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造船物語 アルセナーレにようこそ!  作者: 民間人。
第五章 ウネッザ攻略戦線
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疾風海賊登場

 件の襲撃以来、ウネッザの動きはない。私達は時々大砲を放ち、敵の戦力を殺ぐよう努めたものの、さしたる収穫もないまま、次の補給船がやってきた。ジロード最先端の技術を散りばめた快速帆船は食料を山と積み、我々の船に近づいてくる。

 私はかねてからの心配症により、随分と頻繁に補給船を寄越させるよう進言したのだが、これが功を奏し、食糧庫は常に満杯である。塩水を啜らずともうまい水を飲めるし、新鮮な魚は勿論、珍しい貝やタコの類なども搬入され、兵士達も順風満帆の船旅をさぞ楽しんでいることだろう。今日は風の向きも良好なようで、快速帆船はみるみるうちに近づいてくる。


 帆船は鉄の船に近づくと、突然鈍い音を立てて停止した。私は音に驚き、上甲板へ上がると、食料を満載した船を確認する。止まったままで微動だにしない帆船が、船首をこちらに向けている。帆船の乗組員たちも上甲板にのぼり、船首から水底を見下ろした。


「……座礁?馬鹿な……」


 私は水底を確認する。揺れる水面にうっすらと、石の詰められた小舟が何隻か沈んでいる。私は血の気が引くのを感じた。そして、激しい風が吹き、快速帆船の左舷から鈍い音が響く。私は位置を変え、音のありかを探った。そして、海の色に擬態した帆を広げた小舟が、快速帆船の左舷に突き刺さっているのを確認した。私は絶句し、快速帆船の上甲板にいる水兵たちに顎で指示を出す。水兵たちは次々に甲板を下りて行った。私は小舟のあった位置に視線を送る。私が本当に戦慄したのは、その時であった。


「……は?どこだ!どこに行った!」


 私は甲板を駆け回り、小舟のありかを探った。そして、大量の食料を積んだ小舟が、帆を全開にして遠ざかっていく姿を確認した。私は思わず声を荒げる。


「あの船を落とせぇ!」


 鉄の船はウネッザに向けられた体を旋回させようとする。風は小舟の思うままに吹き荒び、私達の船が旋回するのを邪魔する。私は視線を小舟に送ったままでワイン樽に腰かけ、銀の針で指を刺した。噴き出すワインがあまりにも遅く感じ、歯ぎしりをしながら小舟を睨む。ワインが満たされてすぐに血を垂らした。


「盗人には厳罰を!」


 煮えたぎるワインが蒸発し始め、小舟が火を噴いたかと思うと、火が風に靡いて即座に消えた。そして、その勢いに乗った小舟は沖へ沖へと流れていく。砲撃も、小舟が風に助けられて散会するので、かわされてしまう。やがて小舟は可視できない程の海の彼方へと消えて行った。

 私は沸々と煮えたぎる怒りに任せて爪を噛む。爪がガリガリと音を立てて砕けた。


「おぉのれコソ泥ども!どさくさに紛れて海賊行為とは万死に値するぞ!」


「お生憎様!もとより俺たちは地獄行なんだろう?」


 風が吹き、帆船の右舷後方が音を立てて砕ける。木屑がはじけ飛び、煙になって散会した中から姿を現したのは、腕を組んで立つ若い男だった。帆船の中の男達も勢いで何人か海に落ちた。


「それじゃあお零れを頂くぜ!」


 男の後ろにいた船員が、次々と小麦粉を小舟に積み込んでいく。海に落ちた者達が這い上がると、彼らは直ぐに小舟に乗り、手際よく帆を操った。私は「砲撃」と叫びかけて止める。快速帆船はまだ浮かんでいる。この状態では帆船の乗組員に戦わせた方が得策だと考えたのだ。


「じゃあな!お偉い方!」


 先程とは反対方向に風が吹き、投擲されたナイフのような小舟が一瞬で距離を取る。風に助けられた小型の帆船は、段々と沖に流れていく。私が再びワイン樽に座そうとすると、快速帆船の方向から焦げ臭い臭いがした。私は背後を確認する。細くどす黒い煙が快速帆船の右舷から上がっていた。

 私は「砲撃!」と叫ぶ。鉄の船は旋回し、次々に砲声を上げた。小舟はやはり風に助けられて避けていく。私は放心したまま、燃え盛る帆船を見る。海に飛び込む海の男達は、鉄の船に向かって泳いでくる。目の前で煙を上げる快速帆船は、食料と共に焼け崩れていった。

 私は下唇を噛み、目を瞑る。寄った眉を指で広げ、囁くように言った。


「……俗にいう風魔法ですか。去り際に火矢を撃ち込むのも流石。しかし、鬼ごっこだけはよしたほうがよかったのでは?」


「あの小舟を追いなさい。間違いなく、あれがリーダーだ」


 私は船楼に向かいながら、放心する兵士達に叫んだ。


「駄目です!あれを追えば座礁します!」


 私は唸り声をあげ、広げても寄る眉を何度も広げた。


「見事としか言えません!ウネッザの皆様、感服いたしました!」


 メディスが上甲板に駆けてくる。私は彼の服の裾を引き、船楼に連れ戻す。そして、怒りを抑えきれずに低い声で、彼に耳打ちしたのです。


「ウネッザに砲撃を浴びせてください。マッキオ広場を標的に、よろしいでしょう?」


 彼は私の声に恐れの余り目を見開き、静かに頷く。私は席に着きなおし、巨大な尖塔と並び立つ薄いピンク色の官邸を睨み付けた。

(必ずや、落としてみせましょう……)


 私は歯ぎしりをしたまま口角を上げる。ギリギリという音と共に、零れる引き笑いが船楼中に響き渡った。


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