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起死回生ブレーキ! 二木粟生井鉄道  作者: 髙津 央


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46.絵師の相場

 山に囲まれた空は、すっかり暮れている。

 三月とは言え、まだ冷たい風に思わず身を竦め、人気のない農道を駅へ向かう。次の電車まで後三十分くらい。道々、西口に何と連絡するか考える。


 パッケージイラストの制作費が三万円になったこと。

 来週の日曜から販売開始で、売上は月イチでまとめ払い。

 毎月の活性化会議の翌日に支払われるので、西口にはそれ以降に渡すこと。


 ……で、どうやって渡すんだ? ウェブマネー?


 無人のホームで電車を待つ間、西口にメールを送って意向を確認する。

 今の時間は帰宅途中の筈だ。思った通り、すぐに返信が来た。


 〈ありがとうございます。駅での受渡しは危険な気がします。

  どこかで手渡しにしてもらっていいですか?〉


 金額確認の都合上、すれ違い様に封筒を渡すのはダメだ。

 万単位の現金を西口が居ない机に放置するのもどうかと思う。やはり西口の言う通り、どこかで手渡すしかないようだ。


 三木が迷っていると、踏切の警告音が聞こえてきた。

 間もなく入線する。

 カンカンカンカン……と言う遠い音に急かされて返信した。


 〈じゃあ、またおうちカフェでどうでしょう?〉


 〈まだ、幸瀬駅のホームなんで、今から集合ですか?〉


 合計四万円もの大金を来月まで預かるのは気が引ける。「西口さんさえよければ」と現地集合に決まった。



 おうちカフェの店内を見回すと、西口は注文を保留して窓際の席で待っていた。

 「お待たせしてすみません」

 「あ、いえ、こちらこそ、わざわざすみません」


 ぺこぺこ頭を下げ合い、取敢えず二人ともホット珈琲を注文する。

 三木が三万五千円入り封筒をそっとテーブルに置くと、西口が会釈して中身を改める。


 「ホントに……こんなにいいんですか?」

 「ニローさんの奥さんが、特殊技能だし、場合によってはもっと高いもんだから、三万しか出せなくてすみませんって。僕、こう言うのの相場ってわからないんですけど、そう言うもんなんですか?」

 「……そうですね。キャラ絵の公募サイトとかありますけど、企業キャラをイチからデザインするコンペって七万とか十万とかが多いですね」

 倍以上の額を言われ、三木は言葉を失った。


 ……そりゃ、ニローさんの奥さん、申し訳なさそうなワケだ。


 「でも、まぁ、今回は規模的に、三万でも農園さんの方が苦しいかもですね。ブームが早く終わって、思ったよりお客さん来なかったら、アシが出ますよ」

 西口は冷静に言いながら、封筒をバッグに仕舞う。


 「領収証、書きますよ。用紙下さい」

 「領収証? 何のですか?」

 「私の受け取りです。イラスト制作費」

 「あ、いえ、いいですよ、そんな……」


 顔見知りだからそんな固いコト言わなくてもいいだろうと思って断ると、西口は眼鏡を指で押し上げて言った。


 「逆にブームが長引いてコラボとかが増えておカネがもっと動いたら、税務調査入るかもですよ? 同人でも調べられますし」

 「どうじん?」

 「プロじゃない人が、本とかグッズとか自主制作してイベントや通販、書店委託とかで売る趣味でも、税務署の調査があるんですよ。だから、おカネのことはちゃんと領収証やりとりして、全部、帳簿付けといた方がいいですよ」


 何だかよくわからないが、後日まとめてなどとぬるいことは許されない気配を感じ、三木は恐る恐る聞いた。


 「でも、今日は領収証の用紙持ってないんですよ。どうしましょう?」

 「うーん……じゃあ、取敢えずメモだけして、後日。三万円って収入印紙、要るんでしたっけ? 農園の人たち、何か言ってました?」

 「えっ? いえ、何も言われなかったんで……領収証自体も。その辺も調べるんで、後で改めて連絡します」


 珈琲が来て何となくホッとした。二人とも熱くて飲めない。

 三木は何となくスマホを出し、ツイッターにログインした。

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