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起死回生ブレーキ! 二木粟生井鉄道  作者: 髙津 央


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33/65

33.本社の人々

 古びた本社ビルの受付で社員証を見せて用件を告げると、広報部へ行くように言われた。

 最上階のひとつ下で、営業部と同じフロアだ。エレベーターの扉が開いた途端、電話の音が幾つも重なって響いた。


 開放された戸口から恐る恐る声を掛ける。

 「失礼します。幸瀬駅の三木です。先程、こちらにお伺いするよう言われたんですが……」

 近くの席の女性社員が、少々お待ち下さい、と会釈して奥へ引っ込んだ。

 その間も、電話がひっきりなしで、鳴りやまない。広報部の社員たちがチラリとこちらを窺って、すぐ電話とパソコンに向かう。

 予想以上の電凸に居心地悪さを感じたところへ、先程の女性社員が戻ってきて奥へ通された。



 広報部長席の前で、営業の唐櫃(からと)部長が鬼の形相で待ち構えていた。

 田尾寺広報部長の顔も険しい。


 挨拶もなしにA4の紙が突きつけられた。

 「どう言うことだ、これは!」

 営業部長が震える手で指差したのは、二木鉄最古の現役車両だ。

 三木はギョッとした。

 窓にうっすら、スマホを構えた撮影者が映り込んでいる。


 三木が何も言えないでいると、田尾寺広報部長が唐櫃(からと)部長に別の紙を差し出した。ツイッターのスクリーンショットをプリントしたものだ。

 二木あおいのアカウント開設初日のツイート群で、同じ写真があった。


 一万ツイート近くを掘り下げて、撮影者を特定したらしい。


 ……その執念、もうちょっと別の方向に使えないかな?


 「広報に断りもなく、こう言うことをされると困るんですよ」

 「こんないかがわしいモノを……! 鉄道会社の品位を何と心得る!」

 言葉だけは正論だが、田尾寺広報部長は表情を押し殺し、何を考えているかわからなかった。こめかみがヒクついているところを見ると、彼も怒っているらしい。

 唐櫃(からと)営業部長は、赤鬼と化して唾を飛ばし、最年少社員の三木を罵った。

 「イメージダウンだ! こんなオタクに媚びたモノで二木鉄の伝統と看板に泥を塗りやがって!」


 ……いかがわしいキャラ? 鉄道会社の品位? ニッキーのまとめサイト、見てないのか?


 三木は喉元まで出かかった言葉を飲み込み、比較的冷静な田尾寺広報部長を見た。背後の窓ガラスに事務室が映っている。


 「ただいま担当者が不在で、私ではお返事いたしかねます」

 「お問い合わせいただきありがとうございます」

 「二木粟生井(にきあおい)鉄道広報部でございます」

 「後日、サイトやプレスリリースなどで回答させていただきます」

 「本日は貴重なご意見をお寄せいただき……」


 広報部の社員はひっきりなしに掛かってくる電話の応対に追われながら、ニヤけた顔で三木の背中を見ていた。怒気を孕んだ目で睨む者も居る。営業部の社員が集まって、背後に人垣ができていた。


 ……見世物扱いかよ。


 「二木鉄のブランドイメージが台無しだ! お前には鉄道マンの誇りはないのか! 恥をかかされた先輩方に申し訳ないと思わんのか!」


 腹は立つが、ここで感情をぶつけあっても却ってこじれるだけだ。三木は反論せずに頭を下げ、嵐が通り過ぎるのを待った。

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