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造船物語 アルセナーレにようこそ!  作者: 民間人。
第五章 ウネッザ攻略戦線
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復元性

 カルロがぼんやりと窓の外を眺めていると、モイラが外出用の上衣を脱ぎながら「ただいま帰りました」と言う。カルロは少し驚いたものの、挨拶を返す。モイラは穏やか笑みを浮かべ、給湯室へ戻っていった。


(……俺が今できる事、今できない事……)


 カルロは睨みあう船の様子を見つめ、思索に耽る。彼の脳裏にできる事として真っ先に浮かんだものは、船を造るという事、そしてウネッザの様子を空から眺める事、というものだった。そして、できないものとして、戦線に出て活躍することが浮かび、自嘲気味な笑みを零した。


(まぁ、そもそも突撃して勝てない相手と戦うっていうのは俺じゃなくても無理だろうけど……)


「あれ……?」


 カルロは展望台の隅、ムラーノ教区方面から列をなした小舟が大量に本島に向かっているのを見つけた。カルロは冷や汗をかき、小舟の出現元を探す。そこには、見覚えのある帆船があり、国旗等は掲げていなかった。


(もしかして……!)


 カルロは階段を駆け下りる。教会を出ると、狭い路地を突っ切り、橋を渡り、ウネッザ本島の端にある、海側に出入り口のない広場に辿り着いた。

 カルロは息を切らせながら、目を凝らす。小舟がまっすぐに岸壁に向かっていることが確認できた。小舟に乗った人物は殆ど城壁のように高い壁を、係船柱に括り付けた縄を伝って昇ってくる。

 決して素早い動きではなかったが、かなり焦り気味に這い上がる人物を、カルロは引き揚げる。その人物は一瞬表情を強張らせたが、カルロの顔を認めると、直ぐに安堵の表情を浮かべた。


「カルロ君!無事でよかった!」


 その人物、アントニー・ベルモンテは、カルロの腕を上下に強く振る。続く小舟から上陸した人物は、岸壁に近づく小舟から、次々に食料が引き上げ始めた。


「これは……?」


「ウネッザの危機と聞いて、いてもたってもいられなくてね。恩人である君にも報いるために、ありったけの財産を食料に回して引き返してきたのさ」


「その、失礼ですが、それは大丈夫なんですか?」


 アントニーは人差し指を立てて振る。アントニーからカルロの方に向かって、優しい潮風が吹いた。


「祖国の危機に立ち上がらなかったら、それこそ、ウネッザの民として失格。私は強くはないから兵士にはなれないが、商人としてウィン=ウィンの取引なら協力が出来る。つまり、互いに稼ぎになる!」


「そういう事だ」


 カルロがふり返る。そこには、夜の霧に隠れるような深緑のトーガを身に纏う、アルドゥスがいた。


「アントニー・ベルモンテさん、無理を言って申し訳なかった。取引に応じてくれたことは感謝に堪えません」


「いいえ、お役に立てて何よりです」


 カルロはアントニーとアルドゥスの顔を交互に見直す。運び込まれた食料の山は、アルドゥスの連れた中型の船に積み込まれる。小舟はすぐにUターンし、帆船の方へと消えて行った。アルドゥスはカルロに冷たい視線を向ける。


「君の考えとは少し違っているよ。私はこの食料を明日の市場に流す。非常時には特に売れるからね。私はある程度ウネッザの流通を掴んでいるから、伝手を伝って簡単に稼ぎが出る。勿論、ダンドロ一族は御存じだ。専売にならないようにわざわざ面倒な流通経路を使わされたのは心外だがね」


 アルドゥスはアントニーに歪な形の革袋を手渡すと、踵を返して自分の船に乗る。満杯になった船はゆっくりと食料品街へと向かって行った。それを呆然と見送るカルロを見て、アントニーはくすくすと笑った。


「あの人は素直じゃない、と思っておくといいんじゃないかな?さて、私も日の出までに脱出しなくてはいけないから……」


「待ってください!」


 最後の小船に乗り込もうとしていたアントニーは、カルロの声にふり返る。カルロは一旦唾を飲み込み、アントニーに近寄って小声で訊ねた。


「あの、どうして帆船ごと来なかったんですか?」


「干潟に引っ掛かっちゃうからだよ。この辺りは満潮時でも大きな船は寄港できない。ほら、普段は目印の棒を立てているだろう?ここは港もないから、彼らには包囲する理由もないだろうしね」


 アントニーは平然と答える。カルロは口を開け、呆然と立ち尽くす。アントニーは困ったように笑った。


「えっと、どうしたの……?」


 カルロは我に返ると、笑顔に戻って普段のアントニーと同様に、アントニーの手を強く握った。


「有難う御座います!」


「え、えーっと、うん。」


 カルロの過大な感謝に、アントニーは困惑気味に応じる。カルロはアントニーの手を離すと、広場を駆けだした。

 追い風を受けたカルロは、一瞬道を違えて足を止め、左右を見回して左の小道へと方向転換した。取り残されたアントニーは首を傾げ、カルロの後姿を目で追いかける。カルロが見えなくなると、肩を持ち上げて微笑んだ。


「本当に、彼は不思議な力を持った子だなぁ……」


 アントニーはのそのそと縄を伝う。係船柱の縄を切ると、小舟は素早く海上の帆船へと向かって行った。


(そうだ、当たり前すぎて気づかなかった!ウネッザは、干潟の上にある城塞のような都市じゃないか!)


 カルロは息を切らせ、吹き荒ぶ隙間風に合わせて町を駆け抜ける。

 明かりの消えた閑静なウネッザの街路から、月が煌々と照り付けている。

 カルロはダンドロ邸に駆け付けると、何度も強くノックする。扉の鍵が開く音を確かめると、こじ開けるようにドアを開け、邸内に飛び込んだ。


 呆気にとられた使用人と目が合ったカルロは、呼吸を整えると、家中に響くほどの大声で叫ぶ。


「あの!ピアッツァ・ダンドロさんか、エンリコさん、フェデリコさんはいらっしゃいますか!」


 困惑した使用人は口をパクパクさせてカルロに両手の平を向ける。カルロは扉を開けて中庭に侵入し、階下から上階を覗き込んだ。中庭の吹き抜けから覗く、エンリコの部屋の前の廊下に、ぼんやりとオレンジの光が灯り、階段の方へと動き始めた。

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