17.電子の妖精
帰宅後、忘れない内に二木あおいのアカウントにログインし、パンケーキ写真と一日乗車券の利用期限をタイムラインに流す。
〈石野駅前のおうちカフェで、パンケーキ食べちゃいました☆〉
ハッシュタグに二木粟生井鉄道、駅名、カフェ、パンケーキを入れ、写真に添えてUPする。
あっという間に、いいねとRTが付いた。
今回はビジュアルのインパクトのお陰か、いつも以上の速度で拡散が進む。
カフェの売上と乗客数にどの程度、影響を及ぼせるのか計りようもないが、何もしないよりマシだと信じてツイートする。
〈おトクな切符あります♪
二木粟生井鉄道の全線が一日乗り放題☆
使用期限は今年の三月三十一日までなので、忘れない内に乗って下さいね~♪〉
いつものハッシュタグのセットを付けて流したが、こちらはパンケーキ程には伸びない。
……切符の写真付けて、また明日UPしよう。
〈@恵比須 あおいちゃんとこ、こんな切符あったんだ〉
〈@ねこねこにゃ~ 知らんかったにゃ〉
〈@恵比須 どこで売ってんの?〉
〈@ヒヨドリ 二木鉄有人駅の窓口と接続駅構内のコンビニで売ってますよ〉
三木が、二木あおいとして返信する前にフォロワーが説明してくれた。
確か、ヒヨドリは初期にフォローしてくれた鉄っちゃんだ。
〈ヒヨドリさん、ご紹介ありがとうございます。
一枚千円で何度でも途中下車OK。
気まぐれな旅にぴったりなんですよ♪〉
ヒヨドリからは特に応えはなかったが、気にしない。
ハッシュタグで二木粟生井鉄道、二木鉄を検索し、鉄道写真などの投稿に片っ端からいいねを付けて回る。
都市とベッドタウンを結ぶ生活路線だからか、わざわざ「乗車した」と言うツイートはなかった。他に上がってきたのは、ニッキーをいじるツイートと、二木鉄の乗客を増やす会への参加を呼び掛ける有志のツイートだ。
例のまとめサイト関連は、非公式の三木が下手につつくと面倒なことになる。
本社がいつ気付くかわからないが、静観するしかなかった。
……ニローさんに提案してもらったのに、全然動きがないって、何にそんな時間掛かってるんだろ?
最年少駅員の三木には、本社がどう動いているかわからない。
乗客を増やす会の第一回会議の後、メールで資料のPDFが届き、内容のない掛け声的な指示が出ただけだ。具体的なことはまだ何も決まっていないのだろう。
……あの会議の前、駅長はイベント列車の運行メインみたいなこと言ってたしなぁ。
イベント列車もいいが、そんな一時的な増収では焼け石に水だ。
経費と増収を天秤に掛けて赤字になるようでは困る。
もっと日常の利用――一駅二駅のチョイ乗りの積み重ねや、定期券を利用する通勤通学客――沿線住民そのものを増やさなければならないのだが、終点付近を中心に過疎化は進む一方だ。
沿線の人口増加は、役所の施策に頼らざるを得ない。大手なら不動産事業で直接動けるだろうが、弱小ローカルの二木粟生井鉄道ではそうもゆかなかった。
……一応、不動産事業もやってるけど、賃貸テナントと駐車場メインじゃなぁ。
数年前の忘年会で聞いた、駅長たち古参社員のぼやきが頭の中を駆け巡る。
「駅前の駐車場、ガラガラだな。満車になってんの見たことないゎ」
「そりゃ、電車乗って行くより、そのまま車で行った方が便利だからな」
「モールもホムセンも駅から遠いし」
「離農して不動産屋の口車に乗せられて田んぼ売ってアパート建てて、赤字出して途方に暮れてるジジババと同レベルだからなぁ」
そのテナントと駐車場も売却が進み、手持ちは年々減っている。残りは、空きが目立って二束三文でも買い手がつかない物件ばかりだ、と偉い人たちは言っていた。
乗客を増やす会への参加を呼び掛けているのは、ママ友サークルのメンバーだ。
二木あおいのフォロワーは居ないが、白百合農園のフォロワーは居た。共通のフォロワー欄で二木あおいの存在に気付くだろうが、現状、こちらは運営者不明の怪しいアカウントだ。フォロバは期待せず、無言フォローで様子を見ることにした。
……もし、何か聞かれても、「中の人なんて居ません」で押し通そう。
三木は自分に「これは“電子の妖精”二木あおいだ」と言い聞かせ、二木粟生井鉄道活性化協議会のPDF資料にあった団体名で検索する。
ツイッターをしているのは少数派だった。
個人会員は、名簿にニックネームが記載されているが、検索に引っ掛からなかった。
ニローの白百合農園が、苺狩りの予約を始めたとのツイートがタイムラインに流れる。
三木はすぐにいいねしてリツイートした。




