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海と商人の都

お世話になっております、民間人。と申します。

今回は海上都市のお話です。ただ、門外漢ですので、かなり更新には時間がかかるかと思います。温かい目で見守ってやってください。

 優しく揺れる水面の輝きは一層に素晴らしく、端に見た海のざわめきとは違った美しさがある。三角帆が風になびくと、潮の香りと海の男の賑やかな掛け声がする。前方には鋭い船尾のガレー船が先導する。快速船というには些かに遅い気がするが、海賊船の対策は徹底的に行っているという事の表れだ。

 沖合に出て暫く、遠目には内陸部が後方に見えるが、飽きさせないほどの輝きと穏やかな高い空に、巡礼者たちも歓声を上げる。その中に紛れて、小僧を卒業したかどうかの年頃の少年が目を輝かせる。


「おぉ、すっげぇ……!」


 右手に白く美しい町並みが広がった。その小さな島々の周囲には杭が打ち込まれ、海の輝きにその影を揺らしている。やがて鮮明になる街並みは、海に面した場所にも家の戸を持つ、独特のものだった。三角帆の帆船、ガレー船の往来は絶えまなく、少し目を凝らせば血液の様な運河には黒いゴンドラが浮かぶ。櫂を持ち器用に立っているのが、地元の男だとすぐに分かる。

 少年は益々目を輝かせる。両手をぶんぶん降り、興奮気味に「すごい、すごい」と連呼する様に、巡礼者御一行も苦笑いだ。


 しかし、苦笑いした彼らさえ、歓声を上げねばならなくなる。やがて顔を出したのは、一際広い広場に建つ、ピンクの立派な建物だった。白を基調とした家々の中でも一層優雅で、広場の前では長いトーガの人々が賑やかに歓談する。そのすぐ近くにある大理石でできたドーム状の荘厳な教会は、水面に揺れてくすんだ様さえ美しく、幻の様な光彩を放つ。

 然し少年は、たった一人、教会も広場もない、通り過ぎたばかりの陸地の端に目を奪われていた。


 見渡す限りの停泊船、六十隻にはなろうかという巨大な船の群れ、帆を畳んでいる帆船よりも、いくらか多いガレー船。美しい水面に揺れる勇姿にこそ、この少年は目を輝かせていた。



 鼻をくすぐる胡椒の匂い、くしゃみが出そうなほど強烈な匂いと、南方海賊の白人奴隷たち。エルフは南北共に一際高価で、従順なコボルトは北方では大人気。夢にまで見た光景に、巡礼者に紛れた少年、カルロ・ジョアンは降り立ったのだった。

 巡礼者たちには案内人たちが各々声をかける。船の整備のため、暫く滞在するように、と言うものだ。カルロは巡礼者ではないので、さっさと道を急ぐ。見慣れぬ長いトーガを着た、背の高い男たちをかき分ける。男達からは、彼に非難の目が向けられる。内地で流行の長いタイツの上にズボン、そして丈の短い上着を重ねた姿は、この町であっても目立つことはない。何せ、ここには長いトーガは勿論、短いズボンにタイツの若者だけでなく、真っ白な布を頭に巻いた、色の黒い男も数多く往来しているのだ。未婚の娘は肌を見せず、逆に既婚の女性は大いに胸元を開く。この町は、色々な流行の最前線でもあるらしい。


 カルロは迷路のような町の中を迷いなく、黒塗りのゴンドラを呼び止める。それに気づいた船頭が船を寄せると、カルロはそれに飛び乗った。船が大いに揺れる。

 船頭は呆れながら、バランスを崩すカルロに問いかける。


「どちらへ?」


造船所アルセナーレまで!」


 船頭は眉を持ち上げ、怪訝そうにカルロを見る。

 眼前の少年は目を輝かせながら伝統の黒い乗り物を追いかける。白く美しい町並みには見向きもせず、ただ、海に漂う船を、漕ぐ櫂の手を、眺めている。

 船頭は今度は優しく鼻から息を吐く。櫂を器用に使い、船を離陸させる。迷路のような町並みの前にまっすぐ伸びる、巨大な運河の流れに揺られながら、船はゆっくりと陸を離れていった。


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