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起死回生ブレーキ! 二木粟生井鉄道  作者: 髙津 央


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03.アカウント

 三木が帰宅ラッシュのホーム対応を終えて事務室に戻ると、西口は定時で帰っていた。


 三木のノートパソコンに紙が挟まっている。

 ディスプレイを開けると、一枚目は三木が描いたラフ、二枚目は西口が描いてくれた鉛筆の線画、一番下にパソコンで着色したイラストのプリントアウトが置いてあった。

 余白に「メールで元ファイルをお送りしました」と走り書きされている。



 西口自身が「圏外だ」と言った通り、イラストは微妙な出来だった。


 萌えキャラの記号的な要素を機械的に組み合わせたらしい。要素を箇条書きにすれば、決して間違ってはいないのだが、所謂「萌えキャラ」とは微妙に違う。

 何がどう違うのか、素人の三木には説明できない。


 だが、コレジャナイとだけは言えた。


 二木粟生井(にきあおい)鉄道の社章から採ったのか、髪も服も青一色のカラーリングだ。

 ヘアスタイルは萌えキャラによくあるツインテールで、かなり苦労の跡が忍ばれるが、「絵心のある中学生が一生懸命、頑張って描きました」と説明されれば、誰もが納得する仕上がりだ。


 大きな青い眼は、可愛いと言えば可愛いが、どちらかと言えば、「萌えキャラ」と言うより「ゆるキャラ」系の顔立ち。頭身が中途半端に低く、美少女と言うには足りないが、ゆるキャラとも言いにくい。

 微妙なスタイルだ。


 三木が、社章と制服を使うな、と言ったのは忠実に守ってくれた。

 内陸部の山中を走る二木鉄(にきてつ)の制服とは全く違う。

 山の反対で海を連想したのか、さっきの見本を参考にしたのか、セーラー服っぽいがセーラー服ではない。何とも言えない青一色の服だ。



 これの為に次の休みは朝五時起きで、寒風吹き(すさ)ぶ中、くまくま茶屋に並ぶのかと思うと頭が痛かった。

 だが、少なくとも「人間の女の子」だとわかるだけ、三木が描いたクリーチャーより遙かにマシだった。



 これは非公式キャラだ。



 契約社員の西口に勤務時間中、ほぼ私用のイラスト制作を依頼したのが他の社員に知られるのは非常にマズい。しかも、依頼内容が依頼内容だ。駅長たちには説明しにくかった。


 もう一月だ。

 そろそろ昨秋に収穫した栗はなくなるだろう。


 約束した以上、口止め料も兼ねて何としてでも、くまくま茶屋の栗クリームケーキを手に入れなければならなかった。




 三木は終電後、仮眠室の布団にくるまり、私物のスマホでツイッターのアカウントを作った。



 二木あおい@二木粟生井(にきあおい)鉄道【非公式】



 西口に描いてもらったイラストは、社用メールからスマホのアドレスに転送した。イラストの顔部分をトリミングして縮小し、アイコン画像に設定する。


 ヘッダ画像は、三木が自分で撮った二木鉄の車両基地写真だ。

 よく言えば、レトロで郷愁を誘う車輌は、メンテナンス代の工面に四苦八苦している正真正銘の老朽車両だった。


 一台だけ、内装が木造の車輌も現役で運行している。


 定期メンテ代を筆頭株主である地方自治体から借金している現状では、車輌の更改は夢のまた夢だった。

 二木粟生井(にきあおい)鉄道で最古の現役車両は、乗り鉄や撮り鉄に熱烈なファンがいる。


 ……でも、そんなコアなファンなんて、声が大きいだけで、人数が少ないから大した収入になんないんだよな。

 

 特に、鉄道の撮影に情熱を注ぐ撮り鉄は、本人がその列車に乗ることが少ない。

 美しい風景の中を駆け抜ける鉄の馬の雄姿を撮る彼らは、駅から離れた撮影スポットに車やバイクで移動することが多かった。


 ……クラウドファンディングでメンテ代を集めて、出資額で露骨に差をつけた特別撮影会でもできればいいんだけどなぁ。


 そんなことができるなら、とっくにそうして、借金の利子がこんなに累積することもなかっただろう。

 二木はプロフィールの自己紹介文にずっと以前から用意していた文を貼り付けた。

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