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造船物語 アルセナーレにようこそ!  作者: 民間人。
最終章 限りない願いをもって
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黒犬の輪舞11

 会議室では、今も具体的な交渉が続けられていた。主な議題は、教皇庁への請願と、ウネッザの関わりについてである。教会からの返答は特使の派遣であったものの、それは必ずしもジロードを保護する目的とは限らない。ジロード側の危惧は、教会の海の守護者としての地位の失墜である。そうであれば、教会には味方として付いてもらわなければならない。ウネッザは、その場合には足枷となるのだ。


「えー、ウネッザの皆様、現状ではジロードがこの包囲網を突破するための貢献を、あなた方が見せてくれておりません。わが国の危機に対処することは、今後両国との友好関係を築くうえでも重要だと思います」


「それは、具体的にはどのようなことを示しているのですか?」


 ウネッザの外務官が片方の眉を持ち上げ、訊ねる。貴族達を制し、ジローラモが答えた。


「この包囲があることは、ジロードはアーカテニアに勝てない、という心象を教会に与えてしまいます。そこで、この包囲を突破する為に、あなた方の命を賭けて頂きたいのです」


「それは出来かねます。専門家がおりません」


 外務官は整然と答える。貴族の一人が野次を飛ばした。


「囮になって頂ければ十分ですよ!」


 一部の人間が手を叩く。ジローラモはそれを睨みつけ、議場が鎮まるのを待った。


 その時、静まり返った議場にノックの音が響く。その音が砲撃の音と重なったため、会議室は一気にざわついた。ジローラモが入室を許可する。それは、高級な使用人服を身に纏った、ウネッザ人にしては小柄な少年であった。


「カルロ君か。どうしたかね?」


「決心がつきました。少しだけ、時間を頂けないでしょうか」


 会議室の騒めきはさらに強くなる。ウネッザの代表者に混ざって、フェデリコが顔を真っ青にしていた。カルロは彼に向けて、普段通りの笑みを返した。


「いいだろう、話してみなさい」


 ジローラモが机に肘をつき、前屈みになる。


「有難う御座います」


 カルロは丁寧な礼をして、ウネッザの代表団の中に割り込む。ジロードの貴族だけでなく、ウネッザの外務官らも、その行動に驚いて目を見開いた。

 空席の報告者席は最も下座にあり、カルロの立場からすれば、それこそが最も相応しい席であった。

 しかし、カルロはウネッザの代表団のために与えられた席の一番下座に腰かける。そして、用意されていた水差しから空のコップに水を入れると、それを飲み干した。


「すいません、ちょっと緊張しています」


 議場に小さな笑いが戻る。カルロは服装を整えて立ち上がり、笑顔で話し始めた。


「単刀直入に申し上げますと、俺はジロードのために命を捧げる気には全くなりませんでした」


 ジロードの貴族達が騒めく。ジローラモは君主たるべき堂々とした態度で、カルロを睨んだ。

 凍てついた空気が、ウネッザの外務官の間を吹き抜ける。この奇妙な使用人の詳細を知る者は、個々ではフェデリコと数人の貴族だけであった。


「そこで、少し考えました。内側からの砲撃は難しく、中央への砲撃には囮が必要、あるいは、囮があっても難しい。ならば、やはり、内側から崩すよりほかにないのではないでしょうか」


「何を言っているのかね?」


 議場には疑問符でいっぱいになった。カルロは静かに机に両手をつき、笑顔を保ったままで答える。


「そもそもの状況を整理しましょう。あちら側にある情報は、ジロード内部の地理、そしてその船や兵器の特徴、戦略、そして恐らく、ジロード軍船の壁の内部での動きです。伏兵には気づいておらず、また、教皇庁の特使に関する情報もまだ伝わっていません」


「その通りだ。アーカテニアがこちらの情報で知っているとすれば、それはその程度だ」


 ジローラモが答える。彼はイライラした様子で、机を人差し指で鳴らす。その音が、フェデリコの心臓を酷く痛めつけ、彼は姿勢を正し、冷や汗をかいた。


「つまり、此方にウネッザの船があることは知りません。そして、ウネッザの船の中に、突撃船首を持ったガレーがあることも知らない」


「その様ですね」


 ウネッザの外務官が答える。カルロは満足げに頷き、静かに深呼吸をする。


「敵の中に熱源を探知する索敵魔法を持つ者があれば、ウネッザの船が来ていること、そして、伏兵の存在には気づいているはずです。つまり、彼らは、『ジロード籍の船の存在しか認知していない』という事です」


 議場にざわめきが戻る。カルロは一旦言葉を区切り、静かに瞼を閉じた。心地よい動揺の声が彼の耳を通り過ぎていく。外では再び砲声が上がり、直後に海に何かが衝突する音も響いた。


「土塊の破壊のチャンスは一度しかありません。しかし、ジロード船が動き、また、ガレー船が動けば可能になると考えています」


 カルロは言葉を区切る。会議室に満たされた視線がすべてカルロに向けられると、彼は大きな鼻息を漏らし、高揚した笑みを保って口を開いた。


「ウネッザの船が風穴を開けます。今すぐに、帆を用意してください。俺達は、ちょっと大事な用事があるので、失礼します」


 カルロは言い切ると、フェデリコを強引に引っ張り上げ、会議室を後にする。取り残された人々は呆然と立ち尽くし、暫くすると我に返り、教会に関する話に戻った。その先鞭を切ったのは、せっかちな口調のジローラモだった。

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