96 年の瀬と季節商品
お久しぶりでございます
できれば昨日上げたかったけど、書ききれませんでした
「つまり、12月31日を大晦日とよんで、1月1日を元旦とよんでいる。それぞれが一年の最後の日と最初の日になるわけだ。そして、ここにある商品はそういう時期に売り出される季節商品になるわけだな」
「12月というと、カレンダーとかいうあれですか」
「そう、カレンダーのあれで、この辺にあるのは来年用の新しいカレンダーだな」
「カレンダーとは何をするためのものなのでしょう」
地龍と帝国人問題で慌ただしかった12月も、どうにか一応の決着を得て、無事年の瀬を迎えようとしている。まあ、年の瀬と言っても日本とは文化が違い、ツケ払いどころか借金という考え方がないこの森では、年末だからと言って一般人が支払いに苦心するということはない。年の瀬と感じているのは、この地に来てからの諸問題に、年度を挟んで悩まされずにすみそうだと安堵している俺ぐらいだろう。そして、そもそもこの森では概念としての暦は知られていても、実際に何年何月と知る者はなく、種蒔きや収穫時期を気にかける農業関係者とクシミール元村長だけが、おおよその時期を把握していた。
以前、建国だ公国歴だと言った時の沸き上がりは一体なんだったんだと言いたいが、勢いで言った俺に、同じく勢いで乗ったということだろうか。
「カレンダーとは星の運行周期を元に、時間の流れを年月週日に当てはめ、表したものだな。カレンダーというのは元々他国の言葉で、前世の祖国では暦とも言っていた。それぞれの単位は繰り返しの目安でもあるんだが、前世の世界と全く同じ周期というわけではないようで、月の日数等この世界に合わせて修正されている。しかし、この世界なりの決まりで繰り返しになっているのは同じだから、農業関係では季節の変化や、日暮の時刻を記録することで、作付や収穫の目安になるだろうし、海であれば満ち潮や引き潮の時刻を記録して役立たせることができるわけだ。日常生活では仕事の休みを決めたり、予定をたてたりするのに役立つだろう。この辺のスケジュール手帳などは商売関係者には好評だぞ」
「はあ・・・正直、自分には書くほどの予定は無いですし、スマホがありますからメモもできます。それと手帳が好評なのはスマホが高価な魔道具に思われているので、防犯の意味もあります」
「まあ確かに」
街の外に商売相手がいる場合など、あえて手帳を使うらしい。スマホ目当てに一部の者たちがスマホ所持者を襲う事件があったそうで、その事件以来戦えないものはむやみにスマホを見せないようにしているとか。盗んでも使えないけど、相手はそれを知らないからなあ。なにか対策が必要かな。
「こちらの白いものは何でしょうか?」
黒足との話の合間を縫うように、商品を眺めていた女性店員(そもそも女性の店員しかいない)が聞いてきた。
「それは鏡餅だね。前世における神様へのお供え物のひとつだよ」
「お供えですか、こちらで女神様にお供えしても良いものでしょうか」
「ここにあるんだから良いんじゃないかな。前世の、大年神といわれる穀物神様への供物だったけど、ここは管轄外だろうからこの世界の神様へのお供えになるんじゃないかな。樹脂のケースに入っているけど中身は、餅だから後日下げて食べるんだ」
餅米があれば餅つきなどもしてみたいが、こっちではまだ見つけてないから、樹脂ケースに入ったこのお飾りつきの鏡餅しかないな。・・・以前はこの餅の取り出し方がよくわからなくて苦労した。ネットで調べたら餅の協会?いわく、刃物で縦に切れ目をいれるのが安全な餅の出し方と言うことだったけど、刃物でプラスチック切る時点で安全じゃねえよと、一人突っ込みをいれた記憶がある。まあ、湯煎するのが安全で一番らくっぽいな。電子レンジだと容器が溶けそうで怖いし。
「こちらの飾りや袋などは、何に使うものなのでしょうか」
「門松は神様を迎えるための目印でよりしろだったかな? 袋はお年玉袋だな。正月に子供や目下のものに贈る金銭をいれる袋だよ。古くは供物として捧げた飴玉を子供に下げ与えたことからお年玉と呼ばれるようになったなどの説があるが、その後は時代にあわせ贈り物が変化し、俺のいた時代では金銭が一般的だった。外国でも厄除け効果があると信じられるなどの理由から、同じように新年の祝いに金銭を子供に渡す風習があるとか聞いたよ」
「金額はどのくらいが妥当でしょう」
「小さな子供には、金の使い方を覚えさせるぐらいの気持ちで、少額渡せば十分だよ。働いている子供は個々の事情で変わるだろうなあ」
現代日本と違って子供でも結構働いているし、一部の子供たちは高校生のアルバイト並みに稼いで、しかも大半を家に入れてたりする。でも、皆生活の苦労を体験している子供たちだから、しばらくはお年玉成金で「父親より小遣いがあるぞ」何て調子に乗った子供が出てくる事はないだろう。
「そうだ、鏡餅などは28日から飾るのが一番いいんだ。売るなら急いだ方がいいな」
「いや、もう29日ですよ。過ぎてるじゃないですか」
「忙しかったんだから仕方がないだろ。まあ28日が良い理由は、八は末広がりで縁起がいいからってのと、一夜飾りは神様を迎えるのに前日用意とか失礼だろって理由だな。29は9が苦につながるから忌避されるけど、29を福と言ってあえて選ぶ地方もあるとか。31日が一夜飾りなのはともかく、30日が何故だめかと言うと、古い暦では31日が無かったので昔は忌避され、今も少しその傾向があるとか。でもこの世界なら29でも30日でも大して問題ないだろう」
そして、店舗スタッフは屋外に特設ブースを設けて、急遽年末大売り出しを始めた。値段はともかくお供え関係を大売り出しするってちょっと不味くないか? 俺が言えた義理じゃない? そうだね、俺は黙って・・・ではなく、商品説明しながら販売を手伝います。
・・・もう一人、日本の商品を知ってるやつがいるわけだけど、あいつは何してるんだ?
「龍雄・・・地龍のやつもこの商品を知っているから手伝わせるか?」
あいつはしゃべれないが自動翻訳で副音声が働くんだし、動かなくても視点移動できるんだから、商品説明はできるよな。
「地龍さんならダンジョンに行きましたよ」
「は?」
え、ダンジョン? あいつ何にしにダンジョンに行ってんの。
「何しに? まさかあいつダンジョンボスにでもなる気か?」
「レベルアップか進化で人化スキルを、手に入れるのだとか言われてましたよ」
「あいつスマホを使えないんだが、連絡とかどうするつもりなんだ?」
「リザードマンが数人付いていきました。種族的に繋がりがあるのか不明ですが、リザードマンにとってドラゴンは最上位の存在に思えるのでしょうね、表情はよくわかりませんが、雰囲気は崇拝の対象を得て喜んでいるような感じでした。一方で地龍の龍雄様も転生者ということで『上位龍種であれば人型になれるはずだ。りゅうおうに、俺は成る!皆ついてこい』と叫んでリザードマンを引き連れダンジョンへ突撃されていったとか・・・」
りゅうおう? 竜王でも龍王でもなく、りゅうおうなのか? いや、文字ではなく音で聴くには、三者に違いはないから“りゅうおう”に意味なんてないか。この世界に勇者何ていないし・・・。
「あと、いずれ勇者に世界の半分をどうとか? 勇者ってなんでしょうか」
「まじでDQなの!?」
しかもそのイベントが発生している状況って、俺にとっても看過できない世界なんだけど。戦って倒し、和解して仲間にする友情枠と思って気を抜いたら、実は永遠のラスボス枠だった? 俺の血筋に魔王退治の宿命とか変なアザとか要らないよ。
後日聞いたところによれば、龍雄の目的は人化スキルを得て人型に成る事と、リザードマンを進化させより人間に近い種族にするんだとか。コボルトが進化して犬耳としっぽの犬獣人になれるならリザードマンもなれるだろうという考えらしい。リザードマンはコボルトの人化について興味もなくむしろ否定的だったようだけど、龍雄が人化するなら自分達も従おうという話になったとか。とくに女性のリザードマン・・・リザードウーマン? 方が乗り気だとか。新たな種族として龍人が生まれそうな感じ?
急に叫んだ俺に驚いてあたふたした店員をなだめつつ店の手伝いを終える。久しぶりに普通の仕事をしたなと思いつつ、ふと店の給与や休みなどがどうなっていたかと考える。
確か最初は店の商品を自由にする条件で移住してもらい、街が大きくなってからは給料制にして、義母とハイ・コボルトやリリパットの女性に丸投げしたんだったかな? バラルは外の店を始めるときに品だしの手伝いでよんでから、商店街の責任者に任命して丸投げしたんだよな。うん、考えて見ると俺も大概だ。日本でこの経営したら半年持たずにつぶれるか、社員が逃げるかしているな。年が明けたら確認しよう。




