら協力してくれている。
近くを共に走る電車が居なければ、回生ブレーキは失効してしまう。
二木鉄は廃線へ向かうレールに乗り上げようとしていた。
最終判断をするのは経営陣だが、回生ブレーキを作動させ、ポイントを存続方向のレールに切換えたのは、同じ空の下で架線を共有する人々だ。
都市部から終点の農村地帯まで線路と架線が繋いでいる。
廃線になれば、人の繋がりも一緒に消えてしまうだろう。
三木は、涙が滲む目をこすってスマホをみつめた。
……今は、ネットの回線で遠くの人とも繋がってる。
ニローとニコパに返信を終え、珈琲を飲んでいると、立て続けに着信があった。
西口と押部谷だ。
〈言い忘れてました。ラリーのコンプ景品用にイラスト描き下ろしました。
三種類。モノは缶バッジと白百合農園のクッキーとクリアファイルです。
このイラストの分は非売品にして、スタンプラリーのモチベUPに使いましょう。
缶バッジは乗客増やす会の人が機械貸してくれたんで、それで作ってます。
レンタル料に缶バッジ渡しました。
バッジはスタンプの原図……三木さんの鉄道写真でも作ってます。
白百合農園さんには、クッキー作ってもらってるとこです。
クリアファイルは、スタンプの会社に発注済みです。
三木さんの入院中に進めてすみません。〉
〈いえいえ、そんな。とんでもない。
入院中に全部片付けて下さってありがとうございます。
こっちこそ、西口さんの負担を増やしてしまってすみません〉
西口のメールに低頭して返信した。
養鶏農家の押部谷は、三木が気付かなかったことを提案してくれた。
〈スタンプラリーやるって聞いたぞ。頑張ってんじゃん。
終点のあの辺って、食いもん屋ないだろ。どうすんの?
よかったら、俺んちの地鶏サンドと唐揚げと鶏おにぎり売るけど?〉
粟生井駅は待合室の前に自動販売機があるだけで、周辺三キロ圏内に飲食店はない。
一応、粟生井駅の他社サイドにイートインできるパン屋はあるが、五席しかない上に学校が休みの土日祝日は定休日だ。
〈ありがとう。
今、ウチの駅長が役所と本社に言ってくれてる。〉
〈それ、おばちゃんから聞いた。
当日のことは任せてくれ。
俺らあっちこっちのイベントで物販慣れてるから。〉
同級生の頼もしい申し出に、三木はスマホを拝んで返信した。




