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起死回生ブレーキ! 二木粟生井鉄道  作者: 髙津 央


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20.祝福と炎上

 駅前の小さな商店街で買物を済ませたが、何となく作るのが面倒になってしまった。


 選択肢は居酒屋と喫茶店、お好み焼屋と地鶏料理店。

 四軒しかないが、今は飲食店が存在してくれるだけでもありがたかった。


 「よっ、久し振り!」

 いきなり肩を叩かれ、三木は驚いて振り向いた。


 背広姿の日焼けした男が嬉しそうに笑う。

 わざわざ「三木が写っている」と鉄ちゃんのブログを教えてくれた押部谷養鶏の跡取り息子だ。


 「何だ、押部谷か。珍しい」

 「何だとは何だよ。実家は近いのに顔見んの何年振りだよ、おい?」

 「ブログ見てるから、僕はあんまり久し振りな感じしないけどなぁ」

 「お、見てくれてるんだ。ありがと。何、お前、今日休み? 俺、ちょっと役所の用事で出てきたんだ。子供産まれたのと直販イベントのアレで」

 「産まれたのか! おめでとう! 何人目だっけ?」


 押部谷はコートのポケットからスマホを取り出し、画像フォルダを開いた。


 「三人目と四人目。男の双子なんだ。これから大変だゎ」

 そう言う笑顔からは、喜びが溢れて止まらない。産まれたての赤ん坊たちはそっくりで、病院の白いベッドに眠る母子三人は、押部谷の幸福そのものだった。


 三木は、自分から遠い場所にある幸せを眩い思いで眺めて押部谷を誘う。

 「お祝いにケーキ奢るよ。ちゃんとしたのは後で実家に送るし」

 「いや、そんな気ぃ遣うなよ。それより、役所長引いて昼飯まだなんだ。割り勘で鶏屋行かねぇ?」

 「いいな。僕も夜勤明けで起きたばっかで、お昼まだなんだ」

 駅前の地鶏屋は、押部谷の実家が鶏肉を卸している店だ。出荷元でも割引してもらえないそうだが、味は確かだった。



 地鶏しあわせ屋の暖簾をくぐると、日替わりランチが終わった店内はガラガラで、店員が暇そうにしている。

 三木はチキンカツ、押部谷はガーリックチキンを頼んだ。


 「三木んとこさ、プチ炎上してんの知ってる?」

 店員が引っ込むと、押部谷は声を落としてスマホを撫でた。

 お祝いムードが吹き飛び、三木は友達の目を覗く。


 今日もまた、本気で心配して親切で教えてくれるらしい。


 「炎上って?」

 「まず、これ」

 向けられた画面には例のまとめサイトが表示されていた。


 確かにイヤな方向性でネタにされてはいるが、コメント数も取り上げるまとめサイトも少なく、元のスレッドはとっくに落ちて“倉庫”に格納され、有料会員以外は全文を読めなくなっていた。

 ほぼ鎮火状態で、このまま放っておいても害はないだろう。


 「うん。知ってる。本社の人がどうするか知らないけど」

 「そっか。こーゆーの、ホントやめて欲しいよなー」

 「まぁなぁ。お客さんには、今んとこ何も言われてないよ」

 「あー……ヘタにつつくとネタ引っ張られそうだもんなー」

 「どうせ、すぐ飽きて忘れるんじゃないか?」


 押部谷はほうじ茶で唇を湿らせ、テーブルに置いたスマホを撫でた。

 画面にネット専門のニュースサイトが表示される。


 「ねとにゅ~から取材受けた?」

 「さぁ? 本社の広報とかに聞いてみないとわかんないけど、何のニュース?」

 「これ」

 押部谷の太い指が日間アクセスランキング一位の記事をタップした。


 「ローカル鉄道にゆる萌えキャラ爆誕!」などと言う何だかよくわからない見出しの下に数行の前文と二木あおいの画像が表示される。

 ツイッターの埋め込みで、二木あおいのアカウントの最初のツイートをそのまま表示させているのだ。


 二木あおいの他、三木が撮り貯めてUPした写真付きツイートの中から、鉄道関係者でなければ撮れないショットを選んで埋め込み表示させ、二木あおいの「中の人」が、二木粟生井(にきあおい)鉄道の関係者だと検証している。

 そもそも社名の「二木粟生井(にきあおい)鉄道」自体が難読で、それもネタとして取り上げられていた。


 記事は、取材を試みたが二木あおいのアカウントからはまだ回答がなく、二木粟生井(にきあおい)鉄道の広報に問合わせたところ、「お問合わせで初めてアカウントの存在を知り、困惑している」との回答が得られた、と締め括られていた。

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