59.協力者多数
「じゃ、今夜は十時までに寝ろよ。いいな」
「うん、わかった。ありがとう」
幸瀬駅前のアパートまで送ってくれた兄は、何度も念押しして帰った。
三木は、スマホを充電器に挿して珈琲を淹れる。
制服は入院の翌日、もう一度来た母が回収して洗濯し、駅に届けてくれた。珈琲で気持ちを落ち着け、数日分のメールをチェックする。
西口からの連絡と、ダイレクトメッセージの通知だった。
本社と二木鉄の乗客を増やす会の主な会員が話し合った結果、スタンプラリーは土日限定になったと言う。
残りの駅を全て仕上げ、日曜にスタンプ原画を業者に送信して、支払いも済ませたと言う。代金は立替えたので後で返して欲しい、とスタンプの原画と送金控えの画像が添付されていた。
西口にお礼を送る。
火曜の午後五時前。まだ窓口業務中だから、スマホには触れないだろう。
三木はツイッターにログインした。
病室で話した通り、西口鈴はグッズ販売とスタンプラリーの告知、イラクティブに投稿されたイラストの紹介をし、当たり障りのない返信までこなしてくれていた。
……有難過ぎる。
三木は心の中で西口を拝んで、ダイレクトメッセージを開いた。
ニロー、ののママ、ニコパの担当者からだ。
白百合農園のニローは、本社の担当者と話し合ったと言う報告だった。
三木の従姉たちと同じことを考え、二木粟生井鉄道活性化協議会の会員として、近所の農家や小売店の要望をまとめて、本社に持ち込んだと言う。
谷上駅長には伝わっていなかったが、メッセージの日付は昨日……月曜だ。日曜にスタンプラリーの告知ツイートを見てすぐ思いついたとある。
本社からの回答は、協議会に参加する沿線農家と商店、全てに打診する……だったらしい。
三木はニローのフットワークの軽さと情報の取りまとめ能力、プレゼン能力に脱帽した。
……あれっ? 本社もヤル気なんだ?
催しの告知ポスターなど印刷物を作る時間と予算はないが、ネットなら……三木は二木あおいのツイートを遡った。
〈土日祝日限定でスタンプラリーやります☆
二木鉄全駅コンプリートの景品がなくなり次第、終了です〉
西口が代理でツイートしたスタンプラリーの告知は、リツイートが四百件近くある。グッズ販売の件は、リツイートがラリーの倍以上、いいねは千件を越えていた。寄せられたツイートの大部分は、通販の有無の問合せや「絶対買いに行く」との意気込みだ。西口はそつなくレスしてくれていた。
ツイッター内を「二木あおい グッズ」で検索する。
グッズ購入者たちも駅の自撮りや自宅で撮った戦利品写真をUPしていた。それらすべてに、いいねを付けてリツイートし、お礼をツイートする。
……あぁ、いや、こんなコトしてる場合じゃない。さっさとレスしなきゃ。
〈ニローさん、DMのお返事、遅くなって申し訳ございません。
ここ数日、バタバタしてまして、他の者にツイッターを任せていました。
本社にご提案いただき、ありがとうございました。〉
ニローに返信し、ののママのメッセージに目を通す。
グッズ販売のボランティアに立候補したとあり、張り切る絵文字が乱舞していた。
ののママのツイッターを見る。
メディア欄に販売当日の写真をみつけた。顔は写っていないが売り子の女性が例のTシャツを着ている。
詳細を開くと、ニローの白百合農園とグッズを製作したニコパなどが、リツイートしていた。どちらも、グッズ販売の件をツイートしている。
一連のツイートを引用して、ねとにゅ~が記事を書き、それもツイートとリツイートで拡散されていた。
遅れ馳せながら、三木も二木あおいとしてリツイートしてダイレクトメッセージの返信で詫びと礼を言う。
ののママから即レスが来た。
〈お疲れ様です。駅員さん、お体もう大丈夫ですか?
私たちはサンプルのTシャツとかいただいちゃいましたし、売り子、楽しかったんで全然平気です。
あんまりムリしないで、お大事になさって下さい〉
労い、心配、喜びの絵文字が踊るが、文面は到って真面目だ。
……ん? あれっ? 僕が中の人だって気付いて……?
二木粟生井鉄道活性化協議会の会合では顔を合わせたが、あの時は何も言っていない。その後、DMで社員だと明かしたが、駅員であることと勤務する駅は言わなかった。
恐る恐る質問すると、意外な答えが返って来た。
〈前の会議で、スタンプラリーの提案した駅員さんが、あおいちゃんの中の人だって気が付きました。でも、偉い人たちの空気サイアクだったんで、会社には内緒なのかなって思って、サークルのみんなには口止めしときました。〉
あの程度の工作では本社の連中も誤魔化せないだろう。だが、ののママの気持ちが嬉しかった。
〈ありがとうございます。〉
涙で画面が曇り、三木はそれ以上の言葉もなく返信した。
直後にニローからレスが来た。
〈てっきり病院からツイートしてるのかと思ってましたよ。
長丁場になるんで、あんまり無理しないで下さいよ。
幸瀬駅の様子、見に行きました。
缶バッジとか住民が作ったグッズもそこそこ売れてました。
大学の鉄研と高校生が画像UPして拡散してくれたりとかしてました。
社内は反対意見が多くても、乗客増やす会には協力者が多いんですよ。
元気出して、一緒に盛り上げて行きましょう。〉
涙腺が決壊し、スマホに大粒の滴が落ちた。
慌てて袖で拭い、ティッシュに手を伸ばす。
目頭をティッシュで押さえ、ゆっくり深呼吸していると、回生ブレーキの模式図が頭に浮かんだ。




