10.リスで炎上
「あ、そうだ。西口さんにこの件のイラストとかお願いできたりしませんか?」
「うーん……契約社員だからなぁ。契約外のことは、会社としては頼めんなぁ」
西口は今、予約業務で定期券の窓口に出ている。
「給料出ないからですか?」
「そうだ。非正規の人は契約で仕事の範囲が決まってるからな」
「じゃあ、個人的に頼むのはいいんですか?」
「休日潰してタダ働きさせる気か? 本人がいいと言ってくれれば別だが、難しいんじゃないか?」
三木は、例のイラスト一枚だけでもあんなに難色を示されたのを思い出した。
駅長の説明で、これ以上は到底、引き受けてもらえないだろう、と考え直す。
「あー……じゃあ、しょうがないですねー……」
イラストの追加は、諦めざるを得なかった。
帰宅後、作り置きのおかずで遅い晩ご飯を食べながら、スマホをいじる。
二木あおい宛のツイートはなし。
リツイートは合計三件、いいねは合計七件。いずれのアクションも、相互フォローしている個人アカウントばかりだ。
沿線のお堅い系の公式には、まだ存在を気付かれていないのか、何のリアクションもない。
観光農園だけがフォロバしてくれた。
終点のふたつ手前、国包駅が最寄の白百合農園だ。三木も小学生の頃、遠足で苺狩りに行った。
プロフィールには、農園のURLと「管理者のニローです」とだけ書いてある。
三木は、白百合農園の過去のツイートをざっと見た。
農園自身の情報発信だけでなく、野菜や果物を卸した飲食店の情報をリツイートしたり、自ら食べに行って「ウチで育てた苺の新作パフェ、おいしかったです☆」などと写真付きでつぶやいたりもしている。
それらとは無関係な、話題のオモシロネタもリツイートしていた。
三木は少し考えて管理者にお礼を言った。
〈ニローさん、初めまして。
フォローありがとうございます♪
二木鉄は今年で八十周年です。
沿線の皆さまと一緒に盛り上げていければと思っています。
これからもよろしくお願いします。〉
ニローがつぶやく時間帯はまちまちだ。
農作業の合間にスマホでつぶやいているらしい。
三木は食べ終えた食器を洗い、去年撮り貯めた写真とこれからのイベント情報をツイートした。
タイムラインに情報を小出しにする作業を終え、二木粟生井鉄道の公式サイトを改めて確認する。トップページの新着情報が、二件追加されていた。
八十周年記念式典を行いました。
二木粟生井鉄道活性化協議会が発足しました。
最新の記事を開く。
式典の概略と写真だ。
二木粟生井鉄道の代表取締役社長と、沿線三市の市長、ゴルフ場オーナーの計五人の男性が、紅白のテープを前にぎこちない笑顔で鋏を握っていた。
偉い人たちの背後には、沿線の自治体や企業などのゆるキャラが並ぶ。ニッキーも一応クリーニングしたのか、少しキレイな状態で写真に納まっていた。
……洗ったところで、怖いモンは怖いよ。
ニッキーは相変わらず、子供が見たら本気で号泣しそうな造形だった。
ページ末尾に「式典の様子が新聞で紹介されました」と、地元紙の記事へのリンクがある。
地元の新聞記者はよくわかっているのか何なのか、偉い人々にピントを合わせて寄せ気味に撮り、後ろのゆるキャラ群は、ぼんやりとしか写っていない写真を載せていた。
三木は溜め息をついて、ツイッターに戻った。
トレンドワードの一番下に「二木鉄のゆるキャラ」が上がっている。
イヤな予感しかしない。
それでも、三木は震える指先でリンクを踏んだ。
〈このリスが持ってんのって、まさか……栗……?
栗と(以下自主規制)
これはヤバイwww草不可避www〉
公式サイトの鮮明な式典写真が転載され、卑猥なコメントが添えられていた。それを読む間にも新着ツイートの件数が増えてゆく。リロードする度に下品なツイートが積み重なった。
格好のネタだ。
……まさか……いや、絶対、ある。
三木は確信を持って検索した。
案の定、大手掲示板サイトに「【栗】ローカル線でヤバいゆるキャラが目撃される【リス】」と題したスレッドが建っていた。それが更にまとめサイトでも取り上げられている。
スレッドの勢いは、三木が懸念した程ではなく、まとめサイトは今のところ、ローカルニュース専門と鉄道ニュース専門の二カ所だけだ。
……ローカル過ぎて、炎上って程でもないのか?
これからどう転ぶかわからないが、念の為にスクリーンショットを撮って、スマホを充電器に戻した。




