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造船物語 アルセナーレにようこそ!  作者: 民間人。
第五章 ウネッザ攻略戦線
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帰る人々

 崩れ落ちる補給船は、ウネッザの民にはもはや見慣れた光景になった。

 食料は決して不足を免れなかったものの、夜には必ず市場に出回るようになり、また、昼には「海賊」が満杯の麻袋と共に届けるようになった。敵のガレアッツァも縮こまって砲撃も撃ち込まなくなった。

 大運河は相変わらず封鎖されたままだったが、本土側からやってくる商船は身動きの取れないジロード船を避けて夜中に小舟で来航するようになり、立場が完全に逆転する。


 一方で、鉄の船は辛抱強く砲撃をつづけ、マッキオ広場は時折訪れる巨大な砲弾によって穴だらけになった。ほとんどの人々が避難を続けるなかでも、所々に穴をあけられた元首官邸には、十人委員会のメンバーが常に控えていた。一方で、議会は唐突に主人のいなくなったカペレッタ教会で行われるようになる。鉄の船の砲撃だけは留まることを知らず、常に頭に砲撃の音が鳴るような感覚が、ウネッザの市民を襲った。


 カルロは海賊行為から帰還すると、食品街に赴いて縄を解き、格安で燕麦や小麦を売り歩いていた。町も普段の活気を取り戻し、建造物の修復の為に寄越された大工たちが奏でる騒音も、食品街まで届くことはない。

 カルロは息を吸いこみ、潮の香りを一杯に肺に溜め込むと、満足げに吐き出した。広場の中心で大道芸人が現れると、人々が彼のもとに群がる。客寄せをする看板娘にがっちりと腕を掴まれたひ弱そうな若い男が、店に連れ込まれようとする姿も確認できた。


「盗品持ってきましたー!」


 カルロは一軒の店に顔を覗かせる。仕込み中の店主が作業をやめ、手を拭った。


「今日は何入ってる?」


「すいません、あんまりいいのがなくって」


 カルロは麻袋を開き、店主に見せる。店主は中身を確認すると、微妙な表情をした。

 麻袋の中身は大量の大豆であり、市場に出回らせたものよりいくらか形の悪いものだった。店主は少し唸った後、麻袋に手を突っ込み、一掴みする。大豆をまじまじと見つめ、再び唸り声を上げ、麻袋の中に戻した。


「流石に店で使える形じゃないな……あーあ、今日は競りに出ておけばよかったなぁ」


 店主は残念そうに言う。カルロは広げた麻袋の紐を閉めなおす。


「じゃあ、こいつらは役場に寄付しておきますかね」


「それがいい、余り物にたまたま福がなかったと諦めるしかないな!」


「ははは、失礼します」


 カルロは麻袋を担ぎ、笑顔を見せる。店主は手を挙げて返事をし、仕込みに戻った。

 店を出たカルロは、今度はアルセナーレへ向かう。直近の危難は去ったとはいえ、有事であることに変わりはなく、毎日一隻のペースで間断なく作業が続けられていた。カルロは昼以降に参加することになっていたが、流れ作業も慣れ、途中参加も苦も無く受け入れられるようになっていた。


「こんにちは!」


「おう!カルロー、肩揉んでくれー!」


 開口一番にメルクが言うと、工場には静かな笑いが起こった。海の向こうには敵の船も見えていたが、彼らは動く気配もなく、幽霊船のように波に揺すられていた。彼らの三方には石を積んだ船が沈んでおり、前方を、砲口を向けたウネッザの船が塞ぐ。

 旋回もままならないままの船からは、時折小舟に乗った水兵たちが海の彼方へと消えて行く姿が確認できた。


「……どこ行くんでしょうね、あれ」


 カルロは釘打ちの最中に呟く。メルクは咥えた釘を取り、視線を海の向こうに向けた。


「……逃げるんだよな。ジロードは俺達以上に個人主義だからな」


 メルクは釘打ちを再開する。彼は器用に親指と人差し指の間で釘を支え、右手で槌を振るう。他の釘は中指と薬指で支えるようにしながら包み込んでいる。


「個人主義って……。残っている人たちに申し訳ないとか思わないんですかね?」


「そう思っても逃げるんだろうよ。隣同士が共闘できるライバルか、いがみあう競争相手かの違いだ」


 カルロは不服そうに口を結ぶ。メルクの隣で釘を打つカウレスはぼそぼそと囁く。


「どっちがいいってこともないと思いますけどね。俺は好きですよ、ジロードのそういう所」


 カルロは再び敵船に視線を向ける。漕ぎだした小舟はウネッザとは反対方向に向かい、二隻の船がそれを追いかけている。荒海になりうる航海にはあまりにも無謀な行いをした漕ぎ手は、それでも自分の取り分だけはしっかりと積み込んでいた。


(追いかける二隻に乗る人々はどう思っているんだろうか……)


 風が凪ぎ、波が大人しくなる。穏やかな海を掻き分け、三隻は徐々に離れていく。高く掲げられたジロードの赤十字がゆっくりと降り、萎れて柱にとりつく。追いかける二隻の後ろを、再び一隻の船が漕ぎだす。彼らは途中で方向を変え、本土へ向かって消えて行く。


(飢えは苦しいもんな……)


 カルロは水平線の彼方を見る。彼は北西方向に逸れていく一隻を見つめ、その奥にある連なる山に囲まれた集落を思った。北西に風が吹き抜ける。


故郷に向けて吹く風(マエストラーレ)、か……」


 カルロの呟きを聞くものはなく、造船は計画通りに進められた。

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