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造船物語 アルセナーレにようこそ!  作者: 民間人。
第四章 ウネッザの商人たち
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帆船って?3

 時化の時期も半ばになると、造船の作業は船倉、梁の組み立てを終え、甲板の取り付け作業に移っていた。

 船倉に取り付けられた三本の長いマストが貫く様に船の遥か上まで伸び、徐々に帆船の外装が出来上がり始めていた。マストを繋ぐように梁を張り巡らせた船内に、次々に床板が運び込まれる。

 カルロは船内で取り付け作業を行っていた。船内の端から端まで響く槌の音が外壁に反響し、機械的で規則的な音があちこちから響き渡った。


 カルロは内部で板を受け取ると、甲板の取り付けを行っている人々へと運ぶ。そして、整列された板を腕と脚で支え、取り付けの補佐を続けた。

 木槌は真っすぐに釘で板を貫き、左端、中央、右端の三方に打ち付けられる。

 左舷から右舷にかけて材木が繋がると、続けざまに上から板が運ばれる。カルロは急ぎ積み重ねられた板を受け取ると、再び甲板へと運ぶ。上甲板も同様に取り付けがなされ、材木の運搬の為に時折中止される上甲板は、下甲板と比べると多少ゆっくりと行われていた。


 下甲板へと材木を渡すと、カルロは両手を見る。豆だらけになった彼の手はプルプルと震えていた。


(腕が痺れる……)


 交代で甲板を支える人々が、入れ替わり際に談笑をかわしている。カルロは手の震えが止まるまで出来上がった甲板の端で工具箱を構う。打ち付けられた釘と同じ形状の新品の釘が雑多に積み上げられている。

 カルロがすり減った木槌の端にできたささくれをはがすと、反響する木槌の音に混ざって、微かに木材のはがれる音がした。


 カルロは取り付けられていく甲板を見つめる。丸出しだった骨組みが少しずつ隠れていく様を見ると、カルロはえもいわれぬ満足感を覚えた。


(でかい、船だなぁ……)


 最前線で釘を打つ人々は、各々が談笑しながら次々に釘を打ち込む。手際よく取り付けられた床板は寸分の狂いもなく、水平に取り付けられていく。端の床板は、二重に取り付けられた壁に従って、正確に流線形の船をなぞる。床の下に埋められていくような感覚を覚え、カルロは思わず笑みを零した。


 大時化の冬が徐々に落ち着き始め、船旅にはちょうど良いがやや肌寒い晴天が以前よりも目立つようになると、やがて屈曲な肋骨と竜骨を覆う下甲板が出来上がる。下甲板を取り付けていた人々は、さらに梁を伝って上へ上へと取り付け作業が進められていく。やがて、上甲板が出来上がると、居住空間のある船楼が組み立てられ、内装が整えられていった。


「おぉ!おぉ!凄い、帆船だ!」


 カルロは大詰めになった作業を外から眺める。白い息を一杯に吐き出した向こうには、三本のマストと船尾の舵、帆を張ればまごうこと無き帆船が姿を現していた。丸くふくよかな船体から伸びるマストは、工場の天井へ至ろうとするように、高く太く佇んでいる。マストの継ぎ目には帆下駄が突き出していた。


「あぁ、そうだ、カルロ。ちょっとお遣いいってきてくれるか?」


「お遣いですか?」


「依頼した帆がそろそろできてると思うから、ちょっと行ってきてくれ」


 カルロは船を見上げる。


「え、一人でですか?」


「いや、別に一人で運べって言っているわけじゃないぞ。まぁ、運ぶのを手伝えってだけだ」


「はい、行ってきます」


 カルロが威勢よく返事をすると、フェデナンドは小切手を手渡した。カルロは見たことのない桁数の小切手を受け取って思わず姿勢を正す。フェデナンドは組んだ腕でカルロの背中を押した。


「ほら、行ってこい!どうせ隣なんだから!」


「は、はい!」


 カルロはガチガチに固まりながら部屋を後にする。フェデナンドはその後姿を見送ると、帆船を見上げた。


「若いなぁ……」



「おぉ、坊主が来たか」


 造船所の向かいには、帆を編む職人が棟を構えている。

 外装はほとんど造船所の建物と同化しており、運河を挟んだ向かいにある。建物の外にある休憩用のスペースには、目が合うとカルロと挨拶を交わす人々がくつろいでいた。


 足元に焚火によって黒くなった土があり、一枚の麻布と骨組みだけで作られた椅子に腰かける男は、機械のようなぎこちない姿勢で歩くカルロを面白そうに眺めながら手を挙げた。


「あ、こんにちは。……今まで見たことない桁数の小切手が手元にありましてね……」


「大型船になるとこっちも面倒なんだわ。これがさぁ、でかくて工夫しにくくてさぁ」


 男は立ち上がると、伸びをして向かいから橋を渡るカルロに向けて呟く。カルロはガチガチになりながら小切手を大事に両手で持ち、機械的に足をあげては踏み出すことを繰り返した。


「そういえば、最近は金にまつわる話題が増えたなぁ……」


 カルロが男に小切手を手渡して呟くと、男は軽々と小切手を受け取って頭上でひらひらと風になびかせて見せた。


「そりゃあおまえ、ウネッザの住人として認められた証拠よ。ここの奴らはよく言えば経済的だが、悪く言えば金ぎたないからな。じゃ、今から出してくるから、ちょっと待ってろ」


 男はそう言うと、小切手を懐に仕舞って建物の中に入っていった。カルロはくしゃみを一回すると、腕を摩りながら微笑む。


(ウネッザの住民、かぁ……)


 暫くして男が戻ってくると、カルロの間の抜けた表情を見て眉を顰める。


「ん?なんだなんだ?妄想でもしてたか?」


「いや、何でもないです」


 男が出てきて暫くすると、大量に積み上げられた麻布が、荷台に乗せられて現れた。

 カルロは笑みをひっこめ、驚きの表情を見せる。

 白い布地が幾重にもおられ、重ねられ、溢れんばかりに詰め込まれていた。


「これ全部ですか……?」


「ん?あぁ、そうだけど……まさかおまえ、こんな布切れで船動かすと思ってたのか?」


 男は冗談めかして手元で小さな台形を作る。カルロは口を開けたまま、首を横に振った。

 背後から荷台に乗せられた幾つかの帆よりはいくらか小ぶりな帆を持った従業員が現れると、男はカルロを指さした。


「おっと、そうだ、こっちはお前が持ってな」


 カルロは、従業員から手渡された帆を受け取る。彼は荷台のそれと何度か見比べる。三角形の比較的小ぶりな帆であり、ずっしりと重量は感じられるものの、持てないほどの重さでもない。カルロは男に礼を言うと、受け取った帆を両手で持ちながら、造船所へと戻っていった。


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