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87 砦粉砕

「美味い。このあふれ出す肉と野菜のうまみに、絶妙なソース。これほどの料理を旅先で食せるとは思わなかった」

「最初はくず肉の寄せ集めかと思いましたが、これはもしやあえて肉をこのように刻んでいるのですか」


テオドール・ブルクス伯が感嘆の声を上げ、マークが料理について尋ねて来る。ジェリコは一心不乱に食べ進め、意識を取り戻したバルナールは介護用のやわらかい食事のレトルトをゆっくり食べているが、こちらも味には不満無い様だ。


「ご満足いただけて幸いです。伯爵様方が召し上がられている料理はハンバーグと申しまして、我が国王から教授された料理の一つでして、国民の多くが好む料理であります」

「国民の多く? 貴国においてこの料理は、いかなる位置付けにあるのです」

「我が国は発展中の国ゆえ、多少の貧富の差はあれども、所謂貧民は居りませし、国王は貧民の存在を良しとはしませぬ。そして逆に一握りの特権階級も容認いたしませぬ。どのような者であれ職を得て日々の糧と、安らげる場を得られるよう、心を砕かれております」


テオドール伯はいたく感心した様子で、重ねて尋ねて来る。


「クシミール殿は使節団の代表と言うことでしたが、その目的をお聞きしてもよろしいかな」

「我らの目的は価値観を共有できる方々との友好と、迫り来る脅威への注意喚起を行い、彼の国からの侵略に備えることにございます」

「侵略ですと!? それは一体」

「海を隔てし北大陸の狂信国家、聖光神国にございます。伯爵様が治める領地には、魔法の素養を持つ者や人族以外の者はおられますかな? 彼の国の目的は、そうした異種族や異種族の血統に連なる人族を根絶やしにすることです」

「馬鹿な、何のためにそのようなことを」

「聖光神教とやらの教義においては、異種族を滅ぼしその血統を根絶やしにすることが、彼らの崇める神が復活される唯一の手段なのだそうですよ。ですが初めから存在しない神が復活など、真なる神に逆らう愚かな行為でしか有りません」

「ちょっと待ってくれないか。私も虚像の神を崇めるのは愚かだと思うが、貴殿の言われる真なる神とは何だ。言っては何だが、それもまた同類ではないのか」

「いや、神は居るぞ。俺は神の声を聞いたことがあるし、ケント・・・国王は正真正銘神のご加護を得ている」


ブルクス伯の言葉をモーブが否定する。基本的にモーブは敬語など使わないので、護衛の三人は主に対するモーブの物言いに思うところはあったが、事前にブルクス伯より言葉遣いについては許可が出ていたため、顔をしかめるだけにとどめたようだ。


「なるほど、真なる神のご加護を得ていると。では、神のご加護とはいかなる物か、可能な範囲で良いので教えていただけますか」

「・・・むう」


モーブが唸る。ケントの加護は見れば超常現象であることが理解できるが、魔法のあるこの世界で魔法では無い加護をうまく説明する言葉が見つからない。


「王が加護を得ている事は事実ですが、その内容を我々が口にして良いものではありません。・・・正直、ご覧になれば直ぐに分かるのですがそれもまた難しい。王も神とのつながりや加護を得ている事は事実ですが、王の外見でそれを知る事もできません。・・・そうですね、伯爵様も飲まれた薬が数ある加護の一端と、考えていただいてもかまいません」


クシミールがモーブ代わって答える。


「なるほど。確かにあの薬は神薬といっても良い物ですが、それを神と結びつけるのは、いささか早計では有りませんか」

「・・・薬の効き目は素晴らしいですが、何故薬が加護かと言う理由については、別の理由がありますが、安易にお教えできませんので、ご理解いただけないのも仕方がありません。ですが、交流が進み直接ご覧になれば、ご理解いただけることでしょう」

「クシミール殿」


そこへ、慌てた様子のランデンが部屋に入ってくる。


「ブルクスで動きがあった。奴らいよいよヤル気のようじゃ」

「ブルクスですと!? どういうことです」

「昨日から砦がおかしな動きを見せおったが、いよいよブルクスの制圧に乗り出すようじゃ」

「なんですと」



「お館様、ブルクスと言う町が危険なようですが、帝国兵を叩いてもよろしいですかな」

「え、どういうこと」


暫くして戻ってきたクシミールから物騒な言葉が出た。なんかすっかりヤル気っぽいんだが、どうしたんだろうか。


「北部に駐留しておる軍が、帝国の内乱に乗じて北部の町を手中に収めようとして、都市を威嚇しておるようですじゃ」

「・・・主君の大事に助けに戻らず、この機に遠隔地を占領して、独立してしまおうと言うわけか。前世の戦国時代といわれた頃なら珍しくも無い話だけど、帝国って上から下までろくなのが居ないのか」

「なので、砦をやってしまおうかと」

「う~ん・・・まあいいよ、負けないんだろ?」


戦闘が避けられないなら仕方が無いし、トリッキーな手を使うより力で制圧したほうが、都市への心象はいいよな。白兵戦で戦うわけでもないだろうし、危険も無いだろうな。ダンジョンで車両戦闘もトレーニングしてたし、蹂躙するだけのお仕事だよな。


「もちろんです。ただ、戦力はお借り致します」

「怪我しないように、気をつけてな」


その後、クシミールたちは車両の改造と、天翔壱式の準備をして出かけていった。




「では、これよりブルクス前砦の攻略を始める。公王様の許可はもらった、各員怪我に注意しつつ全力を尽くされよ」

「おおおおおおおーーーーーー」

「では、車両部隊は乗車して突撃、天翔壱式並びに八咫烏は、適時支援攻撃と砦の兵器を上空より破壊しろ。今回は都市の防衛を最優先とする」


そして何台もの車両がゲートを通り、砦へと攻撃を開始する。


「先ずは体当たりで、あの城門を破壊します」


ブルクス伯らは砦からやや離れた場所で、その光景を眺めている。魔物の如く偽装された、いく台もの乗り物が城門へと詰めかけ堅牢であったはずの門を吹き飛ばし、内部を走り回る。中には尖塔に突撃し、それを根元から折り砕いて岩に埋もれる物もあったが、暫くすると付近に現れた黒い何かから、何事も無かったかのように現れ、再び走り出した。そして、空を見上げれば、ドラゴンのごとき物が、自在に空を飛びまわり、時に火を吐き時に飛礫(つぶて)を飛ばし、大岩を空から落とす。それは、ただその質量のみで攻城兵器をたやすく押しつぶし、砦を崩していく。空を飛ぶ物に矢を射掛ける砦の兵士がいたが、いかなる矢も跳ね返され、逆に火炎に追い立てられると転がるように、砦から逃げ出していく。しかし、砦から出た途端、突如開いた落とし穴にはまり落ちていく。


「こ、これは・・・これは戦と呼べるのか」

「なんと言う力だ。森にはこれほどの戦力があるのか」


目の前で繰り広げられる戦い、いや蹂躙劇にブルクス伯らは戦慄する。もし、この力が自分たちに向けられれば、それは目の前の砦と同じ運命を辿ると容易に想像できた。


「我々にとっての敵とは、他者の自由・生命・財産を己の勝手な都合で踏みにじる者たちです。人は時に利害の対立から争いになることもあるでしょうが、そうした()()では、我らはここまでやりませんよ」

「そ、そうか。ブルクスは平和な都市だから、貴国に敵視される事は無いはずだ。是非、良い関係を築いていきたいと思うので、そのあたりお忘れなきように、お願いする」


ブルクス伯が微妙に及び腰になっているが、それは風見鶏と揶揄されようと代々都市を守り続けた、情けなくも卓越した危険回避能力のなせる業であった。


「ええ、こちらも末永く良好な関係を、築けるように努力いたしましょう」


砦は崩壊し、捕らえられた兵士はブルクスに引き渡されて、裁きを受けることになった。彼らはブルクスへの攻撃を主導していた司令官派と攻撃に否定的であった副官派に分けられた後、更に副官派から思想チェックをクリアした者のみ、無罪放免とし他の者は斬首または鉱山労働などとされたが、これらの判断についてはブルクス側によって行われた。



「では、魔道具や便利生活用品に、あの食料や酒を融通して、いただけるのですか」

「はい。ですが我々は、魔道具に必要な魔石の入手のために、優秀な冒険者を求めています。まあ、あまりにも素行の悪い者ではダンジョンに入れませんが、力で身を立てる事も可能ですので、是非ご協力ください」

「しかし南町は遠く、この都市から民が流出してしまっては、ブルクスとしてはあまり意味がありませんよ」

「いえ、それは問題ありません。この都市からダンジョンに入れるように手筈を整えましょう。そうすればダンジョンで稼いだ冒険者はブルクスに戻り、お金を落としてくれるでしょうから。そうそう、つきましてはこちらで使用されている貨幣と我が国の貨幣との交換レートを決めましょう」


次回24日予定です

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