14.栗のケーキ
通り過ぎ様、西口の席に折り畳んだメモを置く。
古典的な手だが、三木は他に思いつかなかった。
西口は無表情にメモを開き、すぐ胸ポケットに突っ込んだ。
三木が、定時で帰る西口の乗った列車を送り出してすぐ、私物のスマホにメールが届いた。
〈お疲れ様です。買えなくなったんですか?〉
三木はトイレに駆け込み、用意していた言葉をコピペして送信した。
〈お疲れ様です。
会社で渡すと他の人に食べられるかもしれません。
僕が休みの日に買って、西口さんの帰りに渡したいんですけど、どうでしょう?
受け渡しはおうちカフェの前。他の所がよければ、お知らせ下さい〉
おうちカフェは、幸瀬駅のふたつ隣の石野駅前にある。四月前半と年末年始以外は無人駅で、二月の今は駅員がいない。
西口鈴宅の最寄り駅は知らないが、方向は同じだ。定期で行けるだろう。了承を取りつけ、三木は一仕事終えた思いでホームに戻った。
三日後。三木は、くまくま茶屋のケーキ箱を手に寒風吹き荒ぶおうちカフェの前で西口を待っていた。
栗クリームケーキの焼き上がりは一日三回。
正午前から並んで最終の分をやっと買えた。
……駅の近所のことでも、ちゃんと調べてみないとわかんないもんだなぁ。
前夜につい、タイムラインに張り付いてしまって寝過ごしてた。
開店時間を少し過ぎた十時十分頃についたが、売り切れていた。
栗クリームケーキ、次は十二時。
店頭の貼り紙を見て一旦帰り、十一時半に戻った。既に長蛇の列で、バイトが「最後尾」の看板を持って客を誘導していた。
今日は朝からずっと曇りで、冷たく湿った風が吹いている。
時間のない観光客が諦めて次々と列を離れたが、行列の半分くらいで売り切れた。
この為だけに都市部からわざわざ幸瀬駅まで来たファンなど、三木を含む残りの人々は、スマホやカイロを握りしめて辛抱強く最終を待った。
ツイッターでせっせと写真とイベント予定を流し、フォロワーに絡んでいると、あっという間に順番が回ってきた。スマホの充電は残り僅かだ。
そんなこんなで、どうにか手に入れた栗クリームケーキは、所謂モンブランではない。
パティシエが、沿線の農家から直接買い付けた大粒の銀寄をたっぷり使ったショートケーキだ。細かく砕いた栗がスポンジ生地に入っている。茹でて裏漉しした栗をバタークリームに混ぜ、薄く切った栗の甘露煮と共にスポンジの間に挟んである。生クリームでデコレーションされ、てっぺんにはマロングラッセがちょこんと乗っかる。
マロングラッセの仕込みに三年掛かって云々……とケーキと一緒に渡された説明書に書いてあるのを読み耽る。
三木は、美味しいとの評判は数えきれないくらい耳にしてきたが、食べたことはなかった。




