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起死回生ブレーキ! 二木粟生井鉄道  作者: 髙津 央


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43.ヒトとモノ

 「デザイナーの目途は立っていますか?」

 「自分で撮った駅舎の写真をなぞって何とかします」


 唐櫃(からと)営業部長が、幸瀬駅代表駅員に詰めの甘さを指摘する。

 「スタンプの制作費だけでなく、スタンプインキやスタンプを置く台、持ち去られないように人が付くか、監視カメラを置くか……無人駅の多い我が社では、経費が膨れ上がって、スタンプに投資してもそれを回収するのに何年掛かるかわかりません。役所の支援を受け……つまり、血税を投入していただいている身では、安易な設備投資はできないんです。これに掛かった経費を何年で回収して、どのくらいの利益を生めるのか、明確な数字を出せない限り、稟議は通りませんが、収益予測についてのデータを出せますか?」


 早口にダメ出しされ、三木は頭の中が真っ白になった。


 ……それで、公式発表しなかったのか。


 胸を一突きにされたような衝撃を受け、資料の残りを持つ手にじっとり汗が滲む。それでも、何か言わなければならない。

 制服のズボンで掌を拭うと、ポケット越しに四角い物が触れた。


 スマホだ。


 二木あおいのフォロワーと掲示板ユーザの書き込みが頭の中を駆け巡り、幾つかの単語が繋がった。

 三木はひとつ深呼吸して、唐櫃(からと)営業部長の嘲りに歪む目を見て、マイクを口許に上げる。


 「残念ながら、利益予測の計算式を知らないので、具体的な数字は出せません。ですが、先程、広報部長の報告にありました通り、非公式キャラクターの存在で、今は二木鉄が全国から注目を浴びています。乗車の記念になる物があれば、話のネタに乗りに来る人を呼びやすくなります。今を逃せば、経費が無駄になりますので、迅速に対応しなければなりません」


 「えーっと、すみませーん。発言、いいですかー?」

 沿線住民席から手が挙がった。


 田尾寺広報部長が予備のマイクを手に細身の青年に近付く。

 まずは自己紹介を……と囁かれ、青年が立ち上がった。ワイヤレスマイクをトントン叩いてテストして名乗る。

 「えー、僕……いや、私は、二木大学鉄道研究会の会長で、鵯越(ひよどりごえ)と申します」


 ひょろりとした青年が、壇上と人が疎らに座る席に何度も頭を下げて本題に入る。

 「えーっと、押し鉄……えー、鉄道スタンプのコレクションは、確かに地味なんですけど、割と裾野の広い趣味です。大手の私鉄とかは、人気アニメとタイアップして夏休みとかにスタンプラリーしてますよね? 子供でも手軽に参加できるんで、大手のラリー並に盛り上らなくても、地味に人を呼べるコンテンツです。今だったらさっき、部長さんがおっしゃってた“二木あおい”ちゃんのスタンプで、ご当地キャラコレクターとかも呼べます。すぐ消えちゃうキャラが多いですし、一般人……えっと、コアじゃない人たちは、話題になってる間くらいしか来ないんで、駅員さんが言ったみたいに鮮度が命です。実現したら、鉄研のサイトで全力で広報して人を集めますし、監視員のボランティアも、テスト期間中以外は招集掛けられます」

 唐櫃(からと)営業部長に負けず劣らず早口で捲し立て、会場を見回す。


 ママ友グループの木幡リーダー……ののママが小さく手を挙げた。

 鵯越(ひよどりごえ)鉄研会長の手から、田尾寺広報部長の手を経て、ののママにマイクが回る。


 「先程の缶バッジなんですが、無人駅で販売すれば、監視員と販売ボランティアを両立できますよ。私物の折り畳み机を持って行くので、スタンプを置く台のお金も掛かりません」

 「他所から乗りに来る人って、土日祝日メインだと思うんで、高校生のコにも声掛けたら、監視員はクリアできるんじゃないんでしょうかー?」


 鵯越(ひよどりごえ)鉄研会長が声を張り上げると、老人会会長も立ち上がった。


 「平日は儂らが番させてもらいますわー。病院の待合室で駄弁(ダベ)っとくより健康的でえぇですわー」

 「古い電話台でよかったら、ハンコの台に差し上げますよ。モノはいいんで、捨てるの勿体なくて物置に仕舞ってあるんですけど」


 あちこちからヒトとモノの提供の声が上がる。

 田尾寺広報部長が、沿線事業者と住民席を興味深そうに見回した。

 唐櫃(からと)営業部長がイイ笑顔で会議の出席者に礼を言う。


 「貴重なご意見、恐れ入ります。社内で(はか)り、改めてご連絡させていただきます」


 三木は、唐櫃(からと)営業部長の目が笑っていないことに気付いたが、ひとまず第一関門は突破できただろう。少し痛む胸をこっそり撫で下ろした。


 労せずニコパの版権使用料の件が片付いただけでも大きな収穫だ。

 壇上から見ると、沿線事業者席のニローは何度もうなずきながらスマホをいじっていた。

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