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起死回生ブレーキ! 二木粟生井鉄道  作者: 髙津 央


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19/65

19.沿線の現実

 帰宅ラッシュの時間が終わり、ホッと一息つく。

 それでも、酔っ払いの転落などの警戒で一瞬も気を抜けない。

 乗客数は少ないが駅職員の数も少なく、一人あたりの仕事量は多かった。合間を見て駅長に資料の件を確認し、本社にメールを送る。



 終電を送り出して改札を閉め、仮眠室で横になったが、いつものようにスマホを取り出す気になれない。

 疲れているのはいつものことだが、今日はそれ以上に、谷上駅長の態度が三木のヤル気を圧迫していた。


 あの調子では、二木あおいにも、いい顔をされない気がする。


 元々、年配の偉い人たちの同意を得られるとは思っていなかったが、この一件で萌えキャラの印象が悪化したのは間違いない。

 西口のデザインは無難だが、萌えキャラであることを理由に叩かれそうだ。


 ……まだ当分、知られないようにしたいけど、今更リムるのもなぁ。


 関係者のフォローを外すに外せず、仮眠室の布団の中で頭を抱える。

 二木あおいのアカウント開設から初めてログインせずに朝を迎えた。



 睡眠時間は充分なはずなのに、頭の芯に眠気が居座っている。

 三木は惰性で明け勤をこなしたが、制服を脱いだ途端、猛烈な眠気に襲われた。


 ブラックの缶珈琲を一気飲みし、気合いを入れて帰宅する。

 どうにかパジャマに着替え、布団に入るなり意識を失った。



 「クリよりイチゴの方がカワイイのにねー」


 おうちカフェのパンケーキの向こうに二木あおいが居た。

 細い指が頂上の人型クッキーをつまみ取ると、聳え立つ生クリームが白い鳩になった。


 テーブルの向かいが線路に変わる。

 どこまでもまっすぐ伸びる単線の両脇は、青々と葉を茂らせた木々とそこに絡まる葛が緑の壁になり、他の景色が目隠しされていた。架線柱は木製で、緑の中に生木とは違う雨ざらしの濃い褐色が突っ立つ。


 白い鳩がパンケーキから飛び立った。

 三木は制服姿で線路を走り、まっすぐ飛ぶ鳩を追い掛ける。



 昼過ぎに目が覚めたが、夢の中でずっと走り続けたせいで疲れが取れた気がしなかった。


 ……まさか、夢にまで出るなんてなぁ。


 軽く掃除機を掛け、食材の買出しに行く。


 米は実家で作った物を送ってくれる。

 日持ちしない野菜は、帰省した時に持たされるだけで、送りつけられるのは阻止していた。それでも、「これは日持ちするから」と、春にタマネギ、夏にカボチャを段ボールいっぱいに寄越される。


 職場やご近所さんへのおすそわけにも限界があった。


 両親と祖父母は、三木をいつまでも育ち盛りの大食漢だと思っているようで、何か収穫する度に電話してくるが、不規則な仕事だから腐らせると勿体ない、と全力で断っている。

 実家で農業を継いだ兄は「好きなモン食わせてやれよ」と年寄り連中に苦笑しながら、やんわり止めてくれていた。


 二木鉄の終点より奥地には、数えるくらいしか就職先がない。

 同級生たちは、実家の農業を継いだ子以外、みんな都会へ出て行った。


 地価と家賃が安い二木粟生井(にきあおい)鉄道沿線に住んで、始点の向こう……他線に乗り換え、中核市で働く者も多いが、お互い忙しくて帰省した時しか会えない。それも、三木がお盆や年末年始に出勤なら流れてしまう。



 もう何年も顔を合わせていない友達も多かった。



 農作業の様子をブログやツイッターで発信して、直売やネット通販に精を出す友達も居るが、大抵は本人の顔写真を載せていない。

 逆に「お前、鉄道マニアのブログに載ってたぞ」とわざわざメールで知らされたことならある。


 彼らは人間が写り込むのを嫌う傾向にあるが、鉄道員は別らしい。

 無断でネット載せられていい気はしなかったが、抗議して波風を立てると却って面倒なことになりそうなので、触らずにいる。

 友達の押部谷は親切のつもりで、「これイイじゃん。この人に頼んで大きい元画像もらって、お見合い写真に使わせてもらえよ」などと書き添えていた。


 ……余計なお世話なんだよな。


 一応、正社員で今はそれなりの収入があるが、入社以来一度もボーナスが出ていない。

 先行きのわからない会社に勤める自分が、結婚して家庭を背負えるとは思えなかった。


 一人なら余裕を持てる収入でも、結婚して子供が産まれた途端に足りなくなるのは、先輩の家がどこも共稼ぎで、米や野菜を実家に頼る姿に否応なく教えられた。

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