48.デザイン案
「いえ、今から枠と写真を組み合わせて作ろうと思ってます」
……そのくらいなら、僕でもすぐできるさ。多分。
西口が少し考えて言う。
「どうせ、印刷代がお客さん持ちになるなら、何種類か用意した方がいいでしょうね。季節で変えたり、例のキャラバージョンを作ったり……」
「でも、本社にバレたら……」
大胆な提案に思わず声を潜めて周囲を窺う。
おうちカフェ店内に見知った顔はなく、他の客はみんな離れた席で聳え立つパンケーキに夢中だ。こちらに注意を向ける者はひとりも居ない。
西口が手を口許に寄せて囁く。
「二木あおいのアカウントでコードを発表して、お客さんが自腹で印刷して、本社の懐は傷まないんですから、大丈夫ですよ。……多分」
「そう……ですよね。そもそも、キャラで知名度上がったんだから、ない方が不自然ですよね。……でも、いいんですか? また、デザイン」
西口の言い分に納得して口許に笑みが浮かんだが、すぐ真顔に戻った。
「いいですよ、パッケージデザインの没画なんで」
「何種類も描いてくれてたんですか?」
「普通、そう言うもんですよ。描いたけど、パッケージ向きじゃない感じだから没っただけで、別に手抜きとかそう言うんじゃないンで」
揶揄に取られたかと思い、三木は慌てて言い繕った。
「いえ、あの、できが悪いのをリサイクルするな、とかそう言うんじゃないんで、はい、大丈夫です。お任せします」
「枠線と組んでデザイン調整したら、データ送りますね」
あっさり話がまとまり、本当にいいのかと思うが、何せ三木はこの方面の素人で、絵心が壊滅状態との自覚がある。
知識と技術を持つ西口の言う通りにすれば間違いなかろう、と下駄を預けることにした。
「三木さん、描きたい駅ってありますか?」
「いえ、特には。半分ずつでどうですか?」
「半分も? 大丈夫ですか?」
西口は、三木が送ったばかりの画像から顔を上げる。
本気で驚かれ、少しムッとしたが、珈琲と共に飲み下して静かに答えた。
「写真をなぞるだけですし、大丈夫ですよ」
「そうですか? じゃ、どの駅にします?」
「えーっと、小さい無人駅、いいですか?」
西口がメーラーからダウンロードした画像を確認しながら聞く。
「下石野駅と厄神駅……瓦があって面倒臭いですけど、いいですか? 駅は大きくてもビルの形の方が楽だと思いますよ」
西口の手許を覗くと、下石野駅は木造平屋建てで瓦屋根、厄神駅はそれに木造の跨線橋も架かっていた。
いつも何となく見ていたが、描くとなると、細かい部分が多くて難しそうだ。
……西口さんに選んでもらった方がいいんじゃないか?
「あ、あの、じゃあ、お任せしていいですか? 取敢えず、僕、二木駅描いて、それができたら、西口さんの方から、次に描く駅、指示してもらった方がいいかなって思うんですけど……」
「……あー……そうですねー。その方が効率いいでしょうねー」
西口はバッグからメモ帳を取り出し、一ページ破り取って四角を描いた。
「駅名の位置、どうします? テンプレ決めて、左右どちらかの柱か、天地どっちかか。ぐるっと囲む配置にするか……?」
言いながら次々と四角を増やし、「二木粟生井鉄道乗車記念 二木駅 にき」と仮に漢字とかなで駅名を入れてみせる。
五パターンで終わりかと思ったが、紙を裏返し、少し大きめの四角を描いて中に建物のラフを描く。どうするのかと見守る内に、建物と枠線の間に文字を書き込んだ。
「で。もうひとつ。デザインの余白に組込むパターン。……さっき、三木さんが言ってた形式ですね」
「あー……これだと一駅ずつ配置考え直さなきゃいけないんですね……」
ラフを並べられて初めて、自分の案のデメリットに気付いた。
絵心のある西口なら、配置を決めるのもすぐだろうが、三木では、三日くらい頭を悩ませた挙句、残念なシロモノにしかならないと断言できた。




