98 なんで増えてるん?
「オーガは集落で暮らしていましたが、家の利用や暮らしぶりまでは、わかりませんね。もう随分交流が有りませんでしたから」
「あ~話が通じなくなって、別れたんだっけか。いつ頃絶縁したんだ」
「そうですね~シュテンがまだ幼かったので7年から8年前程ですか。10年は経っていないと思います」
鬼の長であるイブキが、腕を組み首を捻りながら、記憶を手繰るように答えてくる。
鬼族は、うちの国との交流こそあったが、独立した種族だったが、地龍騒動のおり、村人の疎開先としてダンジョン内の居住施設を提供したり、村まで領域を伸ばして家屋の複製を作成したりした事が切っ掛けとなり、鬼族もナラ公国に加わることになった。
ケット・シー王国にも領域が延びているが、そちらはまだ従来通りだ。まあ、未だケット・シー王にもあったことがないし、領域拡張すらアントニャオ殿下の独断らしい。ばれたら反逆罪なんじゃないかと思うので、ごく限られたものだけが知る秘密だ。
「袂を分かつ前はどんな感じだったんだ?」
「一応、家のなかで暮らしていましたが、粗暴な者は酒を飲んで、そこいらにごろ寝しているなんて事もありましたね」
俺の周囲では、せいぜい居酒屋で寝落ちするやつが居たぐらいだが、飲んでその辺の道端で寝てる人は、前世のTVなどではみたことがあるな。単に酒のせいなのか、野生化しつつあったのかは、微妙なところか。
「オークはどうなんだ?」
ノブタの話では食料を求めて徘徊していたんだよな。当然家なんて無いと思うんだがどうなのだろう。
「土魔法で壁を作り、木材で屋根をかけていました。寝床は柔らかい草で編んだ敷物です。移動が多いので、容易に解体梱包して運べるようにしていましたよ」
「ほう、コボルトでは家の不要論が出ていたというが、オークには無かったのか」
「屋根が少々面倒くさいので、総土魔法で洞窟のような物を作った者も居ましたが、居住性が悪いといって、直ぐ元に戻しました」
その辺の感化が鈍化すると野生化して退化していくのか?
寝床の快適さ程度なら、前世で飼っていた猫にだって拘りがあったから、寝心地とか安心感とは違う、もっと人間らしい感覚が必要ってことか?
或いは、そうした住みかを作る行為が必要か?
「なあモーブ、野生のゴブリンが、時々弓や武器を持っているが、あれは自作しているのか?勿論金属製品は違うだろうけど、みすぼらしい弓を持っていたりするだろう」
「まともな武器は拾い物だな。弓については壊れたものを、再利用したり修理したりはしていた気がする。棍棒や槍は作っていたな。矢については消耗品だから、当然作るだろうけど、出来はまあ酷いものだな」
「ああ、それは何度か見たことがある。一応、石の矢じりを使っていたが、羽根の向きや数が適当できちんと飛びそうになかったが、それでも物を作ることはできるんだよな」
前世では、銃弾が回転しながら飛んでいると、広く知られていたが、実は矢も回転しながら飛んでいる。銃であれば銃身のライフリングによるものだが、弓にはそのような仕掛けがないため、代わりに矢羽根の工夫によって回転を得ている。通常矢を作る場合、鳥の羽根を半分に割いて使用するが、この羽根が湾曲しているため、裂いた羽根は左右で逆の反りになる。この反りが同一方向になるように、半羽根を三枚貼り付けりることで、矢に回転が加えられる。三枚の羽根で、右回転と左回転の、二つの矢を作れるわけだ。因みに羽根が二枚の場合飛行が安定せず、四枚使って卍やその逆向きにした場合、回転が足りずに貫通力が得られないという理由で三枚になった。前世では和弓洋弓問わず、競技用の弓矢は全て三枚羽根だが、儀式用の弓矢はこの限りではなく、クロスボウや弩の場合は、羽根が全くないこともあったそうだ。
「ゴブリンで知性があって争いを好む場合は、どうなのでしょう。オーガにしても粗暴で話が通じないといっても、最低限の知性はあったかもしれませんし、好戦的でも知性如何では、魔物ではなくそういう好戦的な種族という対応になるのでしょうか。それと望む姿に進化するのであれば、外見や生活は全く変わらないけど、知性や心理など内面だけ変わっている事もあり得ますよね」
う~ん。他種族との接点がなければ、十分あり得る話だな。言語理解が及ばないのは、帝国人も同じだから、仮に人外の姿をした帝国人がいた場合、それは魔物と判断するだろうな。逆に好戦的で賢いゴブリンがいたらどうなる?単に悪人ということになるのか?ゴブリンの姿をした善良な者とそうでない者の見極めは、言語理解で善悪判定?なら帝国人は好戦的なゴブリンと同じだよな。
「とりあえず、外見を問わず友好的ならそれでよし。敵対的なら敵ってことで良いんじゃないか。考えたところで容易に線引きなんてできないだろ」
俺が考え込んでいるのをみてか、モーブが言ってきた。
「まあ、そうなるかな。だが、これからは森でゴブリンを見つけても、奇襲や先制攻撃で倒すと言うわけにはいかないぞ」
もっともな意見だと思う反面、なにか釈然としない気がするが、まあ考えてばかりいても仕方がないので、モーブに同意を返す。そして、これまでの情報で分かったことを付け加えた。
「面倒だが、仕方がないだろうな」
あまり実りのなかった会議の後、ゴブリン集落の様子を見る。原始的で拙いながらも十数件の家屋が建ち並び、泥をこね煉瓦や壺を作る者たちや、木々を伐採するための石器を作る者、かまどを前に調理をするものたちに、建材となる木材や蔦を集めるものたちが、楽しげに動いている。
「・・・何か人数が増えてないか?」
最初は、ホブ・ゴブリン村の村人が手伝っているのかと思ったが、よくみれば服装が村人と違っていた。
「どうやら、野良ゴブリンが加わっているようです。あの土を捏ねている腰巻きのゴブリンや、向こうで蔦をむしっている者など、村では見覚えがありません」
「まさかの、善良な野良ゴブリンなのか?しかし、素性がわからないからな。俺が言うまでもないと思うが、新参者が揉め事を起こさないように、監視の目を離さないでくれ」
「わかりました」
「んじゃ、今日も少し指導してくか」
石斧を作っている者の所へ行き、石のノミや釿などを作って見せる。釿と言うのは手斧とも書くが、一般的な斧や手斧が柄と同じ向きに刃が付いているのに対して、釿は直角に付いている上に、柄がJ のような形になっており、これをコツコツと叩きつけ木を削るという大工道具だ。そして、釿で材木を削り、石のナイフで先端を仕上げて木製のスコップを作る。
「ようし、今日は山芋を掘るぞ」
「ぐぎゃ(お~)」
お、副音声が聞こえた。
「道山芋を食べたいか」
「ぐぎゃ(ぐぎゃ)」
・・・副音声の翻訳が、ぐぎゃってなんだ。翻訳ミスか?それとも、語彙が足りなくて、あーとか、おーとか、そんな感じでぐぎゃと言っただけで、言葉に自体に意味はないのか?
「まあいいや、ここにある細長いハートの葉が山芋の葉だ、それとこの黒っぽいのが、むかごといって山芋の実だ、山芋の葉が黄色くなっている今なら、これも食べられるぞ」
説明をしていると、一人が小屋へと戻り素焼きの壺をもって戻ってきた。むかごをいれる入れ物か?仲間内で『お前賢いな』といった感じの会話をしているようだな。まあ、副音声の声は相変わらず微妙なんだが。
蔓をたどり芋を掘り出していると、ゴブリンの一人が突然悲鳴をあげた。
何事かと目を向ければ、ゴブリンが脛をおさえてうずくまっている。間違ってスコップを足にぶつけたのか?と思ったが、ゴブリンの前方に小さな姿。
「ハリウサギだ、全員離れろ」
どうやら、芋掘りで掘っていた近くにハリウサギの巣穴があり、互いの穴が通じてしまったことで、ハリウサギの怒りを買ってしまったようだ。
俺の声に応じて、二人のゴブリンが、負傷したゴブリンを両側から支えて後退する。
ほう、仲間を見捨てないその姿勢と二人で手早く運んだ行動は称賛に値するな。
このまま良い方向に進んで欲しいと思いながら、ハリウサギに目を戻す。
さて、ハリウサギと言うのは針ネズミのようなウサギだが、実際にはその見た目は大きく違う。勿論ネズミとウサギの違いではなく針の違いだ。例えるならハリネズミは毬栗で、ハリウサギはウニだろうか。ハリネズミの針が鎧であれば、ハリウサギの針は武器なのだ。そのハリで飛びかかられると、スパイクのついた棍棒か釘バットのように、掠めるだけで傷を負うことになる。
俺は盾と槍を取り出しかまえるが、俺の隣に並ぶ者がいた。
「お前も戦うのか?」
「ぐぎゃ(戦う)」
穴堀に使っていたスコップを両手で構えてハリウサギを睨むゴブリン。
まあ、ハリウサギの一匹で進化するわけもないし、いずれ狩りもしなくてはいけないんだし、戦わせてみるか。




