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造船物語 アルセナーレにようこそ!  作者: 民間人。
第五章 ウネッザ攻略戦線
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獅子の庭1

 十人委員会は既に特別会議室に集まっていた。最も迅速に事態を把握した物見台のチコ・ブラーエ博士は、十人委員会の中に混ざり、男ばかりの議場に花のような置物が添えられたようだった。


 吊るされたシャンデリアは無数の蝋燭で委員を議席にいざなう。チコ博士を含めて15人の委員が集うと、議場に招かれた難破しかけた報告者が招き入れられる。仏頂面の委員が囲むレース付きのテーブルクロスがかけられた机の中心に、船乗りがふらふらと座り込む。

 それを確認すると、ドージェは「開会します」と言うと、一斉に机上に置かれた法令集が開かれる。議員たちは足を組みなおし、深く腰掛けた。


 議場の静寂を確認したドージェは、簡単なメモを開いた。


「まずは私から今回の事態に関する報告を行います。昨日深夜、船乗りである彼、セバスチアーノ氏から、深刻な報告を受けた。我々ウネッザの商船が、ジロードの旗を掲げた軍船らしきものに襲撃を受けた。

幸い、大事には至らなかったものの、最寄りの寄港地、ウネッザ領ザラに寄港したところ、船出した商船の多くがザラに寄港した記録がなかったとのことで、一旦セバスチアーノ氏ら十数名を乗せた船を三隻ウネッザへの報告書と共に送り出したものの、途中運悪くジロード籍の軍船と思しき船団と遭遇し、船は全壊、沈没したため、脱出用の船舶を利用して逃れたセバスチアーノ氏が報告の為にウネッザへ帰港した。

その際、同乗していた四名は全員船内で餓死した。まずは犠牲者十数名に哀悼の意を表するとともに、神の導きによって幸運にもウネッザへ帰港し、この一件を迅速に報告してくださったセバスチアーノ氏に対して、感謝と慰労の意を表する」


 委員は一斉にセバスチアーノに頭を下げる。彼が、委員につられて礼を返す。頭を上げる委員たちの衣装が擦れる音が止むと、息の詰まるような静寂が部屋中を支配する。

ドージェがメモをおろすと、ほぼ同時に委員の一人が手を挙げる。ドージェは手のひらを上に向けて、手を挙げた委員をさした。委員は咳払いを一つすると、よく響く低い声で語りだした。


「セバスチアーノ氏、今回の件はジロード籍船舶による襲撃であるという証拠はどのようなものがありますでしょうか。第二回の襲撃では明確にジロード籍船舶であると確信しておられるようですので、確認したく思いました」


 セバスチアーノは委員を正視して誠実に返した。


「えぇ、はい。まず第一に、旗がジロードのものであったという事、第二に、海賊にしては巨大な船舶であったためです。これら二つについては第一の襲撃でも船員が確認しております。また、第三に、プロアニア産のものと思しき非常に高射程の大砲によって砲撃を受けたことです。これについては日中に目視できた第二の襲撃で確認いたしました」


 第三の理由が語られると、議場は騒めく。身を乗り出して驚くもの、目を見開いてセバスチアーノを睨み付けるもの、忌々しそうにした唇を噛むもの等があった。質問をした委員が一同を手で静止すると、ざわめきは暫くして収まった。委員は、続けて質問を続ける。


「少なくとも大規模かつジロード籍であると考えられる集団による襲撃であることは間違いありませんね。では、もう一つ、報告は陸路でも行っているのでしょうか?」


「ラザは三方が山脈で囲われておりますので、被害報告は船と早馬による両ルートを用意いたしました。陸路については山間を行くルートですので、多少遅れることは予測しておりました。海上については、二つのルートに分けましたが、未だ帰港していないことを考えますと、途中で何らかのトラブルに遭ったのではないかと疑われます」


 議場にため息が起こる。質問をした委員は眉間を指で押さえ、唸り声をあげると、沈んだ声で「有難うございました」と答えた。

 チコは沈み切った空気の中、一人にやつきながら男達の表情を追いかける。


「チコ先生、貴方の見解を聞きたい」


「推測からされる推測に、関心があるのであれば」


 委員一同の視線を受けると、チコは彼らを胸を摩りながら流し見する。ある委員が喉を鳴らすと、チコはそちらに視線を送る。


「表面上は娘を取ったウネッザへ対する報復と娘の奪還、実態はウネッザの海上を封鎖して拠点を分断し、外海の覇権を取る事、と考えれば攻めてくることは容易に予測できる。但し、奇襲まがいの砲撃は、恐らくウネッザの船と鉢合わせになったことへ対する咄嗟の行動だろう。つまり、想定外のものだ」


「……ちょっと待ちなさい。チコ博士、それではジロード籍船舶の狙いはどこなのですか?」


 チコは地面に指をさす。


「ここ。理由は単純明快、今の時期が一番「ウネッザに食料がない」からだ。さて、そして宣戦をしなかった理由だが、恐らく一番大きいのは、この国の政治体制である、共和制の脆弱性から来るものだろう。つまり、君主制よりずっと行動が後手に回りやすいという点だ。憶測ですがね」


「……待ちなさい、では、今も真っすぐこちらに向かっているという事ですか?」


「先に飛び地を包囲することは考えられるね。いずれにしても、悠長なことは言っていられないとだけ、結論を出しておくよ」


 委員たちが一斉に手を挙げる。ドージェは一人ずつ名前を呼び、発言を許可する。


「……僭越ながら、ドージェ、ここは緊急に応戦する必要があるかと思います」


「先に叩くことに賛成です。このままですと、賠償をすることになりますよ」


「待ちなさい、それでは完全に攻勢をかける理由を与えてしまうことになる。ここは様子を見るべきでは?」


「ドージェ、ここは穏当な措置をするべきではないでしょう。メディス家の令嬢を牢に放り込んでしまいましょう、そして、あの娘の命を使って脅すのです」


「いえ、戦争となれば、準備をろくに行っていない私達が不利です。防戦の準備を徹底的に行い、我々のフィールドで戦うべきでは?」


 各々が自由に意見を言い始める。やがて抗戦派と慎重派は互いの発言の間に野次を飛ばしあい、感情の高ぶりに合わせて白熱した罵りあいが始まった。議論から罵詈雑言の嵐へと委員会の様相が変化すると、耐えかねたドージェは、机を叩き、立ち上がる。


「……決を採りましょう。決戦か、抗戦か、様子見か、いずれかに賛成を掲げなさい」


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