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造船物語 アルセナーレにようこそ!  作者: 民間人。
第五章 ウネッザ攻略戦線
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傾国のインフェクション5

 ウネッザを一望できる高い船楼から見下ろすと、私はかつての苦い記憶が蘇ってくる。鉄塊の船を進水させるためにプロアニアと密に取引を行ったことが幸いし、敵を圧倒する威力を見せつけることが出来たことは、私見以上に大きな戦果であった。

 鉄塊の船の内装は決して戦艦向きの堅牢さはなく、外皮を捲れば大したことのないガレアッツァであるだけに、彼らに衝撃を与えることに失敗すればやはり困難が生じることになる。ガレー船団が守りを固めてくれたのは私としては最高の結果であって、不安定な砲門で辛抱強くガレー船団を叩き落とし、船底に集う細かな船を落とし続ければ、何とか敵を追い詰めることが出来るだろう。


 海上のうねりは如何にも我々に協力的で、こちらがウネッザを包囲している間に、各船団がウネッザの飛び地を占領するまで待つ。敵兵は伝令が届かないことに不審に思うようになり、こちらに近づいてくれれば、射程だけはある欠陥火砲で落とすこともできるであろう。

 既にラザの包囲を完遂させたことを加味すると、ウネッザが僅か数隻の鉄塊の船と、十数隻の木造帆船で音を上げるのも時間の問題であろう。そうなれば、海上の覇権は一気にジロードに傾くことになる。

 私は深く腰をおろし、敵国の元首官邸の灯りの灯り具合を確かめた。


 船楼には巨大な船と情報伝達用のパイプがあり、四方には数日分の酒や食料が詰め込まれた樽が置かれている。眺めは聖マッキオの展望台に勝るとも劣らぬもので、わざわざプロアニアを介して仕入れたウネッザ製の良質な硝子の質の好さに、敵ながら驚かされる。

 監視塔からの視線を定期的に届ける視界ジャックのできる魔術師が北東方向の樽に腰かけ、澄んだガラスの向こうを眺める。視線は全くぶれることがなく、その姿は見ようによっては不気味な置物にも見えた。

 私の腰かける席の隣には玉座のような豪奢な席があり、赤い絹糸で織られた幕が足を隠す。私は椅子を一瞥すると、潮風の届かない船内にも、如何ともしがたい居心地の悪さを感じる。


「鉄塊のハリボテは功を奏したようだね」


 背後から、私の主人であるジローラモ・デ・メディスが現れる。背中で手を組み、非常に楽しそうに声を弾ませていた。私は努めて無表情で答える。


「おお、陛下。貴方は脱出口の付近に待機してくださいとお願いしたはずですが」


「いいではないか、彼らを見下ろすのは実に気分がいいものだ」


 メディスは船楼の窓から敵陣を眺める。彼は、ひしめき合う船団を指さし、腹を抱えて笑う。私は少し眉を顰め、メディスの視線を追う。


 傭兵ではない、ウネッザの国に自由を得て、誇りをもって商事を行う人々が、次々と水底に沈んでいく。海上に浮かぶ木の樽にしがみつく男や、吹き飛んだ腕だけが赤い染みを作って海面を漂う様は、見ているだけでも吐き気を催すような酸鼻極まる光景であった。メディスはそれには視線を送らず、遥か彼方の鼠のようにひしめき合う船を見て笑うのだ。


「戦果は上々ですので、お喜びなさるのは結構でございます。しかし、陛下、ウネッザの土地を統合した暁には、鞭だけではなく飴をもたらす必要が御座います。君主の務めは優れた手腕で国家を導く事、理想国家ジロードはウネッザの崩壊と統一地域の繁栄によってのみ完遂されるもの」


 私が述べると、メディスは無関心という具合に手を振り、窓に張り付く。からからという笑い声が響き、船楼に控える兵士達が黙ってそれを見つめる。肩を震わせる後姿は如何様に擁護しようとも悪役のそれであり、張り付いた窓に水滴が滴る様を見ると、此方に非があるようにも見られるであろう。兵士達の目には、メディスがどう映っているのか、非常に興味がわく。


「陛下、海をご覧ください。我々の千年王国の船出を神が祝福しておられますよ」


「おぉ、神よ!私はここにおります!主をも恐れぬ蝙蝠たちを必ずや打ち倒して見せましょう!」


 メディスは天に手を合わせて訴える。演劇のような迫真の表情で見上げた先には、高い船楼の壁が立ちはだかっている。

 これでは天に祈りも届くまいと考えた私は、指を使って兵士に指示をする。兵士は恭しく礼をすると小声で詠唱をする。メディスの頭上から光の筋が生まれると、彼は感嘆の声を上げて天を仰いだ。

 船楼の窓からは太陽を見ることができない。光の筋を仰ぐ彼の姿に、私は思わず吹き出した。


「陛下、神の詔を果たすべく、必ずや大業を果たす必要が御座います。どうか、賢明な行動をお願いいたします」


「また獅子と狐か、飴と鞭とやらか。わかっている。ウネッザが音を上げるまで、気長に待つとするよ」


 私は恭しく頭を下げる。実際には、今動くことが却って危険であるという事情があるのだが、敢えて彼には告げることはしなかった。


「大変結構でございます、陛下。如何なる場合も慈悲の心を忘れぬよう、お願い申し上げます」


 王は玉座に腰かけると、足を組んでウネッザを見下ろした。私は視線をおろし、海図を見る。海図には、小さな点のような島嶼のすぐ横に、「ウネッザ」と記載されていた。

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