12.名刺の交換
「こんにちは。駅員さん、私、こう言う者です。お世話になります」
「あ、これはどうも、恐れ入ります。幸瀬駅の駅員、三木と申します。こちらこそ、よろしくお願いします」
制服姿だからか、最年少の三木にも人が集まる。
当たり障りのない会話と名刺を交わし、次々と人が入れ替わった。
ゴルフ場オーナー、農家のおばちゃん、道の駅の管理者、昔ながらの喫茶店のマスター、古刹の住職、定年退職してから観光ボランティアになったおじさん、老舗の造り酒屋の息子、電車がなくなると困ると言う主婦……
手許に異業種の名刺がどんどん溜まる。
「や、どうも。駅員さん。俺、白百合農園の者です」
「あ、これはどうも、恐れ入ります。幸瀬駅の駅員、三木と申します」
さりげない動作で名刺交換する。
駅長に名刺を持って行くように言われ、入社以来一枚も減らずに抽斗で眠っていたのを引っ張り出して来た。
観光農園の青年は、よく日焼けした逞しい身体をビジネススーツで包んでいる。
「ニローって名前でウチの農園のツイッターやってますんで、また覗いてやって下さい」
「拝見させていただいております」
押し戴いた名刺には、白百合農園のアカウントも載っていた。
「あ、こりゃどうも。電車なくなったら苺狩りとか、お客さんスゲー減ると思うんで、ウチも死活問題なんスよね」
「こちらこそ、季節ごとに大変お世話になっております。……やっぱり、ツイッターって集客効果ありますか?」
低頭しながら聞いてみる。
「そうっスねー。まぁ、フォロワーさんで実際、来れる人って限られてますけど、リピーターさんは増えましたねー」
「へぇー……どうしてですか?」
「ん? お客さんが撮った写真、ファボってお礼言ったら向こうも喜んでフォローしてくれたりとか……」
「あー……なるほど。そう言う……」
「後、ほら、『ナメクジがイヤだった』とかのクレームを拾いやすくなって、ビールトラップ増やしたりとか、前より観光の質、上げられるようになったってのもあるんじゃないんスかねー」
「なるほど……」
……やっぱ、繋がりって大事だよなー。
各駅に「お客様の声」の箱は置いてあるが、三木が勤務する幸瀬駅では、いらないレシート以外の物が入っているのはレアだ。
アナログな手段も残しておいた方がいいと思うが、今時それだけではいけない。
二木鉄公式サイトにもご意見用のメルアドを載せているが、「お客様の声を聞く耳はありますよ」のポーズとして置いているだけなのか、全く目立たない場所だ。
年間どのくらいの意見が本社に寄せられるのか。
三木は多分、少ないのではないかと思っている。そして、あんなごちゃついたサイト内をわざわざ探してまでメールで連絡してくる人は、かなり執念深い人なのだろう、とも思う。
「二木鉄さんも、公式ツイッターあるんスから、あれもっと使えばいいのに」
「あのアカウントは遅延情報専用なんで……」
「あぁ、他の話で流れると困るっスからね。じゃ、別アカ作って、イベント告知とかはそっちで」
「そうですねー」
三木は周囲を見回し、小声で早口に言った。
「僕、下っ端の駅員なんで……社外の方から、偉い人に言っていただけると助かるんですけど……」
ニローは一瞬、怪訝な顔をしたが、すぐに察して苦笑した。
「じゃ、偉い人、紹介してもらえます? 誰が何屋さんなんだかわかんねぇっスから」




