21.萌えキャラ
「ひっ、非公式って書いてあるし、非公式なんだろ?」
瞬時に脳内シミュレータをフル稼働させ、三木はシラを切ることに決めた。動揺のあまり、自分でも何を言っているのかわからない。
記事ページのSNS共有ボタンには、軒並み四桁の数字が並んでいる。ツイッターだけでも四千件余り共有ツイートされていた。そこからのリツイートも含めれば、どれだけの勢いで拡散が進んでいるのか。
三木はチキンカツの注文を後悔しながら、押部谷の顔色を窺った。
「あ、こっちは全然知らなかったんだ?」
「うん。寝耳に水って言うか、何でこんなモンが……?」
……何でこんなモンが共有されまくってんだ? ニッキーの炎上は記事にもならなかったのに。
押部谷は少し同情を含んだ視線を返した。
三木の困惑を微妙なキャラデザの「二木あおい」や、非公式アカウントの存在へのものだと思ったようだ。
「ここに、萌えキャラとゆるキャラの融合がどうのって書いてあるだろ? ここから……こうなんだ」
そう言いながら、スマホを操作する。
今度は、三木が初めて見るサイトだ。
イラクティブ……イラストレーター・アクティビティ・コミュニケイションズの略称で、トップページには漫画やアニメのキャラを中心に風景やロボット、油彩風の動物や漫画など様々なイラストや絵画のサムネイルがずらりと並ぶ。
漫画やイラストを描く人向けのSNSらしいが、絵心のない三木にとっては未知の世界だ。
新着作品のサムネイルが次々と切替り、三枚に一枚は「二木あおい」を完全に萌えキャラ化したイラストが流れてくる。
「何これ?」
「ねとにゅ~に載ったのが昨日の昼で、今日は……」
押部谷はトップページのタグ一覧の中から、ホットワードとして大きなフォントで表示された「二木あおい」の文字をタップした。
二木あおいのイラストだけがサムネイルでびっしり並び、一覧画面の上に「二木あおいタグが付いたイラストは1927件」と表示されている。
「もうすぐ二千件行くなぁ」
「にせんけん」
押部谷は何故か嬉しそうだが、三木は思考がフリーズし、どう反応していいかわからない。
スマホの電源を入れるのが怖くなったところへ、料理が運ばれてきた。
彼の実家「押部谷養鶏」から直接買い付けた地鶏の料理は、いつもなら食欲をそそるはずだが、今は胃が痛くて箸の進みが遅い。キャベツの千切りをちびちび食べる三木を押部谷が心配する。
「どうしたんだ?」
「あぁ、いや、アツアツで冷めてからじゃないとちょっとムリ」
押部谷は、なんだ、と一瞬ホッとしたが、すぐに表情を曇らせた。
「ひょっとして、さっきの奴……気にしてんのか?」
「えっ? あ、あぁ、いや、下っ端の僕が気にしたってどうしようもないし……」
「そっか……そうだよな。なんか、ゴメンな」
「あ、いや、別に、そんな、押部谷は悪くないし……」
どちらの炎上を心配してくれたのかわからないが、どの途、三木にはどうにもできない。
これだけ注目を浴びてしまった以上、ねとにゅ~からの質問を無視して今まで通りに更新すれば、二木あおいのイメージダウンになり、会社にもっと迷惑が掛かってしまう。
……何て言おう。
悩ましいが、質問内容がわからないことには答えを考えられない。
ポケットに手を入れたが、スマホは自宅の充電器に挿したままだ。
二人は当たり障りのない話題を選んで白々しく世間話をしながら、急に味のしなくなった食事を終わらせた。
駅前の駐車場で押部谷の軽トラを見送る。
……地元の奴でも電車に乗らないんだもんなぁ。
今日はきっと、役所の駐車場がいっぱいで、仕方なくここに停めたのだろう。




