表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
起死回生ブレーキ! 二木粟生井鉄道  作者: 髙津 央


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/65

55.スマホ没収

 両親と兄が血相変えて病院にすっ飛んで来た。

 駅長が帰ってからほんの二時間足らずだ。明らかにスピード違反だが、つっこめる状況ではなかった。


 「いや、あの、別に……命に別条なくって……お医者さんが一応、精密検査って……えっと、明後日には仕事していいって……」

 安心したのか母が泣きだし、父は険しい顔で言った。


 「さっき、お医者さんと話した。検査の結果が悪かったら、手術って言われたぞ」

 「大丈夫だって。健康診断で引っ掛かったことないし、メタボじゃないし、高血圧じゃないし、煙草吸わないし、お酒はちょっとしか飲まないし、そんな悪くなる理由ないんだから」

 三木は半ば自分を安心させる為に、大丈夫だと思う要素を並べた。


 「そうか? まぁ素人がごちゃごちゃ言ってもしょうがない。検査の結果が出てからだな」

 「お父さん、あんまり長居したら(さかえ)が疲れるから……」

 母がハンカチで涙を拭い、着替えが入った紙袋を椅子に置いて、父の背中を押す。


 黙ってやりとりを見守っていた兄が右手を出した。

 「スマホ!」

 「スマホ?」

 「退院するまで没収な」

 「えぇッ?」

 兄はずいっと一歩近付いて三木の鼻先に掌を突きつけた。


 「例のツイッター見たけど、お前、いつ寝てんだよ? 原因、明らかに過労と睡眠不足じゃないか」

 「いや、あの、でも、会社から連絡来たら困るし……」

 「駅長さんには俺が言っとくから」

 「お願いだから、入院してる間くらい休んでちょうだい」

 母がまた泣きだし、三木は渋々スマホを預けた。



 四人部屋だが、他のベッドはカーテンが閉まって静まり返っている。取り残されたような不安を覚えた。



 夕方、西口鈴が一人で見舞いに来た。

 「これ、幸瀬駅のみんなからです」

 「あ……何か、すみません。あの後……駅、どうでした?」

 くまくま茶屋のクッキー詰め合わせを受け取り、三木は恐る恐る聞いた。西口が中指で赤いメタルフレームの眼鏡を押し上げ、やっぱり、と呟く。


 「駅長さんに『あいつ、絶対気にするから言うなよ』って口止めされました。別に事故とか大きなトラブルはなかったんで大丈夫です。強いて言うなら、三木さんが倒れたこと自体がトラブルですね」

 「すみません」

 ズバリと言われ、三木は項垂れるしかない。

 視界の端で西口の手が動いた。ナースコールのコードを引っ張り、三木の手に握らせる。思わず顔を上げて西口を見た。


 「ここなら逆に安心なんで、心臓に悪いコト言っちゃいますね」

 「えっ?」

 「土曜日……明日からニコパのグッズ販売が始まります。二木駅と幸瀬駅でも土日限定で、売切れるまで対面販売します」

 「駅のどこって言うか、誰が……?」

 あんなにキレていた本社が、有人駅での販売を決定したのが意外で、三木は拍子抜けした。


 ……これのどこが心臓に悪い話なんだ?


 西口はベッド脇の椅子に腰を下ろし、バッグからスマホを取り出した。

 「幸瀬駅は下りホームで、売るのは二木鉄の乗客を増やす会のママさんたちが、交代でボランティアしてくれるそうです。ママさんたちの都合がつかない時間帯は、私か老人会の人が入ることになりました」

 「西口さんも、ボランティアなんですか?」

 「私は勤務時間中の代理なんで、フツーに給料の範囲内です。ママさんたちには、駅長さんが『本社に置いてても仕方ないだろう』ってグッズのサンプルもらってきて、あげてましたよ」


 まさかの現物支給。

 ののママは、絶対に買うと言っていたから喜ぶだろうが、他のママさんたちはどうなのか。ハイテンションなメッセージを思い返してホッとした半面、不安も残った。

 手許にスマホがなく、二木あおいとしてお礼を言えないのが申し訳なかった。


 ……退院したらすぐ言わなきゃな。


 西口がスマホに表示させたリストを読み上げる。

 「幸瀬駅の販売ノルマは、マグカップとTシャツが二十個ずつ、アクリルキーホルダーとクリアファイルが五十個ずつです」

 「えっ? あれっ? 種類、増えてませんか?」

 「私は知りませんけど、多分、本社がニコパに打診されてOK出したんでしょうね。サンプル見ましたけど、全部元絵とアレンジだったんで、私は何もしてません」

 「そうなんですか……」


 三木はあの時、誰が二木あおいのイラストを描いたか口を割らなかったので、西口に追加の手間が発生しないのは当然だが、キャラクターの使用料も入らない。

 申し訳なさで小さくなりながら、ナースコールを手の中でこねくり回し、西口の顔色を窺った。


 ポーカーフェイス。

 怒っているのか、迷惑しているのか、面白がっているのか。

 全く読めなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ