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起死回生ブレーキ! 二木粟生井鉄道  作者: 髙津 央


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52.なぞり直す

 イラクティブの画像が勝手に使われる懸念を言い掛けた三木の口が、ぽかんと開いて固まった。


 西口は三木も知っている漫画家の名を数人、初めて聞く名をその三倍くらい挙げる。

 言われてみれば確かに、どこかで見たような絵柄で描き直されたイラストがあった。


 「こっちから依頼したらおカネ発生しちゃいますけど、向こうが自分の趣味で描いて自分で配布する分にはタダですし、それをツイートすれば、多分また、ねとにゅ~さんが拾ってくれて、話題になりますよ」

 なかなか腹黒いことを言う。


 ……そんなに上手く行くかな?


 三木は微妙な気持ちで西口を見た。

 その目が赤いメタルフレームの奥で不敵に笑う。


 「あちらさんも、ブームに便乗して自分の読者を増やそうとしてるだけですし、誰も損しませんよ。取敢えず、公式の四種類をPDF化して、三木さんの分のスタンプ画像が一個できた時点で、台紙の配布だけ先行しましょう」

 「一個でいいんですか?」

 「台紙の配布だけですし、マイ台紙がいい人は、作る時間が要るでしょう」

 「そう言うもんなんですね。……頑張ります」


 〆切りの件を考えると、一日一枚でもギリギリだ。

 流石に夜勤の日は描けない。

 完成できるか大いに不安だが、やるしかなかった。



 帰って、すっかり遅くなった夕飯と入浴を済ませ、日課になったツイッターとイラクティブのチェックが終わる頃には、もう十一時を回っていた。



 明日は朝八時出勤だ。十二時には寝た方がいい。

 思い切ってわかりやすい部分からシャーペンでなぞり始める。


 電線や看板が邪魔だが、見なかったことにして二木駅の輪郭をどんどんなぞる。

 トレーシングペーパーがずれて描き難い。

 途中から気付いてセロテープで貼ったが、既に何カ所もずれていて、線が繋がらない。

 消しゴムを掛けると薄い紙がくしゃくしゃになった。


 諦めて新しい紙でなぞり直す。



 始める前はどうしようかと思ったが、一旦手を付けると作業に没頭して、顔を上げたのは完成してからだった。

 午前四時を回っている。


 ……いっそ寝ない方が……? いや、寝なきゃダメだ。


 こたつの上を片付けず、灯を消して布団にもぐる。

 まどろみ始めた頃に目覚まし時計に起こされ、頭に霧が掛かった状態でバタバタ仕度して家を出た。



 「三木! 下がれッ!」

 大村先輩の怒声で、弾かれたように後退する。

 ホームで乗客を誘導しながら、自分が落ちそうになっていた。姿勢を正して気合いを入れ直す。


 ……本業がおろそかになっちゃ、本末転倒だ。しっかりしろ! 自分!


 「何やってんだ! 駅員が人身起こしてどうすんだ!」

 大村先輩にどやされながら、どうにか一日終えたが、今日は夜勤だ。気持ちは逸るがスタンプの続きはできない。

 仮眠室の布団に包まり、スマホを手に取ったが、今夜はいつものツイートとイラクティブのチェックをする気力もなく、眠りに落ちた。



 流石にそれだけ眠れば意識がはっきりして、始業準備と通勤ラッシュの改札業務は叱られずにやり遂げられた。



 〈コラボグッズできました☆〉



 帰宅後すぐ、ニコパからダイレクトメッセージで届いた商品画像にいつものハッシュタグをつけてツイートし、スマホを置いた。

 二木鉄側の販売準備がまだで、ネット通販が先行すると言う。


 利益の何割かは二木鉄に入るそうなので、気にせず極細のミリペンで下描きをなぞる。

 ペン先がトレーシングペーパーで滑って描き難く、一枚なぞり終えるのに三時間掛かった。


 どうにか一枚完成したと思ったが、西口にメールする前に下書きを消さなければならないことに気付いて、疲れがどっと押し寄せる。


 インクが乾く前にこすったら線が汚れてしまう。

 念の為、明日消すことにして、昨日の分のツイッターとイラクティブをチェックする。


 空腹のピークはとっくに過ぎていた。

 何も食べないのはよくないと気付き、スマホをいじりながらスナック菓子をつまみ、塩分とカロリーだけを補充する。


 ……明日はパンか何か買って帰ろう。



 駅で顔を合わせても、西口はスタンプの件などおくびにも出さず、粛々と通常業務をこなす。


 三木は、駅業務をこなすだけで精一杯だ。

 睡眠不足の蓄積が思った以上に(こら)えているらしい。

 駅長や先輩にどやされる回数が増えてしまった。



 「三木さ、西口さんばっか見てないで、ちゃんとしろよ」

 「えっ? いえ、別に見てませんよ」

 「とぼけんな。見りゃわかんだよ。定期の窓口、気にしまくりじゃないか」

 「あ、いえ、決してそう言うあれでは……」


 大村先輩の誤解を解くには、事情を話さねばならないが、それは西口の望む所ではない。中途半端な否定に先輩のニヤニヤ笑いが加速する。


 「こないだから二人でちょくちょく、おうちカフェ行ってんじゃないか。割と上手く行ってんだろ?」

 「あぁ、いえ……えーっと……あ、仕事! 呼出し押されたんで、出ますね」

 三木は券売機の扉を開けて切符売り場に顔を出した。

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