その後の話2
優しく揺れる水面の輝きは一層に素晴らしく、端に見た海のざわめきとは違った美しさがある。三角帆が風になびくと、潮の香りと海の男の賑やかな掛け声がする。前方には鋭い船尾のガレー船が先導する。快速船というには些かに遅い気がするが、海賊船の対策は徹底的に行っているという事の表れだ。沖合に出て暫く、遠目には内陸部が後方に見えるが、飽きさせないほどの輝きと穏やかな高い空に、巡礼者たちも歓声を上げる。
巡礼者達はその島に上陸すると、すぐさま鞄を持つ案内人たちの洗礼に会う。礼儀正しい彼らの導きに従い、巡礼者はひとまず、荘厳な出で立ちの聖マッキオ教会へと赴く。讃美歌と共に迎えられた彼らは、旅人の装束に身を包んだ聖マッキオのカンテラの中を見上げ、手を合わせて祈りを捧げた。
巡礼者が陸路を伝って彷徨い歩く様を、笑いながら呼び止める商人達。柔和な笑顔を浮かべた背の高い男のもとに、女性の巡礼者が群がる。彼は女性それぞれの顔や立ち姿を見ながら、美しい装飾品を提案した。つられて案内された女たちを尻目に、男達は美味そうな露店に目移りする。
ゴンドラに乗り大運河を渡った者は、狭い壁が色彩豊かになる様を物珍しく眺めていく。橋の真下から見上げる市場の賑わいも彼らにとってはその意欲を掻き立てるのに役立った。絵師が橋の上でパースを取る。彼は下書き用の鉛筆を走らせながら、高くのぼる太陽と影のコントラストが豊かな町並みを描く。大運河の中央に据えるのは小型帆船の数々であり、荷物を纏めて動き始めるそれにがっくりと首を垂れる。
人の歓声が入り交る市場を潮風が通り抜ける。
市場と比べると人通りもなく、荘厳な教会もない外れには、いそいそと帆を編む人々がいる。その向かいには巨大な工場があり、中に入ると規則正しく並んだ船の数々が出迎える。
威勢のいい掛け声や、面倒くさがりの男が叱られる声、こき使われる新人に紛れて、設計図を片手に声を張る男がいる。
その男はほかの男よりもいくらか背が低く、本土の人間とあまり変わらない。まだ親方には若いが、楽しそうに指示を出す。隣には腕を組んで彼と相談をする男もいる。その屈強な男は、設計図の中を指さしながら、若い男に何かを指示している。若い男は真剣にそれを聞き、工具室の中へと入っていった。
工具室の中で男は、模型を参考にしながら設計図に書き込みをし、満足げに鼻を鳴らした。先程若い男と並びあっていた男が顔を覗かせる。
「おい、カルロ!早くしろ!みんな待ってるぞ!」
「あ、すいません!今行きます!」
カルロは直ぐに現場に戻る。設計図には、正確な喫水の位置やサイズが記載されたほか、端に小さく「設計者 カルロ・ジョアン」というサインが書かれていた。
これで完結となります。長い間お付き合いいただきまして、ありがとうございました。




