22.商機の到来
帰宅して食材を冷蔵庫に片付け、ゆっくり時間を掛けて珈琲を淹れる。濃いめのブラックで気合いを入れ、三木は震える手でスマホの電源を入れた。
深呼吸して、メールをチェックする。
未読三件、迷惑メール十三件。
一件目はツイッターのまとめ通知だった。中身を見ずにゴミ箱へ。
次はツイッターのダイレクトメッセージの通知。
開く決心がつかず、三件目に移る。
西口からだ。
件名のないメールを何も考えずに開く。
〈ねとにゅ~から本社の広報に取材があって、例のアレみつかっちゃいました。
駅長さん、お昼に連絡入ってみんなに説明してからずっと怖い顔で黙ってます。
まだ、誰の仕業か、バレてないっぽいです。
大村さんたちは犯人予想の賭けをしてます。
安全の為に社用PCの元データは削除しました。
私は何も知りませんってことでよろしくお願いします。〉
社内の状況は最悪らしい。
三木は珈琲を一口啜って読み返した。例のイラストを送信したメールも削除済みだろう。
明日、出勤したらすぐ受信メールを消すと心に刻み、社用から個人スマホに転送したメールの添付ファイルを確認した。
七メガバイト超えのPNG画像で、フォトショップの元ファイルではない。ツイッターに公開したのは、かなり縮小したものだ。西口に追加を頼めなくなった今、これが最初で最後の「二木あおい」イラストだ。
……まぁ、でも、これ、いつまで続けられるかわかんないしなぁ。
続ける気でいる自分に気付き、苦笑してスマホを置いた。
珈琲をもう一口飲んで目を閉じる。
ほろ苦さが消えるまでそうして、節電モードで薄暗くなったスマホを手に取った。
二件目のダイレクトメッセージの中身を確認する。
差出人は、白百合農園のニローだった。
ねとにゅ~の取材ではなかったことにホッとする。
……あ、そっか。DM解放してないから、送れな……い。
ねとにゅ~のアカウントをフォローして「取材してくれそうなマスコミ」として非公開リストにも入れたのを思い出し、血の気が引いた。
公開の@ツイートで取材の申し込みをされたのだと思い到り、逃げ道を塞がれたことに指が震える。
再びスマホをこたつに置いて、画面をスクロールした。
〈DMでは初めまして。白百合農園のニローと申します。
非公式とのことでしたので、こちらに連絡させていただきました。
このアカウントの管理人さんは、二木鉄の社員さんなんでしょうか?
ニュースで話題になったのは大きなチャンスです。
コラボしませんか?
白百合農園内に二木あおいの等身大パネルを設置させていただきたいと思っています。
駅から近いので話題になっている今なら、二木鉄の乗客を増やすお手伝いにもなると思います。
キャラの使用料や画像データの提供などについてお知らせいただけましたら幸いです。
まずは、利用の可否だけでもお知らせ下さい。〉
末尾に農園の所在地と電話番号、それに、ニローの本名らしき「大沢二郎」と言う連絡先フルセットが記されていた。
大沢氏はこの辺りでは「おおぞう」と読んでもらえるが、他所者にはまず「おおさわ」と読まれ、正しい読みを伝えると首を傾げられる。
先祖代々地元密着の歴史ある名字だ。
三木は、ニローの商機を見る目とフットワークの軽さに頭を殴られたような衝撃を受けた。
ニッキーの件では内心、本社の者を「内向きで客を見ていない」と批判しておきながら、今の三木自身も社内での保身に気を取られ、萎縮していた。
……他人のコトとやかく言えないじゃないか。
そう、これは商機だった。
経営状態が彼岸花畑と化したローカル鉄道が、ネットで注目を浴びている。
今は一時的な増収でもいい。
全国から人が来れば、その中から将来、結婚や定年後のカントリーライフ目当てで沿線に住む人が現れるかもしれない。
一人でも沿線住民を増やし、将来の「いつもの乗車」を増やすには、まず、二木粟生井鉄道の存在そのものを知ってもらわなければ、話にならなかった。




