15.待ち合わせ
「お待たせしました」
「いえいえ、こちらこそ。わざわざ途中下車していただいて、すみません」
西口は冬の宵闇に溶け込み、声を掛けられるまで全くわからなかった。三木は気付いていた風を装い、何食わぬ顔でケーキの箱を差し出す。
「これ、遅くなって済みません」
「ありがとうございます。一回、食べてみたかったんですよ。大変だったでしょう?」
「いえ、別に大丈夫ですよ。スマホでヒマ潰ししてたらあっという間でした」
「でも、唇真っ青ですよ」
「えっ?」
「ちょっとそこで、あったまって行きましょう。ご馳走しますよ」
「いえいえ、そんな……あ、そうだ。説明しときたいことあるんで、僕、出しますよ」
「あー……じゃあ、割り勘で。私、クーポン持ってるんで、パンケーキセット三割引きですよ」
昼食抜きで四時間近く並んだ。
購入後、まだ時間があったので帰宅したが、何もする気がなくなってしまった。取敢えずカップ麺を啜って改めて出てきた。
空腹と言えば空腹だ。
「いえいえ、僕の用事ですし、出しますよ。もしアレなら、クーポンだけお願いできますか?」
十分近く押し問答して店に入った。
肩の力が抜け、思わずホッと息が漏れる。ぬくもりに、冷え切っていたことを思い知らされた。
「三木さん、もうすぐ晩ごはんですし、半分こしませんか?」
「そうですね」
注文を待つ間、三木は携帯充電器にスマホを挿して、早速用件を切り出した。
「この間は急に無茶振りしてすみません。描いていただいたイラスト、ツイッターで使わせていただいてます」
ログインして、スマホを西口に向ける。
西口は、ツイートと返信をざっとみて、小さくうなずいた。
「キャラ絵はともかく、内容は割とフツーに鉄道会社っぽいんですね」
「えぇ、まぁ、非公式ですけど、あんまりはっちゃけ過ぎると炎上したりとか、大変そうなんで……」
「キャラ絵が完全アウトだと思いますけどねー」
いきなり言われて短時間で専門外のイラストを描かされたせいか、眼鏡の奥で鋭く光る眼が「イラストを外せ」と訴えていた。だが、今更引き返せない。
「会社の偉い人たちは、こんなの絶対、承認してくれません。……あ、西口さんの絵が下手とかじゃなくて、萌えキャラを使うコト自体が……」
「えっ、じゃあ、バレたら危ないんじゃないんですか? クビが」
「西口さんには絶対、ご迷惑お掛けしません。誰が描いたのか秘密にします」
「お願いしますよ? 契約途中で切られるとか、退職関係の手続きや書類でイヤがらせされるとか、ヤですからね」
「流石にそれは……」
「あったんですよ。前の会社で。私じゃありませんけど……」
ないだろうと言い掛けた三木を遮り、西口は小声で言った。
気マズい沈黙が降りた所へ丁度、パンケーキセットが来た。
七枚重ねのパンケーキにホイップクリームの山が聳え立つ。
てっぺんの小さなクッキーが登頂者に見えた。その麓を白百合農園の苺が取り囲む。
予想以上のボリュームに二人の沈黙の色が変わった。
「……三木さん、これもネタになるんじゃありませんか?」
「ネタ……あ、沿線にこんなお店がありますよって……?」
「比較用にボールペン支えときますよ」
「えっ、いいんですか? すみません」
西口は鞄からペンケースを取り出し、事務用ボールペンをテーブルに置いた。役所や銀行の窓口に置いてあるタイプだ。テーブルの横に回って、皿の横に立てたボールペンを指一本で支える。
「早く撮って下さいよ」
西口に急かされ、パンケーキの山を真横から撮る。念の為、数枚撮って西口に見せた。パンケーキの山はボールペンより高く、ペンを支える西口の手より上に登頂者が居る。
「UPするの、袖が写ってないショットでお願いします」
「じゃ、他は削除しますね」
三木は西口の目の前で画像を消した。




