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起死回生ブレーキ! 二木粟生井鉄道  作者: 髙津 央


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34.媒体と内容

 「こんないかがわしいモノ目当ての輩が来たら、チカンが増えて女性客に逃げられるだろうが! 被害者に申し訳が立つのか! そもそもだな……」


 唐櫃(からと)営業部長が、どこで息継ぎをしているのかわからない勢いで持論を語り始めた。田尾寺広報部長も、流石にうんざりした顔で唐櫃(からと)部長を見るが、口は挟まない。


 それによると、彼ら「常識的な大人」にとって「マンガ」は小さな子供のもので、夢があって毒がなく、色気などあってはならないものらしい。

 ターゲットの年齢層が高いマンガやアニメ、ゲームなどは、何か事件があれば、ワイドショーなどで「心の荒廃」の犯人として槍玉に上げられ、規制について議論されることがその証拠だと言う。


 その一方で、人気タレントが出演する実写のドラマや外国の映画なら、残虐なホラーや、実現可能な犯罪のヒントになる推理モノ、崩壊した倫理観を賛美するモザイク必須の恋愛モノや、子供に見せられない不道徳な作品でも持て囃すことには触れない。


 彼らが何故、作品の「内容」ではなく「媒体」で判断するのか。

 特定の表現媒体を好む層を「犯罪者予備軍」と決めつけるのか。

 「犯罪者は全員、水を飲んだ経験がある」みたいな詭弁だった。


 理由がわからない限り説得は不可能だ。

 三木は、何かの専門家でも何でもない。

 それを分析する能力も時間もなかった。



 わざわざ遠方から潰れかけのローカル線に乗りに来てくれる層にアピールするには、その趣味や嗜好に合わせたPRが必要だが、三木には、ビジネスの場で、経済効果などを度外視して感情と敵意を剥き出しにする本社の偉い人たちを説得ができる気がしなかった。



 ……ここまでコトバ通じない系の人たちだなんてなぁ。



 大方の予想がついていたから、広報部に話をしなかったのだ。

 二時間以上、電話が鳴り響く中で一方的に怒鳴り散らされた。

 胸が絞めつけられたような痛みが肩の方へじわじわと広がる。

 怒鳴り声に冷や汗が滲み、気のせいか、息苦しくなってきた。



 「ネットニュースのインタビューにも勝手に答えて! この“社内の絵心ある者”は誰だ!」

 「……知って、どうなさるんですか?」

 「お前も、そいつも処分だ!」


 営業の唐櫃(からと)部長に人事権はないが、この調子なら上に掛け合ってゴリ押しするだろう。正社員の三木はともかく、西口は非正規だ。就業規則にそんなことは書いていないと思うが、二木鉄の経営陣や上層部の気分で本当にクビが飛ぶかもしれない。

 それに、三木は最悪、実家の農業を手伝えばなんとかなるが、西口が職を失えばどうなるのか。家庭の事情がわからないし、クビにならなければもらえたはずの給料の弁償など、ボーナスをもらったことのない三木の貯金では責任も取れない。


 これ以上、無理を承知で描いてくれた西口に迷惑は掛けられなかった。


 「カネの為なら、あんないかがわしいモノで犯罪者予備軍でも何でも呼び寄せるなどと、地域に根差す鉄道会社として、社会の公器として、断じてあってはならんのだ!」


 ……いかがわしいって? あんな露出度低くて色気のないイラストにそう思う唐櫃(からと)部長の方が、脳内エロ妄想でいっぱいなんじゃないのか?


 迂闊に口を開けば、二木あおいのイラストを描いた「犯人」の手掛かりを与えてしまいそうだ。


 絶対に知られてはならない。


 唇を引き結び、浴びせられる罵詈雑言にひたすら頭を下げ続けた。罵声と胸の痛みを耐える内に吐き気までしてきたが、顔を上げずに無抵抗を貫く。



 「三木君は名前の通り、二木鉄に一本余分なことをしてくれたもんだねぇ」

 田尾寺広報部長が、上手いこと言ったつもりなのか、口許を歪めた。唐櫃(からと)営業部長が追従して笑う。広報部長はわざとらしく溜め息をついてみせた。


 「悪ノリでもなんでも、これだけ話題になっている中で削除するのはよくありません。アカウントの削除は、世間が飽きた頃にします。それまでは独断で勝手なことをしないように」


 顔を上げた三木に田尾寺広報部長は顎をしゃくった。

 「今、現に本社の業務に支障が出ているのは、わかりますね? あれ全部、例のキャラクターの問合せなんですよ。メールも大量に届いて、通常業務が全くできません」

 「……申し訳ございません」

 それは、ののママとニローをけしかけた手前、謝っておく。


 「対応はこちらでします。……くれぐれも、例のアカウントで余計なことを口走らないように。いいですね?」

 ドスの利いた声で言う田尾寺広報部長の傍らで、唐櫃(からと)営業部長が勝ち誇った笑みを浮かべた。

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