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造船物語 アルセナーレにようこそ!  作者: 民間人。
最終章 限りない願いをもって
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黒犬の輪舞7

 自室に戻った二人は、一旦床につく。今度は、カルロのために簡易の寝具が支給され、彼は朝に体を慣らす必要がなくなった。


 そして、美しい朝焼けの代わりに砲撃の音で目を覚ました二人は、ジローラモのもとに赴き、情報の共有を行った。


 もっとも、彼らの提供した情報が限定的な物であることは言うまでもなく、ジロード兵達の生の声が、最も重要な情報源となった。

 彼らの報告によれば、ジロードを囲う土壁は、海上の三方を包囲し、ジロード船の往来を防ぐだけではなく、敵の砲撃と同時にその場所に穴を開け、船を正確に射撃するという。さらに、此方からの砲撃に穴を開けることは勿論ないばかりか、砲弾を吸収して再度修復をし、却って堅牢にしてしまうのだという。成分の土自体は柔らかいものであり、砲撃で簡単にはがすことが出来るものの、その分厚さの為に、ジロードの砲弾では削り切れず、直ぐに修復を始めるために、有効な手段は一斉射撃ではないか、という案が出ているという。

 一方で、彼らの包囲が教皇の許可の下行われているのかは不明であり、最後通告もないことから、教皇庁への請願はあえて避ける必要がないという意見が、ジロードの外務大臣からは出された。


 ウネッザを代表する外務官達はカルロとフェデリコが隅で聴聞する中、惜しみなくウネッザの状況を報告した。オマーン帝国特使は一旦ウネッザまでであり、ウネッザでの詳細な会談の後、ジロードからの承諾を得た後に、詳細を相談する予定となっていることを告げ、そちらからの支援を待つ時間がないことを正直に述べた。

 そして、ウネッザは現在、異教徒との対立が再燃することにも考慮し、少し古い型の武器と金を輸送船によって帝国に送っていることを告げた。ジロードの貴族達は当然ざわついたものの、ジローラモの一声で黙った。また、異教徒との対立に配慮している点を、ジローラモは評価した。


 問題はジロードの抗戦が正当性を持つのか、という宗教上の問題であった。これはウネッザではあまり問題に上がらない事項であり、ウネッザの外務官は今後の立ち回りも考慮して、ジロード貴族の激論を静観した。

 正当性の議論はジロードに非がないことを前提に話を進められたが、正統性を決める理由としてはアーカテニアが同胞を攻撃していること、また、アーカテニアはあろうことか自身が利益を独占する為に、同胞を妨害していることが挙げられた。

 一方、ウネッザはアーカテニアの蛮行を食い止めるために、簡単に行軍することのできない遠隔地に対する対抗手段として、異教徒を「利用」しているにすぎず、これは異教徒と交渉し、絶対の神々を信仰していないことにはならないと結論付けた。また、異教徒の被害を拡大する為に、わざと「型落ちの」兵器を提供し、同胞の血が流れることを望んでいないため、正当なものと解釈した。

 むしろ、アーカテニアの唐突なジロード包囲こそ内紛を起こす悪意ある罪業であり、許されざる行為であるとして、教皇に協力及びを請願することとした。


「資源の上ではわが国よりも圧倒的に豊かなアーカテニアだが、異教との戦いのために戦力を温存しており、砲弾も最低限の利用しかできない。彼らは一旦我々の収益を阻むことによって、自己の利益を独占することを目論んでいる。これは労働の対価として神々が許したもうた正しい行いを阻む、赦されざる行為である。わが国の存亡は教会の総意であり、金のために同胞を殺すアーカテニアを許すことはできない。一同、ウネッザと共闘することに不安はあるであろうが、自らの行いに誇りを持って行動しなさい」


 ジローラモは最後に、以下のように述べて会議を閉め、ジロードは全土で抵抗する為に動き始めた。


 会議が終わると、新たな報告が兵士からもたらされた。一斉射撃を試みた結果、アーカテニア帆船一隻に負傷を与えることに成功したものの、轟沈には至らなかったと言うものだ。さらに、その後は敵が距離を取って戦い始めたため、一斉射撃の効果は薄いと判断される、との報告だった。


 陸路を通じた教皇への新たな請願書の提出はアーカテニアの包囲をかいくぐって行うことが出来ることから、外務大臣は直ぐにジローラモに筆を執らせ、議事録を基に作成した手紙を特使に持たせた。


 一旦動き出すと、ジロードの宮殿はウネッザよりも遥かに素早く行動を始める。君主と言うものを中心に築かれた高度な支配体制は、カルロは勿論、ウネッザの外務官も驚かされた。


 ジローラモとウネッザの要人たち以外がいなくなった会議室は殺風景であり、会議の際に気を紛らわすことのないように、徹底的に白で統一された壁がより強調されるようになる。

 ジローラモは会議室で書いた手紙に蝋で封をし、そこにメディスの家紋を象った判を押す。さらに、念を押すようにジロードの国章の判子を押すと、それを直接ウネッザの外務官に手渡し、陸路を通したウネッザとの交流を急いだ。


 そして、肩の荷が下りたジローラモは椅子に深く腰掛け、大きなため息を吐く。彼はカルロとフェデリコも居合わせていたことに気付き、誤魔化すために苦笑した。


「……いやぁ、本当に、骨が折れる……。ウネッザは良くも包囲を掻い潜ったものだ。もう、私はあの戦いぶりに敬意すら感じるよ」


「そう思っていただけたなら幸いです」


 フェデリコは頭を下げる。ジローラモは複雑な感情の入り混じった表情でカルロにも視線を送り、鼻を鳴らす。カルロはあくまで海賊らしい粗雑さを演じ、鼻を鳴らし返した。


「全く、何だねこの使用人は。私なら追い出しているところだ」


 フェデリコは苦笑して返す。カルロは前傾姿勢を取り、机に体重を委ねた。


「ジローラモ様、あと、フェデリコも。これは俺の勝手な行動なのですが、話を聞いてくれませんか?」


「話してみなさい」


 ジローラモは一切の迷いなく言った。カルロはフェデリコにも同意を促す。フェデリコは取りあえず頷く。カルロは深呼吸をすると、真剣な表情をする。


「これは、フェデリコは巻き込むべきではないとドージェ、ピアッツァ・ダンドロには言われた事なんですが、昨日の一件で、フェデリコはもう大人だと俺は判断したので、敢えて隠さずに話したいと思います。アーカテニアを放置するとまずい、もう一つの理由を」


 議場には三人しかいない。ジローラモは胸元で手を組み、少し前傾姿勢を作る。カルロは再び深呼吸をし、真剣な面持ちで語り始めた。

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