91 凶報
「オーガの集落が何者かに襲われて全滅しました」
「は? オーガが全滅した?」
「はい」
「・・・シュテン、それは確かなのか」
「昨日、我らの里にまで騒ぎ声が聞こえてきたので、今朝確認に向ったのですが、住みかの至るところに死体が散らばった状態でして、何者かに襲われたのは間違いが無いかと」
「死体の状態はどうだったんだ? 刃物か爪か、或いは噛みつかれた痕なのかとか見分けがついたか? それと生存者は無いのか」
「ええ、大きく切り裂かれた傷のほか、噛み千切られたような歯形がありましたので、人サイズではなくもっと大きな四足の魔物などに襲われたのではないかと思います。今のところ生き残りは見つかっていません」
「そこまで確認できたのなら、魔物はいなかったのだろうけど、オーガ以外の死体は一つもなかったのか?」
「無いですね。ですが足跡らしきものはありましたので、写真を撮ってあります」
シュテンから見せられたスマホを覗き込むと、人の手の倍以上ある大きな足跡らしきものが写っている・・・。
「二種類の足跡がありましたので両方撮ってあります」
言われて画像を切り替えれば更に大きな足跡らしきもの。最初は指の本数が五本で指が長く、二枚目は少し指が短く四つ並んでいる。一見するとワニのようだが二枚目の写真は、何か違う気がする。
「これは現地を確認した方がいいな。黒足は八咫烏と腕の立つものを可能な限り集めてくれ。車両と武器の準備も頼む。シュテンは鬼の集落に戻って大型のワニを持ってきてくれ」
「「わかりました」」
『こちら八咫烏、現地上空に到着しました』
「了解、周囲状況と生物反応を報告せよ」
『現在、生物反応はありません』
「よし、現地を確認しよう」
オーガの住みか。それは折れた木材や草が散らばり、地からは焼けた柱が生え、いたるところに肉片や赤黒いシミが広がる地獄絵図だった。
「凄い臭い・・・だな。黒足、大丈夫か」
「きついですが、はじめての臭いでもないですから・・・」
ああ、コボルトも熊に襲われたさいに大分被害を出していたんだっけか。
焼けた木材の臭いと血の臭い・・・そして腐臭で噎せそうになる。昨夜の今で腐っているわけでもないだろうから、腐臭についてはおそらく、内臓から出たものの臭いが混ざっているのだろう。
「ワニと比べて遥かに大きいが、それ以上に足跡が違うな」
シュテンの持ってきてもらったワニの足で、足形を作って襲撃者の足跡と見比べる。ワニという生き物は、指の間に水掻きがあり、それは前足よりも後ろ足の方が大きいのだが、それでも指自体はそこそこ長い。しかし、残された足跡は明らかに形状が違い、水掻きはなく前足よりも太い指と爪、それを包む丈夫な肉を連想させる足跡だ。それに踵の所に深く刻まれた爪跡もきになる・・・。
「お館様、この火災は小屋のなかからではなく、外側から燃えているようです」
「外から? シュテン、オーガの暮らしはどうなっていたんだ」
「オーガも一応火を使いますが、住居があの小屋ですから、中では火を使わないと思います。夜間の火についてはよく知りませんが、それでも火災を避けるために最低限の焚き火だったと思います」
「それにしては・・・・」
かつてのコボルト同様に、木の枝と葉で作られた小屋のほとんどが、皆焼けて倒壊している。
「これは焚き火から火が移ったのではなく、火魔法的なものが原因ではないかと思います」
「・・・・魔法を使う補食性の魔物? ゴブリンメイジとかそんな感じ・・・の、わけないか」
死体の噛み跡を見る限り、ワニのような大きな顎と鋭い歯を持った、四足獣っぽい生き物・・・・・・わかった恐竜だな。
「ええ、考えられる魔物としては、いくつかありますが、特徴からドラ」
「ねこ?」
「いえ、ドラ」
「ぐなー?」
「・・・怒りますよ。ドラゴンに決まってるじゃないですか」
やっぱり・・・。
「鑑定、足跡」
【鑑定:足跡】
足跡=アースドラゴンの足跡
・・・・・・
【鑑定:アースドラゴン】
アースドラゴン=地龍
・・・・・え、それだけ?
女神様、日本語に翻訳されただけですよ、もっと情報無いんですか。
ないっぽい。
「足跡は地龍らしいが、地龍は魔法を使うのか」
「いえ、ファイアブレスだと思います」
「地龍なのに? ファイアブレスは火龍ではないのか」
「龍は地水火風の属性に別れているそうですが、自身の属性に加えてもうひとつ使えるそうです。地龍が地と火 水龍は水と土 火龍が火と風 風龍が風と水」
「その組み合わせの理由は?」
「昔から、火山の噴火、土砂崩れや地下水、火災と強風、豪雨と強風などの自然の猛威のいくつかは、龍の仕業だと言われています。まあ、とは言え実際に関連付けされた能力が、伝承そのままとは限りませんが」
「・・・よし、監視用の小屋をたてて、すぐに撤収する。シュテン、鬼族はどうする?うちにくるか」
「そうさせてもらいます。オーガがこれでは、もし集落が襲われたらどれ程犠牲がでるかわかりません」
「ならすぐに、移動をしよう」
鬼の集落をまるごと商品化して、俺の街の中に複製する。元の集落にある家は一時俺の持ち物扱いにして結界を付与し、地下遺跡についても同様の処理を行う。遺跡からダンジョンに入る部分は、物理は勿論、魔法的にも脆いらしいので、結界のついた小屋を並べて塞いでおく。
ダンジョンの壁面を破壊して侵入される可能性もあるが、これについては俺にはどうしようもない。地下であって、地下ではない異空間にダンジョンがあることを願うばかりだ。
「国民には、しばらくの間街の外に出ないよう通達しました。狩や漁についても店のダンジョンを利用するように言ってあります」
バラルから、うちの対応を報告される。物語だと、こういう時って必ず指示を聞かずに外へ出る奴が居るんだよな~ 特に子供とか、チョロチョロ出掛けて地龍に、遭遇したりするんだよな。
「ご苦労様。いっそこの街も残る者を最小限にして、店のダンジョン二階に避難する方向で進めてくれないか。ケット・シー王国を通じて、森全域に注意喚起してもらったから、街外から避難民が押し寄せる可能性があるんだ。その場合、避難民にはダンジョンの帝都エリアに住んでもらうことになると思う。基本的に、ここの家とダンジョンにある複製の家は、元の持ち主のプライベート空間だから、他の者には貸さないけど、同時に避難になると混乱するから、住民は先に生活をはじめてもらいたい」
地龍が、オーガを襲った後消息不明の為、殿下を通じて森全域に注意喚起してもらったが、そもそも地龍が何処から来たのかもわかっていない。地龍というぐらいだし、地中から出てきたのだろうか? 八咫烏を飛ばしているので、そのうち手がかりが見つかるとは思うが、相手の動きが読めないというのは、どうしても後手に回ってしまうものだ。
「オーガの壊滅から三日たっったわけだが、その後全く情報なしか?」
「そうじゃの、八咫烏部隊からは、地面を掘り返した跡を見つけたという連絡はあったが、
穴が塞がっているので、何処へ行ったのかさっぱりじゃ」
長老が腕組みをして首を捻りながら報告してくれる。掘った穴が塞がっているからって、残念そうだけど、穴があったら追うつもりだったのか? その追跡は明らかにヤバイと思うぞ。
「龍というのは どういう生き物なんだ? 肉体が強靭だとかは想像できるが、知能はどうなんだ? 大きなワニという認識で良いのか? それとも人語を解す高い知能をもつのか」
「長く生きた龍は人を上回る知能と知性を、もつと言われるがオーガを襲った龍はまだ子供じゃろうな」
「足跡を見た限りでは相当な大きさだと思うが?」
「あれは恐らく全長で7~8メートルじゃな。しかし地龍の成体ならその倍以上になるはずじゃ」
「マジか」
「龍は基本的に食料を必要とせんらしいから、オーガを捕食したわけでは無いだろうな。恐らく遭遇時に攻撃されて、戦闘になったのじゃな。まだ子供で大きさが中途半端だったことが災いしたな。成龍ならオーガも手を出さずに逃げたかもしれん」
オーガの運が無かったってことか?
「なら、俺たちも向こうが攻撃してくるまでは、手出ししないほうがいいんだな?」
「そうじゃな、小屋に入っておれば結界で防げるじゃろし、戦闘の判断は慎重に頼む」
次回5日です




