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起死回生ブレーキ! 二木粟生井鉄道  作者: 髙津 央


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31/65

31.コラボの件

 翌朝、三木はぼんやりする頭で始発業務に出た。

 自販機の珈琲で気合いを入れ直し、日勤の葉多先輩と交代する。


 葉多先輩は大声で復唱して左右を見回し、廊下に誰も居ないのを確認して捲し立てた。

 「異状なし! ……駅の方はな。昨日、ネットのニュースでウチの非公式キャラが取り上げられたらしくってな、駅長の機嫌悪いから、気ィ付けろよ?」

 「悪いニュースだったんですか?」

 何も知らないフリで聞いてみる。


 葉多先輩は制服のポケットから私物のスマホを引っ張り出して、ねとにゅ~に載った最初の記事を表示させた。

 本文の下に質疑と、コラボの記事が関連記事として上がっている。


 ……仕事早過ぎィ! ……いや、あっちも夜勤とかあんのか。


 「記事って三本もあるんですか?」

 「三本? うわっ! 増えてる!」

 葉多先輩が貪るように読み、三木は横から覗いた。


 コラボの件も、ほぼ三木が伝えた通りだ。予定がわからない件については、憶測で書かず、きちんと未定である旨が明記してあった。


 「コップ、駅で売るんですか?」

 「いや、全然わからん。今知った。本社の連中、これ、どうすんだろうなぁ」

 引継を簡単に済ませ、葉多先輩と朝の通勤通学客を捌きにホームへ上がる。三木はママ友サークルのメンバーに心の中で声援を送った。



 今頃はママ友サークルのメンバーが本社に電話している筈だ。

 担当者は、ニローやママさんたちからのメールにきちんと目を通してくれるだろうか。


 三木が寝たのは今朝四時過ぎ頃だったが、今まさに行われているであろう彼女らと本社の遣り取りが気になって、眠気が吹き飛んだ。


 掲示板の書き込みは、益体もない与太話ばかりではない。今後の展開や経営の改善で参考になりそうな話もちらほら目に入った。

 役に立ちそうなことはコピペで保存したが、ログの流れが早過ぎて全てのスレッドを読むのは無理だった。途中からは休日に読もうと、スレを丸ごと保存するのに専念した。


 他にも数十件、業者からイラスト製作の依頼が来た。

 社名で検索して黒い噂が出た社は、ダイレクトメッセージを見なかったことにした。まともそうな業者だけ、西口にスクショを送ると「今は手いっぱいなので」と断られた。


 頭がぼんやりするのは、スマホを見続けたせいだ。

 髭剃りで鏡に映した目は、真っ赤に充血していた。


 白百合農園のニローは、ツイッターの活用で唐櫃(からと)営業部長たちをその気にさせてくれた。少なくとも、地元の白百合農園のコラボは、許可されるだろう。



 ラッシュの時間帯が無事に終わり、三木は駅事務室に入った。

 谷上駅長が、デスクで頭を抱えている。

 西口は定期券の窓口に出ていて留守だ。

 二人きりでは恐ろしくて声を掛けられず、三木は気配を殺してそっと自席に腰を降ろした。


 「……三木君、おはよう」

 「は、はいッ! おはようございます!」

 三木は弾かれたように立ち上がった。


 「ちょっと来てくれ」

 ゼンマイ仕掛けのロボットのような動きで駅長席に近付く。指差されたノートPCを覗くと、コラボを報じる「ねとにゅ~」の記事だった。


 「さっき、葉多先輩にスマホで見せていただきました」

 「そうか。知ってたか。どう思う?」

 「えっ? ……ど、どうって……あの、これ、駅で売るんですか? 売店があるのって始点の二木駅だけでしたよね?」

 「知らん。販売場所は未定だと書いてあるだろう。本社に電話したが、ずっと話し中で全く繋がらん」

 「そうなんですか?」


 売ると言っても、一年を通して終日有人なのは全十一駅中、中核市に近い三駅だけで、他はラッシュ時や観光農園の営業時期、年末年始や年度始めだけ人を置いて、暇な時期や時間帯には無人になる。

 定期券販売窓口があるのも、この幸瀬駅を含めて同じ三駅だ。


 マンパワーが圧倒的に不足している。


 「駅長はこれ、どう思われます?」

 「本社の連中は現場の気も知らんと見切り発車で何もかも決めおって。ニッキーの件で懲りればいいものを……」

 「あー……やっぱ、こっちに皺寄せが来るんですねー」

 三木は空とぼけて谷上駅長に共感してみせた。


 ……ダメだ。駅長には絶対、知られちゃダメだ。


 ニローからキャラ使用料をどうやって受け取ればいいのか、悩ましい。次の会議で彼にだけ身元を明かして、白百合農園まで受け取りに行くしかないらしい。


 ……ニコパはどうしよう?


 交通費を払ってここまで払いに来い、と気軽に言える距離ではない。


 「売れたところで大した収益にならん。手間が増えるばかりで製作費だけでも……売れれば売れる程、赤字になるんじゃないか?」

 「それは流石にないんじゃありませんか? 儲からないんなら、この会社もこんなコト言い出さないでしょうし……」


 顔を真っ赤にして憤る駅長をおっかなびっくりなだめると、谷上駅長は三木をじろりと睨んだ。

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