06.開業八十年
始発業務まで二時間弱。
……いっそ、徹夜しようかな? いや、流石にそれはマズいか。
二木あおいのフォロワーは、ほんの数時間で二木粟生井鉄道公式を超えた。
三木はスマホの電源を落とし、充電器に挿して目をつぶる。
瞼の裏にタイムラインが焼き付いていた。
車輌写真、駅舎写真、ヘッドマーク、鉄道関連ニュースのリツイート、鉄ムスの二次創作イラスト……タイムラインに流れたカラフルなアイコンや写真の残像が薄れ、うとうとし始めた頃、強制起床装置に叩き起こされた。
明け勤の始発業務をなんとか無事にこなし、一人暮らしのアパートに帰り着いた途端、どっと疲れが押し寄せる。
三木はとるものもとりあえず、寝直した。
昼過ぎに目を覚ます。
頭の芯に眠気が残り、思考が回らない。
機械的な動作で、ヒマな日に大量に作ったおかずを解凍して、もそもそ食べる。食器を洗う頃には目が覚めてきた。
ふと思い出して、スマホの電源を入れる。
ツイッターの通知が、三桁に達していた。
息を呑んだ拍子に咳込み、スマホを置く。
布団を干して空の青さを確認して、部屋全体に軽く掃除機を掛ける。
水を飲んで動揺を鎮めて、通知の内容を確認した。
いいね、リツイート、フォロー、二木あおい宛の@ツイートの件数が、それぞれまとめて表示されている。
反応してくれたアカウントをチェックするのは、諦めた。
多過ぎる。
フォローしてくれたアカウントをざっと見て、直近に非常識なツイートがない限り、フォローを返した。
布団を取り込み、定位置に敷き直して、もう一度、スマホの画面を見る。
昨日の今日……いや、たったの半日ちょっとで、自社公式アカウントの六倍以上のフォロワーがついていた。
……これで開業記念イベントとかに来る人が増えて、増収できればいいけど。
フォロワーが、二木粟生井鉄道の沿線や近隣都市の住民なら、現実に足を運んでもらいやすいが、遠方や海外在住ではそうもゆかない。
無料でイベントの告知を拡散してもらえるだけでも、充分過ぎるくらいありがたかった。
二木あおいのフォロワー自身は無理でも、そのフォロワーのフォロワーには、実際に乗りに来られる者が居ないとは言い切れないのだ。
二木粟生井鉄道は、牧歌的な田園風景が広がるローカル線だ。
終点に近付く程、自家用車の保有台数が増える。
三木の家族でさえ、滅多に乗ってくれないのだ。
沿線住民には、一度も二木粟生井鉄道に乗ったことがない者が少なくなかった。
二木あおい宛のツイートを確認する。
〈開業八十周年おめでとうございます♪〉
二行目で、喜びにキラキラ輝く顔文字AAが踊る。
アイコンは◎の図形だ。プロフィールを見る。
どうやら、乗り鉄らしい。
ヘッダ画像は、地方の観光列車の座席。ツイートは記念乗車券や座席、駅舎の写真や乗り心地の感想などだった。
ダイヤや乗り継ぎには、あまり興味がないらしい。
三木は、珍しいタイプの乗り鉄だな、との感想を飲み込み、返信をツイートした。
〈上の丸さん、お祝いありがとうございます。
今日から一週間、最初の記念イベントが始まります。
今年は他にも色々な記念列車が運行されるので、お楽しみに♪〉
言葉を選んで乗り鉄にアピールし、いいねしてフォローする。
上ノ丸からは、既にフォローされていた。
直近の写真付きツイートは、秘境駅を経由する観光列車だ。どこに住んでいるのか知らないが、このローカル線にも乗りに来てくれるのではないか、とついつい期待してしまう。
二木あおい宛のツイートは、この一件だけだった。




