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起死回生ブレーキ! 二木粟生井鉄道  作者: 髙津 央


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37.届いた画像

 券売機の呼出しボタンが押され、三木が対応に出た。


 「電車に乗るのホント久し振りでね、もう何十年ぶりでね、最後に乗ったのお兄ちゃんが生まれる前くらいでね、こんな機械になってるのね、初めて見たのよ」

 「そうですか。ご乗車ありがとうございます。どちらまでですか?」


 タッチパネル式券売機の操作がわからず、いきなり呼出しボタンを押したのだ。

 ヨボヨボの老婆は一人だった。

 電車で外出して無事に帰宅できるか不安を感じたが、駅員として、行き先の駅を聞かないワケには行かない。


 老婆は二木粟生井(にきあおい)鉄道の駅名ではなく、この辺りでは最大の大手鉄道会社の駅名を答えた。三木はメモ用紙に乗換えの案内を書き、券売機を閉めて改札を出る。


 「えーっとですね、それじゃあ、まず二木駅まで切符買って……そこで一旦、改札を出て乗り変えて下さいね」

 老婆に券売機の使い方を説明して切符を買い、乗換えメモを手渡した。


 「この切符で行けるのねぇ」

 「いえ、この切符は二木駅までです。乗換えの駅でまた切符を買って下さい」

 チャージ式のIC乗車券なら行けるが、老婆の困惑しきった顔を見ると、その説明をしたところで理解できるとは思えなかった。


 「そう? じゃあまた、二木駅で聞いてみるわ」

 案外すんなり納得してくれた。

 三木はホッとして老婆をホームに送り出し、券売機の裏へ戻った。



 呼出しボタンで駅長の二木あおいグッズの話が強制終了し、何となくホッとしたが、エラーが出たIC定期の復旧や改札機のエラーの復旧など、こんな時に限ってトラブルが多く、落ち着かない。


 三木が入社する五年前に大手鉄道会社がIC化し、接続する二木粟生井(にきあおい)鉄道もそれに合わせて数年遅れでIC改札機を全駅に導入した。

 防犯カメラには時々、無人駅の改札を強行突破する不心得者が映るが、以前に比べて格段に減ったらしい。設備投資と管理の手間は大きいが、費用対効果はじわじわ上がっているようだ。


 ……ニコパのコラボの分は、本社に受け取ってもらおう。


 三木は、今回の版権料を二木あおいの活動をしやすくする投資と割り切った。

 そもそも、二木粟生井(にきあおい)鉄道の乗客を増やし、赤字を減らす為のキャラだ。雀の涙程度でも収入が増えるならそれに越したことはない。


 これが大成功とまでは言えなくても、それなりに上手くゆけば、社内の風向きが変わるかもしれない。少しでも儲けが出れば、次に何か話が来た時に話を通しやすくなるだろう。



 少なくとも、宣伝効果はあった。



 二木粟生井(にきあおい)鉄道を知らなかった人たちに、この鉄路の存在を知ってもらえただけでも大きい。西口に無理を言って描いてもらった甲斐があると言うものだ。


 ……あ、でも、ニローさんとこ、どうしようかな?


 白百合農園のコラボの件では既にカネの話が出ている。本社にニコパの件を話してくれると言っていたが、白百合農園の分の支払いはどうなるのか。


 ……こっちは少額だし、直接もらいに行けそうだし、二木あおいの活動資金に回したいんだけどなぁ。


 そうでなければ、西口へのイラスト制作費の支払いが三木の自腹になってしまう。ニローと本社のやりとりがどうなったのか気になるが、今はニローからの連絡を待つ他なかった。



 逸る心を抑え、帰り道ではスマホを触らず、昨日買った食材で何を作るか考えた。当分、調理の時間を節約した方がよさそうだ。

 鍋にたっぷりカレーを作ると決め、歩調を上げる。



 手を洗ってすぐスマホの電源を入れると、二桁の着信があった。取敢えず充電器に挿して野菜を切る。

 カレーが煮込みに入るまでに着信が三件入った。

 ツイッターにダイレクトメッセージが届いたことを知らせるメールだろう。

 弱火にして、ハンドソープで洗ってもタマネギ臭が残る手でスマホを操作する。



 メールは案の定、ダイレクトメッセージの通知十六件と、西口からの連絡だ。「イラストが完成しました」とのメールには、大きな画像ファイルが添付されていた。


 白百合農園コラボクッキーのパッケージイラストだ。


 電車のヘッドマーク風の丸い枠内に、二木あおいのイラストと白百合農園のロゴが配置されている。相変わらず、微妙に萌えキャラらしさを外した絵だが、「二木あおい」は、もうこれでいいような気がしてきた。

 画像をダウンロードし、お礼を返信する。



 ツイッターにログインした。

 今日もまた大量の通知があるが、まずはダイレクトメッセージを開く。

 白百合農園のニローとママ友サークルのリーダー“ののママ”と、株式会社ニコパと、ねとにゅ~からだ。

 最新のメッセージは、ねとにゅ~だが、本社とどんな話をしたのか気になり、ののママのメッセージを開いた。

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