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造船物語 アルセナーレにようこそ!  作者: 民間人。
第二章 博士の葬列
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着工

 翌日、アルセナーレへ向かったカルロが真っ先に見たのは、フェデナンドの前に群がる船大工たちだった。カルロは急ぎその群れに紛れに向かう。


 空は暗い雲に覆われ、昼には雨が降るかもしれない。海に直結し、竣工した船が浮かぶ待機所も薄暗く、波も普段より高く立っている。不穏な波にうたれる出来立ての船舶は、どことなく不安そうに揺られている。カルロは海の側を覗いてみると、海は普段よりも深い青色をしていて、飲み込まれそうな雰囲気があった。


 フェデナンドは何かの設計図を広げながら、丁寧にその説明をしていた。皆揃って真剣で、緊張感に包まれている。その雰囲気に水を差すことは憚られたが、カルロはできる限り大きな声であいさつをした。


「おはようございまーす!」


 大工たちがびくつき、一斉にカルロに視線が向かう。予想以上の反応に、カルロはつい小さな声でもう一度繰り返した。中央で胡坐をかいたフェデナンドは、嬉しそうに腰を上げ、カルロに近づく。頭の弱いカルロにも、吉報であることは直ぐに理解できた。


「おい、ヒーロー!喜べ、お前の案が通ったぞ!」


「えぇっ!?マジで!?」


 カルロは目をひん剥いて驚く。自分のような下っ端の下っ端、弟子にも満たない下働きが出した提案が通るとは思っていなかったからだ。彼は先日の元首と博士の会話を思い出し、もしかしたら大きな力が働いているのではないかとさえ疑った。フェデナンドは確かに責任者であるが、元首の意志までは流石に行き届いていないだろうと考えられる。フェデナンドは硬直しているカルロの肩を叩く。


「まぁ、正直な話な、俺も通ると思っていなかったんだわ。でも、考えてみれば、国としてはあんまり大事にしたくないのかもなって……」


「なんでですか……?」


 カルロは聞き返す。フェデナンドはきょとんとしながら、「知らないのか?」と聞き返す。カルロは黙って頷くと、フェデナンドは設計図でカルロの頭を軽く叩いた。


「おいおい、勘弁してくれよ。あれは元首の恋敵だぞ?相手のハンカチ盗んでまでアプローチしたのに、結局揺らがなかった奴を讃えたくはないだろう?」


「でも、仲良さげでしたよ?」


カルロは首を傾げた。フェデナンドは頭を掻き、溜息を吐いた。


「そりゃお前、大人の付き合いって奴だろうが」


「そういうもんですか?」


 フェデナンドは「そういうもんだ」と切り返すと、手を叩いて工員を整列させる。先ほどまでヤジを飛ばす機会を狙ってニヤニヤしながら二人の会話を聞いていた工員たちは慌てて二列で並びなおす。カルロは右列の一番後ろに並んだ。教会の鐘が鳴り、一気に外が賑やかになると、フェデナンドが右列を指さして叫ぶ。


「材料持って来い!左は工具!カウレスより左後ろは切断の準備しろ、「安っぽい」が大事な大仕事だ!」


「はい!ただいまぁ!」


 一斉に掛け声を上げる。きびきびと新たな仕事の準備を始める。入所して間もないカルロから見ても、かなりの急ピッチで事が進んでいることが分かる。


 材料となる木材はカルロが扱ってきた小型のゴンドラと比較するとやや多いが、それ一つで大船を造るには足りない。初めの木材が搬入されると、すぐさま採寸が開始される。採寸が済んだ木材は、コンベアにでも乗せられているかのようにスムーズに流れ作業が行われ、切断に入る。そのあまりの手際の良さに、カルロは思わず感嘆の声を上げた。


 これまで自分が作ってきたものが前座であったことを、カルロはまざまざと見せつけられた。カルロが運んだ木材が次々と採寸され、設計図に従って目印を付けられ、それが船頭の導きよりも確かに次のラインへと送られる。

 採寸を終えて床の上を滑るように動く木材は、さらに工場の中央辺りで切断される。足と土台で固定された木材に、まずはゆっくりと鋸が入れられる。目印に従い、まっすぐに鋸を引く。鋸が優しく入れられ、素早く、力強く引かれて、木材の削れる音が響く。それが何人もの工員に渡ると、臨床でもしているかの如く何度も、何度も繰り返される。その様は、正しく人々の足を支えるに相応しい勇姿だった。


 カルロも見惚れてばかりはいられない。木材の数こそ少なく、おおむねの仕事が片付くと、採寸を手伝わされた。主には固定を任される。たまたまメルクがこれを請け負っており、カルロはそれに従って木材を固定する。木材への印付けは小さなナイフによって行われる。メルクから手渡された差し金を使って採寸することもあった。木材が何処のものであるかなどは、多くの工員が略称で語るため、カルロは思い出すたびに手を止めることになった。例えば、竜骨と一言で言っても番号振りがなされているため、設計図を頼りに採寸する。危なっかしいため、かなりメルクに止められることになった。


 気が付けば、昼食を取る時間もなく、畳みかけるように流れる材料が次々と整形されていった。その日は、全体の作業でも組み立てがなされる前に、仕事が終わってしまった。

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